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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
序章・初花咲いた戦火の叙景(ういばなさいた せんかのじょけい)
13/302

13 朧月の浪人(せんげつ しぐる)

突如現れた謎の空間に迷い込んだギラムであったが、その場にいた謎の存在に違和感を覚えていた。背丈は彼よりも低く綺麗に着こなした着流しが印象的であったが、存在が付けている仮面は大きくまるで何かを隠しているかのようにも見えた。足元を見れば人の色とは思えないほどに灰色掛かった黒い足に草履があり、背後には尻尾の様な物が揺れていた。



「お前、名は何と言う。」

「ぇっ?」

そんな奇妙な存在を目の当たりにするも、ギラムは相手の特徴を知ろうと観察を続けていた時だ。相手は不意に彼の名前を聞こうと質問を投げかけており、仮面越しではあるが目がしっかりと自分を見ている事に彼は気が付いた。怪しくもあり奇妙な違和感を覚える相手ではあったが、彼は正面から相手を見て言った。

「『ギラム・ギクワ』だ。 ……お前は、何て言うんだ。」

繊月(せんげつ)シグル。 あやつには『クレトムーン』と呼ばれる事もあるが、好きな方で呼んでくれて構わない。」

「クレトムーン、だな。」

奇妙な存在に名前を名乗り、相手の名前も聞こうと彼は質問を返した。すると相手は名前を名乗るも、2つ名前がある様子で好きな方で呼んでくれて構わないと言ってきた。何故名前が2つあるのかと彼は疑問に思ったが、詳しい話はせず名前を呼んで返事を返していた。

「俺に、何か用か……? さっきまで居た空間とは違うってことは、お前さんが呼んだって事なんだろ。」

「あぁ、付き人が居なくなり空間の把握が行いやすかったからな。 無礼は詫びよう、用が済んだらすぐに帰郷させる。」

「分かったぜ。 じゃあ、早速で悪いが要件を頼む。」

「御意。」

そんな謎の存在ではあったものの、彼はあまり恐怖心を抱かない様子で言葉を交わしていた。言語が通じる相手である事が緊張感を解いたのか、それとも気にかける事をしてくれたため自分もそうすると決めたのか。理由は何であれ、その場に呼ばれた要件を聞こうと彼はそのまま話をしようと決めた様だ。

相手もそんな彼の考えを察してか、返事を返し空に浮かぶ満月を見る様に顔を上げた。

「心の傷は、癒えたか。 まだ不安を抱え込んでいるようだが、変化が見えたと伺える。」

「……… ……正確に言うと、まだ不安な所はあるな。 俺が思っていた以上に周りは目線をたくさん持っていて、いかに俺が小さい人間なのかって考えさせられる事ばかりだ。 いろんな奴に、迷惑をかけてばっかりだな。」

「だが、お主が言うほど周りは困っていないのだろう。 何故お主は、責任を感じそう背負わざる負えない? 誰も背負う必要が無いと言えば、お主が背負う事も無かろう。」

「まぁ、確かにな。 元々こうやって考え込んで、抱え込んじまうのが俺の悪い癖だ。 誰かに話せば良い事だってあるのに、それを俺はしない。 ……昔からかもしれないし、イマイチ何時とは言えないんだけどな。」

「相手を気遣い、接し、そして抱え込む……か。 リアナスにしては、珍しい考えの持ち主だ。 稀に稀と言っても、過言では無い。」

「一応、褒め言葉って事で受け取っておくぜ。」

「そう解釈してくれて、構わん。」

相手は月を見上げた顔を静かにギラムへと向け、単刀直入に要件を聞いてきた。どうやら彼は誰かの使いであり、自分が今の状態になっている事情を知っている相手。相手が誰であれ何かをしようとしてくれている事を知り、彼は返事をしながら思っている事を隣に居る存在にぶつけていた。



「……だが、まだその変化へと進むためのモノが無い……か。 お前はどうなりたい、俺に聞かせてみろ。」

話を一通りした後、相手は彼に望みはどんなものなのかと質問した。とても普通の会話ではなく違和感が絶えないやり取りであったが、ギラムは左程気にしていない様子で相手の顔を見た後、先ほどの相手の様に月を見た。

「そうだな…… しいて言えば、俺が『組織の中の駒じゃない』って感じられるようになりたいな。 俺は俺であって、その場所に付いたとしても俺であり続けたい。 組織に染まる事は避けられないとしても、それでも……俺であり続けたいんだ。」

「説明は難しいだろうが、具体的には何だ。 それだけでは、相手に伝わらぬぞ。」

「具体的に…… ……誰かに頼る事を、覚えてみたい。 俺を高い望みとして捉える相手が多いんだが、そんな事は実際には無い。 俺は1人の人間であって、ただその場で行える事を全力でしてきた。 そして、俺らしい目線を持ってみたいって……願ってたんだ。 小さい頃から、ずっとな。 頼られる側は解っても、頼る側の事は……俺には解らない。」

「なるほど。」

明確に考えた事は無かったものの、彼は質問に質問を重ねられ、返答に迷いつつも考えを掘り下げて言った。自分はただの人間に変わりはなく、組織間の中に染まって行く事は避けられない現状。現代都市に住む以上それは避けれない事であり、職を持つこと自体がそれに直結せざるを得ない。

仕事柄もそうであり、アリンの様に個性的な部分を見いだせる仕事を彼は行っていない。ゆえに、ずっと怖かったのだろう。



自分が自分で無くなってしまい、何時か周りが敵になってしまうのではないかと。



上へ上へと目指しても、その考えを感じさせる現場は何時だってやってくる。今の彼が手に入れた准士官の立ち位置でさえもそれを払えず、さらに上を目指したとしてもきっと得られる可能性は少ししか変わらないかもしれない。不安な気持ちが多すぎて、前を見続けていたくても、きっとまた立ち止まってしまう。彼はそう考えており、そうならないための手段を何時だって待っていたのだ。


『切欠』と言う名の、変化を。




「……お主の考え方は、確かに今の場には相応しくないだろう。 だがそれ以上に、その力を生かせる場があるかと言えば……(いな)だ。」

「まぁ、そうだろうな。 学業は途中放棄、身体だけが取り柄って言っても間違いじゃない。」

彼の意見を聞き終え、存在は今の彼を取り巻く環境が果して相応しい場かどうかを考えていた。いくら上のポストに着こうとも付きまとうジレンマから解放されるかと言えば、それは無いと相手も考えていた様だ。だが解放を目指してばかりで居たとしたら、それもまた彼にとって幸せな結果が生まれないとも考えている様子を見せた。どちらを取ったとしても、結果的に難しいと言う結論だろう。

「しかし、その考えを感じさせない場が無いかと言えば。 それも否だ。」

「ぇっ……?」

そんな考えをいくつか並べた後、相手は考える際に添えていた右手を動かし、彼に新しい道がある事を告げた。意外な言葉を聞いた彼は驚き相手の事を見ると、存在は静かに彼の方へと身体を動かし言った。

「人は無限の願いを持ち、それを叶える術を見出す力がある。 無論それが成功する輩が全員かと言えば、そうではない。」

「………」

「その願いを叶えようと形にした者も居れば、創られるも結果悲惨な終焉を迎える者も居る。 ……バランスは常に付きまとい、成功へと迎える存在は……おそらく指で数える程だろう。」

人はさまざまな個性を持って生き続け、それを生かす道をどう導き出すかも変わってくる。全ての切欠を目の当たりにする存在はゼロに等しく、彼もまたその切欠に全て気づけてきたわけでは無い。


願い行動しても、それが成功する者は少ないのが現状の中、相手が考える『場』とは何なのか。ギラムはとても気になるも、相手の話をしっかりと聞いていた。

「お前は……そうだな。 憧れになりたいと願う存在が居たら、お前はどうする。 その優しさを持って、術が人それぞれのこの世界。 お前はどうやって、変えて行く?」

「変える……?」

「そうだ。 お主はそれだけの素質がある事を、お主はまだ知らない。 だがそれを知る機会に巡り合え、その先の選択をいつか近い未来で選ぶ事になるだろう。 ……お前はどうしたい。 自分自身が不明確な今、お前はどうしたい。」

「俺は………」

その後彼からの不可思議な話は続き、次第に質問が強いモノへと変わって行った。返事が出来るかさえも解らない難しい内容の中、直面した切欠を彼自身はどうやって乗り越え変えて行きたいか。相手はしばし問いかけを続け、そして彼に考えさせる時間を用意した。


静かに桜が散る中、ギラムは問われた内容を復唱しながらゆっくりと考えだし、そして結論を言った。




「……俺が俺である、俺にしか出来ない事を………やってみたい。 前例何て存在するかも解らない事だって、苦しい事が多いのが目に見えていたって……そうしてみたい。 何時か俺にも、大切な物が見つかるその時まで。 そうしたい。」

彼が望んだモノ、それは最初から変わる事のない物だった。今までずっと抱え込んでいたモノは抱え続け、そして変わらない現状はそのままである事は理解している。だがその空間であっても、知らない切欠でそれを変えられる時が来るような気がしてならない。彼の中で感じられるその感覚で、これからも乗り越え続けてみたい。 それが、彼の結論だった。

「なるほど。 その考えと願いを成功させるには、恐らくお主が考える以上のケモノ道だろう。 それでも進むか、ギラム。」

「あぁ。 ……挫けないとは言わない、折れそうになるのも分かる。 ……でも、何でだろうな。 何時だって俺の事を見ている人が居るって思えると、それだけで前に進み続けられるような気になれるんだよな。 そんな証拠も不十分な感覚だけで、俺はずっとそうしてこれたんだ。 きっとこれからも、大丈夫さ。」

「……確かに、お前は縁で生きて来たに等しい。 ……これからもずっと、そうなるだろう。 周りが知らぬ間に護ってくれる、この世界でな。」

「あぁ。」

その後話を聞き届けた様子で、存在は静かに右手を出しギラムに握手を求めてきた。相手の手を見た彼は同じように右手を差出し、静かにその手を握った。人の様な形をした手ではあったが、その触れた感触は人では無い。



まるで獣の様な手を、彼はしっかりと握り握手を交わすのだった。



「そろそろ、時間も頃合いだ。 この美しい桜に感謝をし、いずれ向かうべき場へと向かうとしよう。 お前は変われる。 安心して、進むが良い。」

握手をし終え相手はそう言うと、ゆっくりと彼の元を離れる様身体の向きを変え歩き出した。これでもうお別れである事を悟りギラムは静かに手を下ろした後、相手は何か忘れていた事を思い出したかのように首を回し彼を見た。

「……ありがとう、クレトムーン。 ぁっ、その前に。 話を戻すが……『リアナス』って、何だ……?」

「お主の様に、憧れになりうる存在の事だ。 世界に幾多と存在する人間の中に居る、稀に見る輝きだ。」

彼の言った言葉を聞いて、ギラムもまた気になった単語を質問した。それは彼が一言だけ呟いた単語であり、時間を遡らなければ忘れてしまうたった1つの単語だ。質問を聞いた彼は静かにそう答え、周囲に吹雪き出した桜と共に消えてしまった。


その後周囲を彩る桜色の花弁に視界を包まれ、彼の意識は遠のいて行った………





「……ムさん。 ギラムさんっ」

「?」

遠くから聞こえてくる言葉を聞いて彼が眼を開けると、そこには先ほどまでいたレストランの光景が広がっていた。辺りを見渡してみると、そこは彼が桜を見るために向かって行ったバルコニーである事に気が付いた。目線を下げてみると、そこには席を外したアリンの姿が。

「大丈夫ですか? 大分お待たせしてしまい、外で身体も冷えてしまったと思いますが……」

「ぁ、あぁ。 平気だぜ。 ちょっと桜が綺麗過ぎて、見とれて寝ちまったんだと思う。」

「そうでしたか。 良かった。」

心配そうに見つめる彼女の姿を見た後、彼はそう返事を返し中へと入り、やって来た食事を口にするのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 少しずつ運命の歯車が動き始めた感じですね、これもギラムが常人とは違うとみなされたからなのだろうか?
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