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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第四話・自然体の運ぶ聖十遊技(しぜんたいのはこぶ せんとゆうぎ)
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39 希望(きぼう)

相手の背後からの強襲を成功させるも、奪還までは行かなかったギラム達の前に立ちはだかるジャスティスは不気味な笑みを浮かべたその直後、周囲に変化が起こり始めた。一同の居た空間に幾つも並んでいた機材の間から、突如として大型の鉄製車輪が一同の間を縫うかのように猛スピードで突っ込んできたのだ。音と並ぶスピードで走って来た物体を見かねたギラムは前方に飛び込み回避する中、スプリームは隣に居たアリンを抱えて後方へと退き、間一髪の所で直撃を免れる事が出来た。

しかしそれだけでは、相手の言う『変化』は止まらないのだった。


彼等の間を通過して行った車輪が通った痕跡に対して、よく視ると室内灯の乏しい空間でも解る程の明るさを放つ粒子が敷かれていた。まるで星の砂の様な細かい粒子であり、淡い菫色の光を放っていたその場所から、突如として天井まで伸びる程の鉄格子が生成されてしまったのだ。あたかも彼等との間に『壁』を作るかのように出てきた格子は花を想わせる幾何学的な文様で構成されており、相手の姿は見えるも手足を出す事が出来ない程に細かい網目で遮られてしまうのだった。

「しまったっ……!!」

「フフフッ、リアナスとしての力を持たない状態で突っ込んでくるなんてね。相当の命知らずだったご様子でして?」

「ッ……」

「さて、この状態で貴方をバラバラに引き裂いてしまうのも簡単ですけれど…… それでは観客の方々の反応が、簡単過ぎてつまらないですわ。もっと面白い方法でありませんと。」

相手のペースに完全に入ってしまった事を理解したギラムはその場に立ちあがるも、軽く左足を引きながら短刀を構え相手に背後を取られないよう意識していた。気付けば相手の隣にはサインナ達と応戦していたはずの仲間が歩み寄っており、気付けば二対一になってしまっており完全に不利な状況となってしまった様だ。

今までの創憎主との戦闘であればクローバーの力で魔法を駆使して応戦する事くらいは簡単だったが、現在の状況ではそうはいかない。自らが使えるのは手元にある短刀と身体能力を生かした体術のみの為、下手に遠距離からの攻撃を仕掛けられてしまえば防戦一方である。攻めようにも数では相手の方が上の為、彼は対峙する形を取るのが精一杯の様だった。

「相変わらずと言うか、無茶な網を張らされて考えモノでしたが…… このような戦法で来る事に対して、計算の内だった様ですね。ジャスティス。」

「貴女の占術的な魔法があってこそ出来る事もある事を、忘れてはいけなくってよ。フォーチュン。」

「肝に銘じておきます。」

相手側もすでに余裕の表情を浮かべられる程であり、すでに勝機を得ている様にも見て取れた。それもそのはず、相手は武装はしていても自らと同じ力を使えないのだ。そうでないと感じる方が不思議である。

「………それで。仲間を集め終わったこの状況で、俺とどう戦うって言うんだ。お二人は。」

「あら、まだ戦うつもりの様ですね。今の貴方に出来る事は限られているこの状況でも、貴方はそれを行うと言うんですか。」

「当然だろ。お前等が『命知らず』っていうくらいの事を、俺はやろうと思ったんだ。そんな状況で戦況が悪くなったからって、なんで下手(したて)に出なければならないんだ?」

「フフッ、当然の心理ですわね。それでこそ屈服させる価値があります。」

だがそれでも退く事を選ばないのは、恐らく彼自身の真意なのだろう。どんな状況であても退避して自らの命を優先させる事は無く、今この場に集ってくれている仲間達の頑張りを無駄にはしない事を彼は選んでいたのだ。彼の考えに対して少々首を傾げる教団員達であったが、その方が退屈しないと何処か楽し気な笑みを浮かべるのだった。


一方その頃、鉄格子を挿んだ入口側に隔離されてしまったアリン達。完全に無装備に等しいギラムの救援に向かうべく、各自が使える力を使って壁を打ち破ろうと奮闘していた。

「ギラムさんっ!!」

「駄目だ、魔法が厚過ぎる……! アイツ等、何時の間にこんな陣を敷いてたんだ!?」

だがそんな行動も願いは届かず、一同が放つ力でも諸戸もしない壁に阻まれた状態でアリンは相手の事を呼んでいた。しかし彼女言葉が耳に届いていないのか見向きもしないギラムを視て、彼女は一層焦りを覚えている様子を見せていた。彼女の隣に立つスプリームも武器を手にしたまま格子に対して拳を付けており、こちらもどうする事も出来ない様であった。

「どぉ~? そっちはー」

「ぁっ、貴方はさっきの……」

「リミダムだよぉー その様子だと、こっちもダメっぽいねぇ~」

「『も』って言わないで欲しいわね。貴方何もしてないじゃない。」

そんな二人の元にやって来たのは、別の場所で戦闘を行っていたリミダム達であった。こちらもすでに二人と同じ行動を取った後の様子を見せており、結果は同じなのか軽く肩を竦めながら集まる事を選んだようだ。彼の放つ言葉に対してサインナは不服そうに言葉を続けるも、やっぱり悔しそうである。

「だってねぇ~? オイラの魔法じゃ、こういう防壁系は突破出来ないって解ってるしぃー やるだけ無駄だって、どう見ても固いもん。」

「やる前から諦めてるのか、勝算が無くて見捨ててるのか。どっちかにして欲しいな。」

「無駄な事はしないだけだよぉー ギラムは見捨てるつもりは、なっしんぐぅっ」

「言動と態度があってないのが、本当に憎たらしいわね。ギラムの傍に居なければ、ひっぱたいてやりたいくらいだわ。」

「んにゅー 痛いのは嫌だなぁ~」

とはいえ成す術は無くてもギラムを諦めるつもりだけは無い様子であり、軽く緊迫したムードを解すべく戯れてる様にも見えなくは無かった。元々新参者の為空気が読めていない様にも見えなくはないが、実際の所は仲間達の足を引っ張らない様に出来る事を全力で行っていた。それでも仲間達がどうする事も出来ない状況で落ちてしまった正気を戻そうとしている所は、ある意味彼の良い所だろう。

メアンの様なムードメーカーを担っている所を見ると、彼は全然お荷物ではないのであった。

「……とはいっても、この状況じゃ打破するのは難しいな。ギラムが防戦一方に成っちまったら、勝機はゼロに等しい。」

「何とか出来ないんでしょうか。今のギラムさんには、クローバーがありません。」

「出来る事なら全員で力を合わせて……と言うのが妥当だけれど、私とラクトの力でビクともしないんじゃ話にならないわ。彼のおかげでラクトの力が戻った状態でも、だしね。」

「お嬢の期待に応えられないのが残念なくらいだ。そっちも、状況は同じだろ。」

「あぁ、残念だがな。俺のメイスで壊せない障壁はほとんど無いんだが、これはどうも簡単な魔法で張られた壁じゃないらしい。こう言うのを専門にしてるエリナスから聞いた話を引用するなら、打破出来ないなら『書き換え』じゃないと太刀打ち出来ないらしい。」

「『高度な技術が必用』ってわけか。」

現状をどうにかする作戦を立てるべくスプリームとコンストラクトは話し合うも、結局の所何も出来ないと言う結論が見え隠れしていた。陣を敷いて周囲に結果を出す類の魔法はリアナス達の中でも高度な魔法に部類される為、その魔法に対して相当の修練と熟練の技が必用なのだ。彼の言う『専門のエリナス』が居なければ、素人が手出しをして良い結果が出るかどうかさえ怪しいのも、その意味合いが強く含まれてると言って良いだろう。下手に干渉すれば逆効果を出してしまうのもまた、強力な魔法の打開が難しい部分と言えよう。

そんな手詰まりに等しい状況に一同が溜息を付いていた、そんな時だ。



「だったら、僕達が戦う事以外で出来る事をしようよ。皆。」

「?」

少々落ち気味だった空気を変える様に言い出したのは、一人の青年の声だった。声を耳にした一同が視線を向けたその先には、先程まで姿が見えていなかったグリスンが軽く両手を握りしめた状態で、気合を入れる様に立っていた。どうやら何かやりたい事がある様だ。

「グリスン、お前も無事だったのか。」

「リミダムがラクトの方に行ったのを見たから、スプリーム達の方を援護するつもりだったんだけど……ギラムに先越されちゃってね。状況を視て何とかしようって思って、魔法壁の気配がしたからこっち側に退避したんだ。」

「それで、お前はどうするつもりなんだ。作戦を聞かせてもらいたいな。」

「作戦って言うほどじゃないんだけど…… 皆はどう思う? ギラムの力の正体って、何だと思う?」

「ギラムの力の正体?」

そんな彼の放った言葉を耳にすると、一同は一斉に首を傾げる様な仕草を取り出した。各々が考え事をする様に腕を組んだり肩を竦めたりと行動はバラバラではあったが、何故彼がそんな事を言ったのだろうかと考えている様にも見て取れた。

皆が不思議そうな表情をするのを見てか、グリスンは軽く苦笑しながらも相手の言葉を静かに聞くのだった。

「クローバー……と言う意味では無さそうね。根本的な魔法へたどり着く為の『意思』かしら?」

「そう、皆には皆の抱く『理想』と『形』があるでしょ? 僕には僕の理想があって、スプリーム達にはスプリーム達の理想があって。」

「ギラムさんにはギラムさんの『理想がある』という事ですね。」

「うん、そういう事。」

「確かに、それを理解するだけでも彼の魔法を理解すると言えそうね。クローバーそのものを分析したところで、そんな結果が見えるとは思えないわ。」

「事実、クローバーってリアナスの『望むモノ』が形に成っただけに等しいからねぇ~ 趣味ぐらいしか解らないかも。」

「ギラムの望んだモノは『ドラゴン』ってわけか。龍は力の象徴とされてるが、ギラムはそれを望んだのか?」

「ううん、多分だけどそれは違うと思う。ギラムは『自分が持つ力以上のモノは持ちたくない』って言ってたくらいだから、自力で得た力じゃない限り過信はしないと思う。だから今の状況になっても、戦う事を諦めずに居られるんだよ。」

「魔法なんてモノに依存すればするほど、人間は堕落の道を歩むだけだものね。部下達を視てれば、普通にそう思うわ。」

「手厳しい意見だが、お嬢の考えは妥当だな。」

「じゃあ、ギラムはそれ以外の『モノ』を望んだって事になるが…… グリスンは何だと想ってるんだ。」

その場に集う仲間達の意識が段々とギラムの方へと向けられて行くのを感じていると、スプリームは皆に解を教えて欲しいとばかりに質問を返した。正直に言ってしまえば彼はギラムの事はあまりよく知らないと言って良いくらいに知り会ったのは最近であり、一番時間の長いアリンとサインナがすぐに解らない時点で簡単に解る様な問題では無い事は解っていたのだ。そんな女性人が解らないのであれば、最近一番よく時間を共にしている相棒がその答えを知っていると思ったのは、恐らく彼等だけでは無いだろう。

だがしかし、その返答は明確さには少々かけるモノでもあった。

「あくまで僕個人の直感に近いんだけど、ギラムが望んでるのって『頼れる相手』なんじゃないかな。」

「頼れる相手……ですか?」

「うん。ギラムって基本、自分で何でも出来ちゃうタイプでしょ? 相手に何かを頼む事もそうだけど、相手から距離を置かれやすいから必然的に『独り』に慣れちゃったんだと思う。だから僕も、初めは距離を置かれてた。」

「そうね。彼は確かに、一人で行動する事柄に関しては軍を抜いて強かったわ。チームワークそのものが出来ないわけじゃないけど、相手からの信頼獲得は遅い方だったわ。」

「自らの抱える苦手意識を持ち合わせながらも、それでいて頼れる相手が欲しかった…… グリスンはそう考えてるわけだな。」

「そうだよ。 ……だからこそ、僕はギラムが頼ってくれる『相棒』に成りたいんだ。始めはそんな明確な目標とかはあんまりなかったんだけど、ギラムを視ててそう思ったから……今だとちゃんと言える。僕はギラムの『相棒になりたい』んだって。」

そんな彼の相棒らしい返答を聞いた一同は、何処かしら共感出来る部分があったのだろう。何やら質問に対する回答が一番妥当な正解では無いかと思い始めた様子を見せ始め、気付けば皆に対して何時もの笑顔が戻り始めていたのだ。これに対してはその場にいたリミダムも少し驚いた表情を見せており、まだまだメンバー全員の事を理解していなかったと心の何処かで思うのだった。

「フフッ、素敵な考えじゃない? 出来るかどうかは別として。」

「うっ……」

「ストレート過ぎる意見だねぇ~ オイラも同感だけどぉー」

「うぅっ………」

「おいおい二人共、意識を下げる言い方するなよ。」

「事実だから仕方ないだろ。」

「ラクトまで言うか………」

「……ううん、良いよスプリーム。解ってた事だから………」

『あ、コレ完全に意思を折られたな。』

とはいえ、そんな仲間達から見ればまだまだグリスンはひよっこ同然の様だ。扱いに関しては完全に底辺であり、幾らギラムが強いからと言って彼の株が上に行くはずなど無いのは、ある意味世間でも通用しそうな考えである。力がある人間に集ったところで世間的に評価されるかと問われたら、恐らくそんな事は無いだろう。結局の所『表に立つ相手』と『それを支えている相手』にしか過ぎず、サポート役は何時でも影に仕える存在なのだ。

だがそれ無しでは前者が輝く事が出来ないのだから、後者は常に評価など気にしてはいけないのだ。むしろ前者からしかやってこないであろう評価が最大の褒め言葉であり、そんな相手の為に頑張ろうとする志も大事なのである。頑張った報いがやってこないと感じた方が居るのであれば、どうぞ参考にしていただきたい。

「それで、そんな相棒になりたい貴方は何をするのかしら?」

「僕が出来る事って言ったら、簡単に干渉出来なくなったこの状況でも。ギラムが仲間が近くに居る事を教えてあげる事、くらいかな。僕にはコレがあるからね。」

仲間達の意欲が徐々に戻ったその時、サインナからの問いかけに対してグリスンは手元に武器を召還した。それはつい先ほどまで使用するも一時的にその場から消していた彼のギターであり、今回もまたこちらで演奏を担う様だ。

一同が眼にした彼の武器はいつも通りの井出達ではあったが、今の状況を変えてくれる代物には変わりなかったのだろう。心の何処かで『希望』を見つけた様に、眼の色が何処か明るくなっていた。

「なるほどな、音で魔法に干渉するって訳か。」

「創憎主と一回セッションした事もあったんだけど、相手の想いが形に成った魔法には凄く効果が出るみたいなんだ。皆と一緒に戦った時もそうだけど、ギラムは決して僕を前に置こうとはしなかったからさ。『出来る事をして欲しい』って、何時も言ってくれた。」

「そしたら、その音をギラムに届けるのがベストだな。音を届けるなら『水』があった方が良いだろ。空気よりもよく通す。」

「水をその場に保つなら、空間そのモノを維持しやすい空間にしておくのも良いな。湿度が保ちやすい様に、花も添えておくか。」

「花には適度な光も必要ですからね、水を蒸発させない程度の光はいかがでしょうか。」

「光があるなら風も必要ね。音を遮らない程でありながら、その音を運びやすい様に。」

「ん~、段々良い感じになって来たねぇー オイラもバックアップしちゃうよぉ~!」

「決まりだねっ やろうよ皆!」


「了解!」

こうしてギラムの為に集まったメンバー全員の意気込みが集うと同時に、彼等の掛け声は力強く響くのだった。


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