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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第四話・自然体の運ぶ聖十遊技(しぜんたいのはこぶ せんとゆうぎ)
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35 愚者(フール)

階段へと続く廊下での談話を終えたギラム達一行は、再び歩を進めホテルの上層階へと向かって移動を再開していた。到着した階の廊下を移動しながら階段を昇り、再び到着した階を散策しながら再び上を目指して行く。中々に骨の折れる作業ではあったが、目的のモノがある場所へと目指すため、彼等はひたすら上へ上へと移動をするのであった。

「結構な所まで昇って来たねぇ~ 外の風景があんまり見れないのが、残念っ」

「お前は高い所とかは好きな方なのか。」

「オイラ、ネコだもん。好きだよぉー」

「あぁ、そっか。元を考えれば、大体当てはまるのか。」

「無論違う子も居るけどねぇ。水辺の子なのに『カナヅチ』とか、温暖な気候が得意なはずなのに暑いのが苦手な子とか、はたまた理由があって飛べない『鳥人』とかも居るわけだしぃー」

「なるほどな。」

そんな移動をひたすら続ける彼等は軽い緊張感を紛らわす為なのか、他愛もない話を続ける事が多かった。大体の話の振りはリミダムによるモノが大半ではあるが、どうでも良い話からそうでない話までの話の種に相槌を打ちながら、ギラム達は移動を続けてるのだった。ちなみに先程から終始無言に等しいフィルスターはギラムの肩の上で軽い休息を取っており、寝息を立てながら主人の肩から落ちない様器用に掴まったまま眠っている。

「ちなみにギラムって、そう言う『意外な弱点を持つ子達』の事はどう思うタイプ? やっぱり『変』って思う?」

「んや、苦手なモノは切欠が無い限り克服は難しいだろ。別に変だとは思わないぜ。」

「そっかぁー ギラムは異例側に居るから、そういうのも解るタイプなんだねぇ~」

「お前、俺の事若干小馬鹿にしてるだろ。」

「さぁーねぇー」

だがそんな話も彼の一言であっという間に終止符は打たれ、彼等は何度も何度も緊張感の広がる景色の中を移動する。繰り返せば繰り返す程落ち着かない感覚もやって来るのに対し、ギラムは顔色一つ変えない素振りを見せながら辺りを警戒する事だけは止めようとしないのだった。

元々の仕事の経歴上による忍耐力とも言えるが、実際の所『自身が一番足を引っ張る可能性が高い』と言う緊迫した環境での自己防衛とも言えよう。自らが危険な状態となれば仲間達は冷静でいられなくなる可能性は高く、ましてや地震の為に協力してくれている仲間達を自らのミスで危機へと追いやる事はしたく無い。故に自らが出来る最大限の事をしようと行っている行動とも言える為、常人であれば一番疲労感を感じていても不思議ではないだろう。だが彼にはそんな顔色は一切無い所を見ると、やはり過去の仕事の経歴は飾りではないと言ったところなのかもしれない。一足先に休むフィルスターとは打って変わって、むしろまだまだ動き回れそうな雰囲気すら彼からは出ていた。

そんな時だ。

「……それにしても、敵っぽい姿が無いね。君の話だと、それっぽいのが居るって事だったけ」


ガコンッ!


「ど……ぉおおーーー!!!」

「ん? グリスン?」

交戦する様子の無い環境が続いて居た事にしびれを切らしたのか、グリスンが質問をしようとした瞬間だ。彼の足元にあった灰色のタイルが突如として観音式に開きだし、重力に従って彼は転落する勢いでその場から姿を消してしまったのだ。

隣で普通に喋っていた相棒の語尾が妙におかしい事に気付いたギラムとリミダムが振り返ると、そこには姿を消した彼の落ちた底抜けの床だけが静かに残っているのであった。そして瞬時に何かあったと悟った二人は落とし穴の元へと向かうと、そこには光の入らない暗い縦型の通路が広がっているのだった。

「落とし穴か……! グリスン!! 大丈夫かぁあーー!?」

「な、何とかぁーー……! ……でも、めっちゃくちゃ落されちゃったっぽいーー」

「オイラ達の姿、見えるぅー?」

「ちょっとちっちゃすぎて、表情は見えないぃーー」

覗いた限りでは相手の姿が見えなったため、ギラムとリミダムは大声で相手の安否を確認しだした。すると通路の先から聞き覚えのある声で返事が返って来たのを確認して、彼等は一安心しつつもどうやって助けるかと策を練りだした。

普段であればギラムがクローバーを使用してロープを創り出せば良いだけの話だが、今回はその手法を使う事が出来ない。ましてや今回は戦闘がメインだったが故にその手の携帯品は常時してはおらず、元より軽装だったリミダムにそのようなモノを期待する事が出来ない。お互いにいろいろと考えながらも手助けが出来ない結論に至ると、二人は再び穴を覗き込みながらグリスンに自力で上がってこれるかどうかを質問しだした。するとグリスンからは『自力で出来る限り頑張ってみる』と言う返事が返ってきたのを聞いて、彼等はしばらくその場で待つ事を決め体制を元に戻した。

その時だった。



「何かが罠に掛かったかと思えば、まさかエリナスの方でしたか。」

「!!」

ギラムとリミダムが居るフロア内で、不意に彼等に声をかける存在の影が降り立った。声を耳にした二人は背後へと振り返りながらそれぞれが携帯する武器に手を触れつつ立ち上がると、相手は身に着けていた衣服の裾を掴みながら丁寧な挨拶を彼等にしだした。そこに立っていた人物、それはギラム達がリミダムと合流する前に応戦した修道着を身に纏った別の相手だった。

「お初にお目にかかります、同士であるリアナスの『ギラム』様。私の名はフールと申します。」

「フール……? この落とし穴は、お前の仕業って事か。」

「その解釈で構いません。貴方様のクローバーを拝借し、私達は貴方の力の解析を行うと共に、自らの計画を推進する為にこの場を一度支配下に置かせてもらっている次第です。」

「オイラとギラムの前に現れたって事は、もうそれは終わったって事で良いのかな?」

「いいえ、その解釈には相違がございます。正確に言えば『もう少しでその結果が出る』と言ったところでしょうか。」

「……って事は、お前は俺達の足止めとしてやって来たってわけか。」

現れた相手が敵側である事を確認するとリミダムは自然な素振りでその場を歩き出し、ギラムと相手の間へと立ちはだかった。手元には何時ぞやの追いかけっこの際に使用した杖が握られており、何時でも応戦出来る状態である事を相手にアピールしだした様だ。彼の動きを見たギラムもまた右手に短刀を手にし前方に構えると、相手は特に慌てる様子もなく彼等に話をし続けるのだった。

「先程。第一次防衛ラインが突破されたとの事でしたが、どうやら貴方達はその戦闘には参加していなかった様ですね。戦闘を行っていれば、こんなに早い到着は有り得ませんので。」

『……って事は、メアン達は無事に勝利したってわけか。』


「落とし穴で貴方を落してしばらく足止めを行うつもりでしたが、その計算にも少々の狂い有りと見ました。少しばかり、私のお相手をしていただけますか? ギラム様。」

「正直言っちまえば、あまりそういう戦闘は行いたくないんだがな。魔法じゃない生身の戦闘となると、加減が難しいからさ。」

「あら。 ……では貴方は『勝率』では無く『死傷者』と言う観点から行いたくない、と申されるわけですね。」

「あぁ、その解釈で構わないぜ。数が多かろうと少なかろうと、俺はそう言う風に考えて応戦するシュミレーションをしているつもりだ。劣勢だからって戦わない事を選ばないなんて事は、俺はしないぜ。」

「ギラムは自分一人で片付けちゃうタイプだから、正直言っちゃうと『会話』で足止めの方がよっぽど利口だと思うけどねぇ~ オイラはどっちかって言うと戦闘寄りだから、遠慮なく魔法打っちゃうよー?」

「あらあら、事前に戦意を削る方々でしたか。確かにこの様な方達は異例であり、エンぺラーがお気に召す理由も解る気がしますね。」

彼等の話を聞いた相手は少し考え込むような素振りを見せつつ、どうしたモノかと少しだけ首を傾げだした。即座に襲ってこない所を確認したギラムは視線を少しだけ後ろへと向けつつ、未だにグリスンが上がってこない現状を把握した。出来れば彼を残してこの場を立ち退く事だけはギラムは避けたいと考えており、リミダムの言う通り『会話』で時間を先延ばしできれば一番有難いと思っていた。

ある意味リミダムも、ギラムの事をしっかりと理解していると言えよう。

「……… なぁ、フールとやら。」

「?」

「お前等はグリスンやリミダムを狙っているって話だったが、エリナスを捕まえてどうするつもりなんだ。単純な助力に対するモノなら、今のやり方を見直す方法だってあるんだぜ。」

「……残念ながら、それは近い回答ではありますが不正解でもあります。そして見直す事すらも出来ない事柄。」

「どういう意味だ……?」


「大方、オイラ達の『提供』そのモノを利用するつもりなんじゃないの? この人達は。」

「提供?」

「あら、どうやら正解に一番近い回答をご存知の様ですね。えぇ、その通り。我々は貴方達『エリナス』を回収し、その素体をそのままに私達が『魔法』を使うための糧とする為です。」

「……って事は『グリスン達を奴隷の様に扱う』って意味か……! 見直す事すら出来ないって意味を踏まえると!」

「その通りです。」

「チッ…… 助力の為に力を貸してくれたグリスン達を欲望の為に捕えるなんて……!! 何てきたねえ奴等だ!!」

戦闘に持ち越す様子の無い相手から告げられた言葉を耳にすると、ギラムは舌打ちしながらも相手を見据える眼光を鋭く変えだした。相手もまたリアナスであれば『獣人達の協力が合って今の状況がある』と言う事であり、それを一方的に利用する為に相手を捕えようとしている行いを許す事が出来ないで居る様だ。ましてや彼の周りに居る獣人達は『利用』とは縁のない者達が多く、純粋に近い形でそばに居るグリスンがそんな扱いを受ける事は遺憾でしかないのかもしれない。

何処となく掻き上げた状態に等しい彼の髪形が怒りで揺れる様な雰囲気を見せる中、相手は彼の『考え』を理解するつもりは無い事を事前に伝えた上で『戦って勝つ』しか方法は無いと言い出した。だがそれでは、得過ぎた力を暴走させて世界を創り変えようとする『創憎主』と何ら変わりのないやり方とも言えよう。正気でありながら平然と口にするところを見ると、相手はそれだけの罪を重ねてきた事が分るだろう。

相手の考えと話を聞かされたギラムの視線が少しばかり短刀へと向けられ、戦うしかないのかと考えだしていた。その時だった。



「それ……でもっ………!」

「?」

彼等の居るフロアに再び別の声が聞こえだし、ギラム達の後方から息切れ寸前で話をしようとする存在の手が現れだした。声を耳にした彼等が振り返ると、そこには一生懸命に穴の中から自力で脱出してきたグリスンの腕があったのだ。転落した拍子に付いたのであろう埃で彼の綺麗な黄色い体毛が汚れているが、払えば取れそうなレベルであった。

「僕達は……ギラムの考えに賛同して……今、ココに居るんだ……! 考えが理解されなくったって、ギラムはココに来る事を選んだんだっ……!!」

「グリスン!」

「君達がギラムに喧嘩を売った時点で、君達の可能性は限りなくゼロに近づいた! ギラムに考えの押し売り何て、出来るわけ無いんだよ!!」

「……! 虎獣人!?」

「僕はそんな君達の事を止める為に、ギラムの隣で行動してるんだ!! 力で何でも変えてねじ伏せられるなんて、思わないで!!」

そしてようやく這い出た穴の中から顔を出すと、彼は大きく息を吸い込み自身の考えを大声で叫ぶのだった。相棒の姿を見たギラムは短刀を背後に納めながら彼の腕を引き、再び相棒の姿を見てホッと一安心するのであった。軽く付いた誇りに関してはリミダムが杖で払う様に体毛を撫でると、埃達は素直に横へと移動し穴の中へと再び戻って行くのだった。

「………」


「随分時間かかったねぇ。ネコ科なんだし、爪でも使えば良いのにぃー」

「弦楽器の演奏に、鋭い爪は使わないでしょっ…… 弦切れちゃうもん。」

「ぁー 確かに。」

「よくやった、グリスン。お疲れさん!」

「エへへ、ちゃんとギラムに褒めてもらったのって初めてかも。落ちたのは僕だけど………」

改めて彼等の元へと戻ったグリスンは嬉しそうな表情を見せると、ギラムもまた釣られて軽い笑みを浮かべ出すのだった。気付けば先程の騒動によって目を覚ましたフィルスターがグリスンの元へと移動しており、彼等は再び笑いながらその場に立ちあがった時だ。

三人のやり取りを視た後に振り返ったリミダムの声によって、彼等は再び小さな驚き声をあげるのだった。

「……んにゅ? アレ、あのヒト居ないよぉ?」

「え?」

「………本当だ。何処行ったんだ?」

「ん~ 気配はないっぽいから、もしかしたら退いたのかも。足止め終わりって感じぃ?」

「じゃあ、今ならクローバーを奪還出来る可能性があるかもしれないね。下手に作業中に干渉したら、危ないかもって思ってたから。」

「あぁ、それなら有り得るな。行くぜ、皆。」

「うん!」

「はぁーい。」

「キュッ!」

辺りを見渡しながら相手からの強襲が無い事を確認すると、彼等は軽く足元に気を付けながらフロアを移動し上層階を目指すのだった。


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