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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第四話・自然体の運ぶ聖十遊技(しぜんたいのはこぶ せんとゆうぎ)
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34 信心(しんじるこころ)

強襲をかけてきた教団員達をメアン達が応戦し、無事に戦いの決着が付いたその頃。一足先に別ルートへと放り込まれたギラム達は、別行動を取っていたリミダムと共に地下から地上に向けてホテル内を捜索していた。双方の状況が良く解らない中での行動ではあったが、不思議とギラムは皆の心配はしておらず自身の行うべき行動をしようと、ただそれだけを考えて歩を進めるのだった。

自身の状況が危ういからと言うモノからではなく、彼女達が敵に負けるはずがない。そう言った『自信』によるが大きいと言える様な、そんな感覚を彼は抱いて進むのであった。


地下を移動していた彼等は、メアン達とは逆に位置するホテルの右側『西棟』の階段を登って上層階を目指していた。地上から地下へと続く階段がそこにしかなかった事もそうだが、下手に彼女達の居る方へと戻ってしまえば、敵が待ち伏せをしている可能性も有り得る。そんな考えがギラムには合ったため、今回は別行動を取る様に気を使って行動していたのだ。

三人がホテル内を捜索しながら再び階段の続くホールへと差し掛かると、壁沿いに背を付けながら上層階へと続く階段へと一同は視線を向けだした。そこには人気のない静かな階段の続くホールが広がっており、辺りにも仕掛け等は施されていない様に見て取れた。ちなみに余談だが、フィルスターは先ほどからギラムの肩に乗ったまま大人しくしており、翼を羽ばたかせる音すらも立てない状態で行動をしている。

「……んー 大分上まで昇って来たけど、何かそれっぽいの居ないぇ~」

「正直言っちまうと、そう何度も敵側と遭遇はしたくないんだがな。戦力差がある時点で、無駄な戦いは避けたい。」

「そう言えばギラム、何で今回は『拳銃』は持ってこなかったの? 銃器の扱いが得意だって、資料には出てたけど。」

上から来るであろう敵の気配が無かった事を確認したリミダムは、一度顔と視線を戻しつつギラムに密かな質問を投げかけた。今回のギラムの武装は『クローバー』を持ち合わせていない為かとても軽装であり、過去に一度『依頼』を行うために赴いた『ヘルベゲール』で所持していた『短刀』のみを腰元から下げていた。銃器の扱いに関しても長けている彼の事だ、本来ならば『拳銃』の一丁や二丁を身体の何処かに忍ばせていても、何の不思議もないくらいの相手と今は戦闘を視野に入れて行動している。しかしリミダムの言う通り、今の彼には銃器の一つすら持ち合わせていない状態で行動をしているのだから、途中で合流した彼が違和感を覚えても不思議ではないだろう。

ましてや彼に関する様々なデータを把握しているのだから、なおの事気になっていた様だ。

「腕前は確かに良い方には入るんだろうが、その分『殺傷力』が強いから使うつもりは無いんだ。サインナからもその提案は受けたが、あくまで魔法は『強弱』が付けられるから使ってるだけであって、相手を足止めとはいえ撃つ為には使わないんだ。」

「そっかぁ。だから腰に下げてるナイフだけなんだね、今回の持ち物。」

「それ以外に使える武器は持ち合わせてねえからな。だからこそ、お前等の魔法が結構頼りって事になってるだぜ。」

「うん、知ってるぅ~」

そんな彼からの説明を聞いたリミダムは納得する様に返事を返し、再び階段へと視線を向けだした。先程から変わりない静かな空間が広がっているが、宿泊棟であるにも関わらず一般市民の姿も見当たらなかったのだ。

その点に関しては違和感を感じても不思議ではないのだが、先程合流したメアン達と共にコンストラクトの姿があったため、ギラムにはおおよその検討も付いていた様だ。彼等が地下を移動している間に『避難誘導』を『治安維持部隊』が行っていれば、人が居なくても不思議ではない。逆を言ってしまえば、今の状態で遭遇する相手は『敵の可能性が高い』という事である。

そんな状況下を静かに伺っていた時だった。

「……んにゅ?」

「どうした、リミダム。」

「ん~ 何かちょっと気になる感じぃ。オイラちょっと見てくるから、ココに居て。」

「あぁ、了解。無茶すんなよ。」

「はぁーい。」

何かを感じ取った様子のリミダムが不思議な声を漏らした後、彼等に一言断りつつ階段へと向かって行った。先程と変わらない歩調だが何処か忍び足で移動している様子であり、足音を最小限に抑えながら手すりに気を配りつつ一段ずつ昇って行くのだった。相変わらず大きな尻尾が左右に揺れている為、仕掛けがあった際にはいろいろと大変そうな彼であった。

途中合流となったリミダムがその場から居なくなると、ギラムの後ろで周囲の様子を見ていたグリスンは静かに振り返り、人差し指で彼の右腕を数回突き出した。不意にやって来た感触にギラムは首だけ相手の方へと向けると、グリスンは小声で話しかけてきた。

「……ギラム、ちょっと良いかな。」

「どうした。」

「話を戻す様で悪いんだけど…… どうしてギラムは、彼の事知ってたの? 何か凄い『面識がある』って感じだったけど。」

「あぁ、その事か。」

先程から変わらない表情を向けていたグリスンであったが、ギラムは彼の質問と眼を視て何処か心配な部分がある事を瞬時に悟りだした。

三人で行動をする前に彼は何処かぎこちないやり取りを行っており、リミダムが敵側である事を初めから知っている様な口ぶりをしていた場面もあった。それはギラムに話していないグリスンだけが知っていた『理由』が原因で起きたモノであり、ギラムもまたサントスから話を振られない限りずっと解らない事だったかもしれない。だが彼はその理由を知っていた為に即座に仲裁させるが如くの行動を取っており、今現在の状況となって行動を共にしてきたのだ。違和感をそのままにしてしまえば彼の動きに支障が出るだろうと思った彼は少し考えた後、彼にリミダムとの経緯を説明しだした。


彼が話した内容は主に三つであり、大まかに掻い摘んで話す中グリスンは静かに話を理解する様に頷きながら話を聞いていた。リミダムと偶然路地裏で出会った話から、彼が理由を持って自身の事を探して街中を追いかけまわされた話。その後もグリスンの忠告を無視させるが如くの接触を繰り返し、彼の上司である『サントス』に出会った話。そしてその上司から話をされた『リアナスを消す』事に関しても、彼は隠す事無くしっかりとグリスンに伝えるのだった。最後の無い様に関してはグリスンの知る情報に食い違いが無いかの確認も兼ねている為、ほとんど相談に近いやり取りでしかなかった。

一通りの話をし終えると、グリスンは再び辺りを確認した後彼から最後の言葉を耳にした。

「まぁ、そんな訳で俺は『リミダムを信じる』って事で考えてるんだが。グリスン、お前はどうなんだ。」

「僕……?」

「お前は俺に危害が及ばない様にって頑張ってる事は知ってるし、リミダムが俺達に何をするかも大体知ってるんだろ? それと俺の意見を踏まえた上でお前はどうしたいか、それが聞きたい。」

不意にやって来た問いかけに対してグリスンは少し考える様に視線を下すと、ギラムは彼の代わりもする様に辺りに敵の姿は無いかと視線を配りだした。双方共に考え事をすると辺りが見えなくなる傾向があるため、こういう場面では親しい間柄の方が何かと便利な所もあると言えよう。

彼の補ってくれていた事柄を行うように周囲を見ていると、グリスンは静かに顔を上げつつ彼にこう言い出した。

「……… 正直に言うとね、僕はギラムがリミダムって子と行動するのは少し反対。あの子達が僕達をリヴァナラスへ送り届けた経緯やいろいろな事情を踏まえて見ても、彼等は何時かギラム達に牙を向ける。それは解ってるんだ。」

「あぁ、それで。」

「そうなる事が分ってて、ましてやギラムの事だもん。『仲間』だと思ってた相手と交戦するなんて事は得意じゃないだろうし、僕としても絶対にさせたくない。だったら初めから敵であるくらいが良いって、思うから。」

「そっか。」


「………でもね、今だとちょっと違うかな。」

「?」

「ギラムは仲間思いだし、敵に対しては容赦ないくらいに力を発揮出来る素質も持ち合わせてる事も解った。だからと言って初めから『敵・味方』って選別して僕が誘導する様な事をしちゃったら、結局は僕やギラムにとっても『良い事じゃないんじゃないか』って思うんだ。あの子を見てると。」

「リミダムか…… アイツ、結構な自由人だからな。上司も手をやかされてるって、言ってたぜ。」

「そんな気がする。あんな子があの計画に関与してるって考えるだけでも、すっごい大変そうって敵側なのにそう思えちゃうくらいだもん。」

「本当、俺もその意見には同意するぜ。 ……でも、それでも奴等には『成さないといけない事』があるって事なんだろうからな。リミダムがココに居る事も含めると、奴等にとっても今の状況は看過出来ないって事なんだろうしな。」

「うん、きっとそうなんだろうね。敵側にとって有利な事に助力する時点で、それはちょっと違う理由が含まれてるのかも。」

「だな。」

彼の意見を聞き終えたギラムは納得する様に頷くと、グリスンは自らの考えを受け入れてくれた事を知り嬉しそうに笑顔を見せ始めた。つい先ほどまでは無表情に近い固い顔付だったのにも拘らず、変化が現れれば即座に変わる事が出来るのはグリスンの良い所なのかもしれない。自らの意見も踏まえた上で考えを聞いてくれる相棒の優しさを知りながら、ギラムもまた口元に笑みを浮かべ出すのだった。

「まだ少し迷う所はあるけれど、僕はギラムを信じるよ。ギラムはリミダムを信じるって言うなら、僕もそれに近づける様にするから。」


「いや、そこまではしなくて良いぜ。」

「え? ど、どうして……?」

しかしそんな表情も即座に変わるくらいに、ギラムは先程とは正反対の事を言いだした。呆気に取られた様子でグリスンは困惑した表情を見せると、彼は意見に対し理由を説明しだした。

「お前が直観的にそう思わないなら、かえってその方が良いことだってある。俺だって苦手な相手に胡麻をする様な事はしねえし、正直それで気苦労かけるくらいなら止めちまいたいくらいだ。世間じゃ通用しない行動だけどな。」

「えーっと……… それって、つまり……?」

「『お前はお前のままでいい』って事だよ。グリスンは俺の相棒であって、俺自身を全部受け入れる必要は無いって意味だ。それだとグリスン、お前の力が伸びない可能性だってあるからな。」

「僕の……まま?」

「そうだ、お前はそのままで居てくれ。そんでもって、お前が一番得意な事を生かしてくれれば良いんだ。お前が苦手な事は、俺が引き受けてやるからさ。」

気付けばグリスンの目の前に立つ彼は何時もと変わらない様子の彼とは違い、何処か誇らしげな部分が湧き出た様な凛々しい顔付と化していた。誰もがうっかり引き込まれてしまいそうな自身に満ち溢れた表情を見せるギラムを見て、グリスンは改めて彼の素質の様な部分に関心してしまうのだった。

彼はどんな状況であっても負ける事は恐れず、絶対に振り返る様な事を選ぼうとはしない。状況が刻一刻と変化する事も当然のように受け入れつつも、誰かのために前へと進んで行こうとする力強さも持ち合わせている。自らの力の一部となっているはずの『クローバー』が手元に無いのにも拘らず、そんな表情を見せる事が果たして同じ状況に置かれた自分には出来るだろうか。

自分とは違う部分がとても強いギラムに再び圧倒されながらも、グリスンは改めて『彼の為に出来る事をしよう』と決意を改めて持ち始めた。

その時だ。


「お待たせぇ~ もうちょっと先で何か気になる感じがするから、その辺りで一戦交える事になりそーかも。」

「そっか。そうなると、今のうちに心の準備くらいはしておいた方が良さそうだな。」

「そうだねぇ~」

一足先に偵察に出ていたリミダムが彼等の元へと戻り、彼等と同じく壁に背を向けながら状況報告をしだした。

話を聞いたギラム達は理解した様子で返事を返しながら軽く手首を回し始め、軽い準備運動をこなす様に身体を動かし始めた。

「……そう言えば君って、オイラと同じ『サポート側』の魔法だったりするぅ?」

「えっ、僕??」

「他居ないでしょー」

「う、うん………基本的な属性の魔法は全般的に使えるけど、他のエリナス達程の力は言うほど出せないと思う。」

「そっか、じゃあオイラの方がちょっと前線寄りって感じだねぇ~ ギラムも今の状況じゃ近接しか向かないだろうしぃ、君はバックアップ担当にしよっか。」

「うん、解った。ギラムの事、一緒に護ろうね。」

「はぁーい。」

そんな合間に双方の魔法の事を理解しようとするのは、恐らくエリナス達が戦い慣れをしているからかもしれない。グリスンとコンストラクトが知らない間に双方の魔法を理解していた事も踏まえ、ギラムは改めて彼等が戦闘に対して前向きな姿勢で居る事を理解するのだった。

戦いを治める為に全力で行くからこそ、各々の戦力となる部分を理解し状況に応じて動きを見直していく。自身が部隊で熟して来た様な行動を取っているからこそ、雰囲気は違えど彼等は皆『戦闘を理解する隊員』である様に感じてしまうのかもしれない。お互いがサポート役である事を知ったギラムも前線で派手に暴れてやろうと、改めて思うのだった。

「……って事でぇ~ ギラム、オイラの魔法は大体解ってると思うけど、いろいろ危なくなったらオイラが援護するからさっ よっろしくぅー」

「あぁ、頼りにしてるぜリミダム。グリスン。」

「まっかせてぇー」

「うんっ」


「キキキュッ」

「あぁ、フィルにも期待してるぜ。」

「キュッ」

今までの戦闘を支えてくれた相棒のグリスンと、非力ながらも頑張って守ろうとするフィルスターに、新たに加わった新しい仲間のリミダム。心強い仲間達の心意気を感じながら彼等はお互いの顔を見ながら頷き合い、前へ向かって進みだすのだった。


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