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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第四話・自然体の運ぶ聖十遊技(しぜんたいのはこぶ せんとゆうぎ)
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33 交代(こうたい)

「……… ………おや、運命が動き出しましたか。」

周囲に広がる闇の中へと誘ったハーミットと呼ばれる女性は、祈祷を捧げていた体制のまま時間経過による変化に気付き出した。自身の足元をおぼろげに照らすカンテラの光の先に広がる闇の一部が徐々に窪み始めると、彼女の元へと近づいてくる足音が響き出していた。

しかし彼女の元へとやって来た人影は、予想とは少し違う数なのであった。

「ぁっ、良かったー イオルん達も無事だったんだねー」

「メアンちゃん達も無事で良かったですよっ お二人も、お怪我はありませんでしたか?」

「あぁ、こっちはよゆーだったぞ。なぁ相棒。」

「五月蠅い即席、相棒言うな。」

戦闘を終えて開けだした闇を抜けてきたメアン達は再び合流すると、周囲の微かな光で互いの顔を認識し合い安否を確認しだした。闇の中に閉じ込められる前まで一緒であったが故に全員が戦闘をこなしてきた事をそれぞれが理解し合うと、その場に残されていたもう一人の教団員の元へと一同は集いだした。

やって来たのが味方ではない事を知った相手は特に動揺することなくその場に座り続け、カンテラの手元部分を少し弄り周囲に広がる光を少しだけ増やすのだった。すると、一同の顔色が全て解るほどの明るさが周囲へと戻り、お互いの表情が分るまでに明るくなるのだった。

「これは驚きましたね。私達の刺客が全て返り討ちにされましたか。」

「さぁーてっと、残ったのはコイツだけってか。どうする?」

「あまり手荒な事をするのは、自分達は好みたくはないんだけどね。一応、君の意見を聞かせてもらえないかな?」

一同がカンテラの周囲へと集いトレランスが問いかけると、彼女は静かに首を横へと振り『降伏する』と返事を返しだした。どうやら元々彼女が得意とする魔法は『戦闘』ではなく、先ほどまでの団員達が得意とする環境化を(こしら)える事が最も得意とする分野だった様だ。気付けば顔元を隠していたフードは背後へと移動しており、その場に居たのは『老婆』だったのだから驚きである。老若男女問わない幅広いメンバーがいる事を改めて理解しつつも、トレランス達は彼女の意見を聞き戦う必要が無い事を知るのだった。

その後返事を返した彼女は再びカンテラを弄ると、周囲に展開されていた闇は再び吸収されその場には元の空間が広がり始めた。やって来た際と同じホールが広がった事を理解した皆は軽く驚きながらも、魔法を使う気が無い様子の相手の動きをしばらく見守る事しか出来ずにいた。役目を終えたカンテラをその場から消すと、彼女は座る体制を変え正座しながら一同の事を見上げるのだった。

「私の役目は終わりましたが、貴方達に提供出来る事は多くはありません。仲間を売る事も、同様です。」

「それじゃあ、それとは違う分野を一つだけ聞かせてもらおうかな。」

「お答え出来る範囲でしたら、一つだけ。」

「十分。自分達はギラムの奪われた『クローバー』を取り戻したいんだけど、それは今何処にあるのかな?」

「ぉっ、早速それ聞いちゃう? 教えてくれるかどうかも怪しいだろうに。」

「でも、聞くだけの価値はあると思うよー さっすがトレランー」

お互いに戦う事を選ばなかった一同は軽く話題を切り替え、今回の目的でもある『ギラムのクローバー』について質問をしだした。今回彼等が一堂に集ったのは『彼の力を取り戻す事』であり、その場で出くわした教団員全員を始末する事ではない。故にそれぞれが魔法を使って戦闘は熟していたが、現に死者は出ておらず怪我はしていても命に別状はないと言ってもいいくらいであった。例外で一人だけその場から飛ばしてしまっていたが、今は対した問題ではないので置いておくとしよう。

そんな彼等の質問に対して彼女はしばし考えた後、彼等に在処を伝え出した。相手が伝えた在処は『今居るホテルの中』であり、どうやら物を持っている相手も数人潜んでいるとの事であった。彼等は返答を聞き個々で返事を返す中、まだまだやるべきことが残っている事を再度知る事となった。

そんな時だ。


コンコンッ


彼等の居た空間に対して物音が響き渡り、一同は音の下方角へと視線を向けだした。そこには戦闘を行う前に出入り口を封鎖した『氷漬けの大扉』が存在しており、音はその扉の奥から聞こえてきたのだ。

「ぁっ、そう言えば扉が氷漬けのままでしたね。コンストラクトさん、お客様みたいですよ?」

「客と言う様な相手では無いな。むしろ親しい間柄だ。」

音を耳にしたイオルに押されるようにコンストラクトは返事を返しつつその場で手を上げ、そのまま横へと逸らし魔法に干渉する様に腕を動かした。すると氷漬けとなっていた扉に(まと)わり付く氷壁に亀裂が入り始め、そのままバラバラに砕けて霧消して行ってしまったのだ。残された扉から聞こえていたノック音が聞こえなくなると、彼は腕を下し扉の先に居る相手に伝える様に言葉を口にした。

「流石お嬢だ、丁度良い到着だったな。」


ガチャッ


「伊達に貴方と組んで行動はしてないわ。そちらも予定通り、と言ったところかしら。」

「あぁ、この程度なら何てことは無い。まだもう一暴れくらいは出来る。」

「上等ね。それくらいでないと、私も満足しないわ。」

やって来たのは外での事前準備を行っていたサインナであり、彼女に続いてアリンとスプリームもホール内へと足を踏み入れだした。味方が増えた事を知ったメアン達は嬉しそうに燥ぎながら何があったのかを簡単に説明する中、その場に残された教団員の一人は近づいてくるヒストリーの姿を見ながら成り行きを静かに見守るのだった。

次々とやって来る一同はどのような経緯があってこの場に集い、そしてまたどんな理由で先にその場から脱出した青年達に付いて行くのか。解が見えるかどうかも分からない内容にしばし思考を巡らせる中、目の前ではこんなやりとりが交わされていた。

「皆さん、遅れてしまい申し訳ありませんでした。ただいま参上しました。」

再凛(さいりん)達も同時に来られたわけか。こっちは良い具合にあったまってるぞ~」

「助かったぜ、棟条(とうじょう)。ココからは俺達が行かせてもらうぜ。」

「おう、そうしてくれると助かるっ そろそろ俺も別の仕事をする時間だったからさ。」

「おやっ? そうすると、ボク達と同じ流れっぽいですね。メアンちゃん、そろそろ出ないと収録に間に合いませんよ?」

「あっ、いっけなーいっ でも無事に終わったから、ちょっと服だけ変えて現場に飛んで行っちゃおうかー トレランー」

「そうだね。その方が世間の眼も慌てさせなくて良いと思うよ。」

どうやら全員が再び歩を進める様子ではない事を聞いていると、近くに座っていたヒストリーは再び立ち上がりイオルの元へと駆け寄りだした。幼い子狐が魅かれるイオルの姿を見ていた教団員は何処か懐かし気な眼差しを向けているも、その視線は誰にも悟られる事無く静かに閉じ、一同の話から外へと連行されることが決定するのだった。

個々の事情からリズルトとメアンとヒストリー、そしてイオルとヒストリーがその場から脱退。代わって後からやって来たサインナとアリン、そしてスプリームが入れ替えで参戦する事が決定していた。


足止めを潜り抜けて先に進むギラムを追いかけるべく、引き続き行動するコンストラクトを含む四人でホテル内を移動する様だ。

「とりあえず、ギラムのクローバーはココにある事が分った。それを奪還すれば、俺達の目的が果たされるだ。」

「フフッ、中々燃える状況じゃない? そっちの方は重要参考人として、丁重に迎え入れる準備は整ってるわ。貴女達、外へ出るついでに外部で待機してる部下達に引き渡してきて頂戴。」

「はーい、かしこまりましたー」

「余計な節介だと思うが、大丈夫かラクト。連戦はそれなりに応えるぞ。」

「同じ雄獣人のお前に言われる事に関しては説得力があるが、伊達に力自慢をしてきたつもりは無い。平気だ。」

「本当に、無理だけはなさらないで下さいね……? ラクトさん。」

「あぁ、解ってる。」

「んじゃ、後は頼んだぜ再凛っ」

「あぁ、任せとけ。」

それぞれが行動する前のやり取りを交わしながら二手に分かれると、メアン達は教団員を間に外への移動を開始した。開いた扉から広がる廊下の移動は比較的簡単な為、数分と掛からずに外へと脱出が出来るだろう。これから戦闘をこなすであろうメンバーは互いの体調を気遣いながら話をすると、別れ際に手を振る仲間達のエールを受けながら背中を向けるのだった。

「では、私達も行きましょうか。地下からギラムさん達が移動しているとのお話でしたので、上へ目指す事にしましょう。」

「そうね、それが妥当だわ。合流出来ればそれで良いし、最悪集団の手下を片付けて進めれば悪い話じゃないわ。」

「ギラムのクローバーを取り返して、俺達へ寄越した恩を返さないとな。」

「そうだな。アイツには危機的状況を打開してもらった借りがある。返さないと気が済まない。」

「決まりね。行きましょ。」

一同が抱く意思を胸に彼等は歩を進め、スプリームとコンストラクトが開けた扉の先に広がる廊下を四人は移動していくのだった。


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