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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第四話・自然体の運ぶ聖十遊技(しぜんたいのはこぶ せんとゆうぎ)
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37 三方戦線(さんぽうせんせん)

「さぁ、初めから全力で行くわよ!! ラクト!!」

「あぁ、遠慮なく行ってくれ!! 『フィリー・(ひょう)』!」

先手を切る様に行動を取り始めたのは、ギラム達サイドに立っていたサインナとコンストラクトだ。連戦を諸共しない様子で彼女の声に返事を返すと、彼は両手を宙に向け空気中の水分を凝縮させ対象目がけて氷の飛礫(つぶて)を発射した。前方を走るサインナの横を通り過ぎる様に高速で飛んで行った飛礫はそのまま対象の元へと到着したその時、相手は右手を振りかぶり掌で何かをなぞる様に動かした。

その時だ。


ガガガガッ!


飛礫は突如その場に出現した木製の車輪軸に衝突し、相手の元へと到着する前に砕け散ってしまった。攻撃が命中した拍子に車輪が僅かに揺れるも、その場か退く事は無かった。

「フフッ、中々の一撃です事。やはり強者(つわもの)の傍に集うエリナス達も、また強者と言う所でしょうか。」

「否定出来ない必然と言うモノかもしれませんね。」

「話してる余裕など与えないわ! ハァアアアッ!!」


スッパアァアンッ!!!


「ッ!!」

しかしそんな彼の援護を無駄にはしまいと、サインナはそのまま連戦を仕掛ける様に武器を手にしたまま車輪を蹴り上げ、間髪入れずに相手に対し殴り掛かった。爽快かつ乾いた攻撃音が周囲に響くも、相手は手元に小さな車輪を備え攻撃を受け防いでいたのだ。攻撃が綺麗に入らなかった事に対して少し不満そうにするも、彼女はルージュの引いた口元に少しだけ笑みを浮かべているのだった。

「あら、私の一撃をただの武器で抑えようだなんてね。中々やるじゃない?」

「そのお言葉、そのままそっくりお返ししましょう。ただのハリセンで良くやりますね。」

「厚紙だと思って油断させる事にも意味はあるのだけれど、私自身はこの武器が好きなのよ。」


スパンッ!


「戦う事で得る勝敗には、全ての威厳を覆す意味も込められてるわ。一つ一つを薙ぎ払ってでもやるくらいの価値が、この戦いには有るって事よ。」

対峙する様にお互いの武器で攻防をするも、彼女は武器ごと相手の防御を払い後退させる勢いで吹き飛ばした。飛ばされると同時に相手はターンする様に空中でバク転しつつ着地すると、整ったショートボブを揺らす勢いで顔を左右に振り気持ちをリセットするのだった。

「なるほど、それは面白い考えですね。運命の歯車を変えたくなるくらいに、屈服させる価値があります。」

「ほう。お嬢の運命を変えようと言うのか、お前は。」

「私は教団の上位に位置する席『フォーチュン』の名を得た者です。それだけの事をやれる力は、私にも備わっているという事ですから。」

そんな相手の言葉に対してサインナ再び笑みを浮かべだし、戦う相手に不足が無い事を確信した様だった。完全に相手を仕留める気持ちが入った様子で彼女はラクトに声をかけると、相手はその場で頷き後方で待機していたグリスンに声をかけ合図をとった。

するとグリスンは返事をしながら手にした武器の弦を撫で、その場で『バッククロスターン』のステップを踏み二人の援護を取り出した。

「援護するよ! 『ナグド・トルナール』!」

彼がそう叫ぶと同時に周囲にギター音が響き渡ると、二人に対して微量ながらも体感に変化が及びだした。音と同時に彼等の事を取り巻く様にその場に茶色の粒子が突如飛び交い出すと、彼等の身体に馴染む様に移動しその場から次々と消えだしたのだ。すると二人の力が入る手足に籠っていた熱量が高くなるのを感じ出し、二人はお互いに顔を見比べその場で頷きだした。

「良い感じね。これならますます熱くなれそうだわ……!」



「ぁっ、良いなぁ~ オイラもやりたーいっ」

「?」

「『クァールル・タイガン』!」

そんな彼の援護が入り動きを見せようとした瞬間、突如別の方角から彼等に対して飛んでくる別の声がやって来たのだ。声の主はグリスンから少し離れた場所に立っていたリミダムから発せられたモノであり、空に掲げた杖で周囲の空気を集め二人に対して援護するかのように風で力を放ったのだった。突如やって来た風に少し身構える二人であったが、風がすり抜けた後にやって来た(みなぎ)る力に対し動揺と高揚した感覚を得るのだった。

「……! 力が……!!」

「オイラも一時的にだけど、力の底上げが可能だよぉー ギラムの為にも、遠慮何て必要ないっ!!」

「フフッ、貴方の言う通りだわ。手早く済ませるわよ!」

「あぁ!!」

急遽味方となった相手からやって来た魔法に隠すことなく二人は笑顔を浮かべた後、その力を無駄にしまいと猛攻を駆けだしたのだ。相手の動きを見た敵側も応戦する勢いでその場に幾つも車輪を創り出し相手の動きを阻害したり防衛したりと、中々にせわしなくその場で交戦をするのだった。



「まさかフォーチュンの占術思考(せんじゅつしこう)に対して、即座の変化を与えられるエリナスが居ましたのね。これは少し計算外でした。」

そんな三人の戦いを横目で見ながら呟いたのは、もう一人の敵である『ジャスティス』と名乗る女性だった。こちらは熱い戦いを繰り広げる二人とは違い冷静に対峙するアリンとスプリームに眼を向けられ、お互いに武器は構えるもその場から動く事は余りない戦いが続いて居た。簡単に言ってしまえば、観察眼による戦いと言えよう。

「今ならお帰り頂く事も可能ですが、お二人にはその考えはおありですか?」

「残念ですけれど、それは否定すべき事柄。我々は実績を得る為に力を拝借し、そして産物を届ける事が使命と言えますので。そちらに居るエリナスからは、普段とは違う感覚も覚えましてよ。」

「ん? 俺が普通じゃないって言う意味なら、それは誰に対しても言える事だろ。初めから『基準』となる存在なんて、居る様で居ないモノだからな。」

「ごもっとも。では『ジャスティス』の名の如く、我々が求める正義を示すとしましょうか。手加減、出来ません事よ。」

だがそんな戦いは長く続くものではなく、先に構えを取り出したのは相手側の方だった。柄が細くも曲線を描いた両刃剣を右手で構えると、左足を後方に下げつつ剣で防御する様に立てながら体制を取りだしたのだ。

独特な構えを取った相手を視たスプリームはアリンとの間に入る様に移動すると、こちらも武器を手にし右足を引きながら即座に動ける体制を取るのだった。

「さてと、ちっとばっかし派手に動かせてもらうか。アリン、何時よりも少し激しい動きでも良いか。」

「えぇ、構いませんよスプリームさん。私もギラムさんへ対する不利益を見過ごすわけには行きませんし、長時間の戦闘は私達が不利ですから。」

「良い返事だ。行くぜ!」

「はいっ!」

そしてお互いに息を合わせる様に言葉を交わした後、スプリームは地面を蹴り相手に向かって攻撃を仕掛けだした。互いが手にする武器が触れると同時に金属音と閃光が飛び交う中、アリンは二人の動きを視ながら的確な位置に雷を落し、距離を保ちながら戦いを繰り広げるのだった。



「ん~ 皆良い感じに壁役になってるって感じだねぇー」

そんな援軍達と敵軍が前方で戦い注意を引き付け合っている時、少し離れた位置で状況を視ていたリミダムは皆の活躍に満足げな様子で言葉を漏らしていた。グリスンと同じく援護役として配置に付いた彼は、今現在やる事が少なく攻撃の術が少ないギラムを護る最終ラインとして身を置いていた。しかし相手の数が少ない事もあって攻め入られる事は無い為、半ば暇を持て余している様にも見えた。

「それにしても、君って本当に僕より『戦闘向きの魔法』なの? さっきの援護魔法、普通に強力だと思ったけど。」

「オイラが使える魔法は『攻撃』と『援護』の両方だから、まぁそう見られても不思議じゃないんだけどねー ギラムは知ってると思うけど、オイラは攻める方がどっちかって言うと好きぃ~」

「だろうな。自分の魔法でコケるくらいだし。」

「にゅうっ、それ言わないでよぉー!」

自身を守る為に傍に居てくれる二人に対してギラムは言葉を向けると、リミダムは軽く憤怒し彼に対して抗議する様に言葉を放つのだった。案の定怒った様子を見せる彼に対してギラムは軽く苦笑するも、その笑みは長くは続かず前方で戦ってくれているアリン達の事を気遣う様に目線を適度に向けるのだった。

クローバーが即座に回収出来ない現状となってしまった今、今の彼に出来る事は味方達の安否を気にし自身が皆の邪魔にならない様に行動する事だ。そのためには自らを守る二人の傍にいる事は当然の選択であり、味方の危機を感じた際に的確な指示を出す事もまた彼にとっての使命と言えよう。だが防戦一方ではいずれ疲労で攻撃の手が薄くなってしまうのも事実の為、計画を練りこの後に繋げなければならないと考えていたのだ。

現に連戦となるコンストラクトは当然の様に体力が続くか心配な部分もあり、元々動く方ではないアリンもまた長期の戦いになれば集中力が続くかも怪しい。故に次の一手を考え動き出さなければ、自分達にとって有利だったスタートもゴールまで引っ張る事が出来ないのだった。

「……とはいえ、アリンとサインナに一方的に戦ってもらうのは悪いからな。確か俺のクローバーを水槽から出したのは、アリン達が応戦してる『ジャスティス』の方だったな。」

「そうだよ。でもどうするの、ギラム。」

「無理に戦闘に入って荷物になるのは避けたいからな…… 手際よく(かす)め取れればそれが一番だが、そんな技量は持ち合わせてねえ。」

「でもギラムなら、普通に鍛えればそれくらいは出来そうだけどね。銃器の扱いも長けてるし、どっちかって言うと手先は器用な方でしょ?」

「あんまり自覚した事は無いが、まぁそうかもしれないな。」

「んー でも今から経験積むには難しいしねぇ~ ……じゃあ、手っ取り早く隙でも作っちゃおうかぁー」

今まで行ってきた戦いがどれだけ手法に満ち溢れていたモノなのかを痛感していると、不意にリミダムはそう言いながら手にしていた杖を高らかに掲げだした。何をするのかと首を傾げていたグリスンとは違い、ギラムは即座に嫌な予感を覚えた様子で彼に近づき動きを阻害する様に彼の手を取った。

「おい待て、なにする気だ。」

「んにゅ? オイラが魔法ぶっ放して、相手が隙を見せた瞬間を狙ってギラムが懐から奪うって戦法ー だめぇ~?」

「何の打ち合わせも無しにやったら、アリン達に被弾しかねないだろ。駄目だ駄目だ。」

「えぇー、それくらい平気だろうにぃー 過保護だなぁ~」

「うっさい。」

案の定危険な賭けをしかねなかった新たな仲間に静止する様告げた後、彼は手を離し軽く考える様に右手を顎元に添えだした。

今回は限られた全て目標を回収し相手を退避させるのがベストの為、相手を負かせる必要のない戦いでもあった。しかし先述の通り普段とは違って自身が出来る事は限られており、切欠が無ければ動く事も周りのペースも乱しかねない状態でもある。下手をすれば先程のリミダムの様に予告無しの行動によって味方がダメージを負う可能性もある為、下手な指示も出せないと言ったところだ。

だがそんな状況でも動かない事を選ばない程、彼は何時だって攻める事を忘れないのだった。

「とりあえず、リミダムはサインナ達に可能な援護魔法を送り続けてやってくれ。力の後押しも可能って事は、多少の治癒関連の魔法も出来るだろ。」

「うん、オイラの得意分野~」

「上等。グリスンはスプリーム達の方に、同じように魔法で援護してやってくれ。俺も出来る限り動いて、奴等の隙を狙ってクローバーを奪還してみるぜ。」

「うん、僕はそれでも良いんだけど…… ギラムの方は大丈夫?」

「安心しろ、無茶だけはしないようにする。お前もこれ以上、俺の事で無駄に心配したくもねえだろ?」

「………まぁ、ね。」

「否定はしねえんだな。」

「う、うん…… ゴメン。」

「良いって、解ってた事だからな。お前等が出来る事をやってくれるように、俺もそれをやるだけだ。全員が生きて帰れるなら、それが一番だぜ。」

そしてその場にいた面々に指示を与えると、ギラムはその場を移動し機械越しに相手側に近づく様に徐々に接近しだした。あたかも隠密を行うかのような動き方であり、相手の死角となる壁際と壁際を上手く移動する様に足音を控えながら移動していた。相手の意識が味方達に向いている今だからこそ、可能と言える動きとも言えよう。

そんな隠密紛いな行動を平然とやってのける自分達のリーダーを視て、残されたグリスンとリミダムは何処か呆れながらも彼らしい動きに対して笑顔を見せるのだった。

「ギラムって、やっぱりオイラ達の事を『道具』としては使う気は無いんだね。解ってはいたけど。」

「君から見てどう思う? ギラムはやっぱり、変な人?」

「うん、十分変かもねぇ~ でも、オイラはやっぱりギラムが好きかなぁー もっともっと、どんな風に活躍してくれるのか、オイラも視て行きたいかも。」

「僕もそう思うよ。 ……だからこそ、心配したってギラムが動くって言うなら止めたくない。むしろ止めちゃったりしたら、下手すれば僕達が負けちゃう可能性だってあるわけだからね。」

「だねぇ~ ……『クァールル・ホワイトレリーフ』」

どんな状況であっても変わらない彼の様子を見て安心したのか、リミダムは再び杖を構えながら魔法を演唱し、相手に気付かれない様にこっそりギラムに対して魔法を放った。するとほんの一瞬だけ彼の背中が光り魔法が到着したのを知らせると、彼等は身体の向きを変えギラムの指示通りに動こうと再び気持ちを入れ替えた。

「よしっ、僕達も盛大に囮に成れるようにしないとね!」

「りょうかぁーいっ!」

そして彼の動きを邪魔せない様派手に動き回ろうと、二人は声を上げその場を走り出すのだった。


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