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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第四話・自然体の運ぶ聖十遊技(しぜんたいのはこぶ せんとゆうぎ)
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31 偶像対恋人(イオルVSラバーズ)

ギラム達を敵の本陣へと向かわせるべく、集団の足止めを行う事となったメアン達とは違う場で戦いっていたイオルとヒストリー 敵対した相手を倒すべく行動を取り行い、結果を集団内の皆が勝利を望んでいた時間軸。皆の笑顔を守る為にアイドルとして活動する女性と無邪気な童心が何時までも存在する子狐獣人は、集団内で『ラバーズ』と呼ばれる相手と敵対していた。



「さぁさぁさぁ! オカルトなんて介入する余地無く終わらせてあげますわよ!!」

相手側から動きを見せたイオルとヒストリーの戦闘は、相手の動きを見つつ隙を見て反撃する戦いとなっていた。敵対する相手の手にしたハート型の団扇は風を凪ぐたびに周囲の風を変化させ、そのまま二人に襲い掛かる勢いでカマイタチとなってやって来たのだ。周囲の闇も相まって見切るのが難しい攻撃ではあったものの、イオルの周囲に飛んでいた骸骨が怪しげな眼差しを向ける度に風は視覚化され、それを彼女が避ける形となって動いていた。

代わってヒストリーはと言うとすでに視覚化される前から動きを見せており、どうやら攻撃が見切れる様子でさっさと安全圏外に退避する動きを見せていた。そのためちょくちょく姿を見失うも、最終的にはイオルの元へと戻って来る形で動いていた。

「おやおや、危ない攻撃がいっぱい来ますねー 初歩港ちゃん、大丈夫ですかー?」

「大丈夫ぅー お姉ちゃんはぁ~?」

「ボクも大丈夫ですよっ さぁドクロちゃん、一発相手に反撃してやりましょう!」

自身よりも幼い相手の事を心配しつつも、隙を見てイオルは手にしたマイクを振りかざしながら左手で被っていた帽子に手をかけた。すると帽子は何時しか黒いシルクハットへと変化しており、マイクも姿が変わって細身のステッキへと変化していたのだ。あたかもマジックを披露するかのように彼女は帽子の縁を数回叩くと、次の瞬間には周囲に変化を起こすのだった。

「タウベ! オリーブシンボル!!」



クルッポー…! クルッポー……!!

パタパタパタパタ……!!


帽子の中から出てきた大量の白い鳩達が鳴き声を上げる中、次々と飛び出した鳩達はそのまま相手の横を通り過ぎるかの如く突進を仕掛けてきたのだ。動きを見た相手は手にした団扇で風を煽って鳩達をけん制すると、何匹かは攻撃を受けてその場で消失してしまうも、残った鳩達はそのまま相手の身体に体当たりをするのだった。攻撃すると同時に白い灯となって消えていく鳩は少々名残惜しいも、彼女の魔法はそう言った形に現れる傾向にある様だった。

「今です! 初歩港ちゃん!!」

「はぁーいっ!」

攻撃によって相手の動きが止まった事を確認すると、近くに居たヒストリーは返事をしながらその場を跳び出し空中から相手に強襲をかける形で接近しだしたのだ。あたかも忍が高い塀の上へと乗り移る勢いで飛び出したのを見て、相手は少し怯むも慌てない様子で団扇を振り被った。

「馬鹿ね……! 一本気過ぎる突撃が、私に入ると思って!?」

そう言いながら彼女は扇を振り下ろすと、再び周辺にカマイタチが生成され跳び込んでくるヒストリ―に対して襲い掛かった。攻撃を視るも空中では動きが取れない様子でそのまま彼が突っ込んでいくと、空気の刃はそのまま彼の衣服と体毛を切り刻む様に動く。

……はずだった。



ボンッ!!


「何ッ!!」

「こっちだよぉー!」

「!? 何時の間に!!」

突如切り刻んだ相手の身体が煙に紛れ、忽然と姿を消してしまったのだ。その場に残ったのは彼と同じ背丈ほどの丸太であり、どうやら『身代わりの術』と思わしき技を使用してきた様だ。気付けば背後に回っていたヒストリーは再びその場から跳び出すと、相手の背中に飛び乗りそのまま馬跳びをするかのように相手の事を蹴り飛ばした。跳んだ勢いによって後方へと倒れる相手をよそに、彼は再びイオルの元へと戻り彼女の両腕でキャッチされるのだった。

「お帰りなさい、初歩港ちゃんっ」

「ただいまぁ~ イオルお姉ちゃん。」

相手の腕と共に彼女の胸の中に彼が戻ると、両者は嬉しそうに感想を言い合い笑い合うのだった。軽い一撃とは言え尻餅をつくほどの攻撃を受けた相手は顔を左右に振ると、転んだ拍子に落とした団扇を手にしその場に立ちあがった。気付けば相手の表情からは先ほどまでの余裕はすでになく、完全に相手を倒さんと言わんばかりの眼を向けていた。何処となく殺気立っている様にも見えなくないが、それでも二人は動揺する様子は見せないのだった。

「あらあら、怖い顔してますね。そんな顔をしてると、周りからヒトが居なくなっちゃいますよー?」

「五月蠅い! 黙りなさいっ……! アンタみたいな小娘如きに、こんなにコケにされたのは初めてでしてよ……!」

「んー ボクは言うほどの事はしていないつもりですけど、どうやら貴女とは相性がよろしくないみたいですね。ねぇ、初歩港ちゃん。」

「ヒストリーもそう思うー」

何処となく馬鹿にされている感も拭えない二人のやり取りを聞いてか、相手は尚更気に食わない様子でその場で地団駄を踏む始末である。しかし至って本気の彼女からすれば怒る理由は良く解らない様子で、何処となく首を傾げながら相棒を自身の背中付近に隠すのだった。

『全くっ…… あの不気味な骸骨が浮遊しているせいで、ロクに動く事も出来ませんわねっ……! 相手を放置すれば何をしてくるか解らないし、劣勢過ぎるじゃないの! ハーミット……!』

相手に表情を悟られない様に口元を隠しながら相手は呟くと、手にした団扇を握りしめながらもどういった戦法で行くかと考えるのだった。


二人の行う戦闘スタイルはギラム達とは違い、どちらかと言えば武器ではない魔法に近いトリッキーな戦闘を得意とする動きをしていた。彼女が使う武装は基本的に『マイク』ではあるが、状況に応じて『帽子』を変化させたり『骸骨』と言ったオカルトなモノに近い道具に変化させて扱っていた。明るさもあれば暗さも伺える魔法の仕様は彼女自身が選んだ道によって出来上がったモノの様だが、ココではあえて触れない事にしておこう。

そう言った道具を中心として様々な魔法を放つところを見ると、空想元さえあれば何でも奇跡に近い形になる傾向がある様だ。魔法そのものの力は言うほど大きくないが、後回しにすればするほど厄介な魔法を得意としていた。そのため簡単に要約すると『ギラムよりも遠距離かつ援護向け』と言う解釈で大丈夫だろう。

そんな彼女の援護を使って戦闘を行うのが、契約を交わしたヒストリーの役割だ。元より一人の力では大きく攻める事が出来ない少年の彼にとって、彼女の創り出す魔法はどれも面白く飽きの来ない代物である事を感じていた。そんな楽しみと共に戦闘も楽しく行う彼は『忍びの道具』の代名詞である『手裏剣』を駆使して戦っていた。刃が四つの物からクナイの様なシンプルな物まで多種多様に揃えており、その気になれば『暗殺』だって簡単にこなせる様な物ばかりを使いこなしていた。

しかし先述の通り『一人では攻められない』が故に援護が無ければ彼もまた援護をする事しか出来ないため、誰かと共に戦えば戦う程動きに自由度が増えて行くと言えるだろう。そのため簡単に要約すると、イオルと同じく『ギラムよりも遠距離かつ援護向け』と言う解釈で大丈夫だろう。

それだけ二人は、戦闘向けではない魔法を使う傾向が高いのだ。



「……それにしても、契約を交わしておきながら自らが攻めてこないなんてね。とんだ弱虫ではなくって?」

「? それって、ボクの事ですか?」

「他に誰が居ると言うのかしら。それとも、そこの子狐の力を使わなければ自分を維持出来ない……とか?」

半ば劣勢ではあるが弱気な所を見せたくない様子で、不意に相手は相手を挑発する様な言動を口にしだした。言葉を聞いた彼女が再び首を傾げるのを見て続けた台詞を聞くも、やっぱり彼女は何かが抜けている様子で先程から考え込むような仕草を見せるのだった。口元に人差し指を置きながら腕を組む姿は、傍から見ればアイドルの可愛い仕草にはしか見えない。

とはいえ相手の発言に対して弁解することなく、イオルは軽く頷き何かを納得した様子でこういうのだった。

「やっぱり貴女は、相手を視る眼を持ってるのかもしれませんね。ボクに対してそう言うのであれば、間違いではありません。」

「? あら、今更敵側を褒めるなんてね。どういう風の吹き回しかしら?」

「いえいえ、下手な芝居とかは別に打つつもりはありませんよ? ボクは純粋にそう思っただけであって、その観察眼は評価に値するって言っただけです。」

「すごぉーい。」

「………」

とはいえ現状を置き去りにする程の会話が目の前で行われると、相手もどんな反応をしたらいいモノかと考えてしまうだろう。現に話の急な切り替わりについていけていない様子の相手は唖然とするも、二人は変わらない表所を見せたままこう言うのだった。

「貴女はそれだけの力が合って、それを使う場所を誤っただけなんだってボクは思います。ギラムさんの様に『周りに別の変化を与えられる存在』に成る事を望んでいれば、そうはならなかったって思うくらいです。」

「あら、先程去って行った相手の事をそこまでお慕いしているなんてね。その力を想いと自らの欲望を叶えるために使うべきではないのかしら? 綺麗毎なんて、生涯続くものではなくってよ。」

「それこそ過信ですね。ボクはギラムさんの事が気に入ってますけど、そんな事をしてギラムさんをボクのモノにしたところで『面白くない』事は解っています。それはあくまで『相手からその気にさせる事』が有用であって、インチキをして叶えるべきでは無いですからね。」

「反則はだめぇ~」

「貴女はその過ちを犯したからこそ、ボクと初歩港ちゃん。ギラムさん達を敵に回したんです。後悔は先には立ちませんけど、この後の行いで変える事だって出来るんですよ。止めましょうよ、こんな事。」

「こんな事……ですって……?」

彼女の告げられた言葉によって何かを覚えたのか、相手は少しだけ表情を暗くしつつ下を向きながら怒りを露わにするように小刻みに震えだした。それを見た彼女はすぐさま殺気を感じた様子でヒストリーを背後に隠したまま警戒すると、帽子を頭に戻しつつ右手でマイクを横に構えながら相手の出方を伺うのだった。隠されたヒストリーも軽く顔の位置を変えながら両手で武器の準備をしていると、相手の両手には先程から握られた団扇が二つに増えだした。

「……そうね。愚かな事を言いだすのは、私達『リアナス』達の方…… 純粋に夢見たばかりに馬鹿な過ちを繰り返し続けて、挙句の果てに崩壊の危機にまで手を付けてしまうんですもの……」

「?」

「ですけれど……! それを誘発させるほどの事をしでかして来たのは、一体どちらなんでしょうねぇええ!!」

そして次の瞬間には、相手からイオル達に対しての攻撃が開始された。

単純に言ってしまえば、相手の仕掛けてきた攻撃は単なる『風おこし』でしかない。しかし双方に構えられた団扇から放たれる風は片方でカマイタチが創れるほどであるため、その気になればどれだけの風圧の風を送る事も可能なのだろう。半ば台風と比較出来ない程の強風を浴びると、二人はその場に踏ん張る形で足に力を込め風に耐える様に体制を取りだした。

しかし、

「うわぁああーーー!!」

「初歩港ちゃん!!」

イオルの背中に掴まっていたヒストリーは滑らせた手によって宙へと吹き飛ばされ、そのまま風に舞うビニール袋の如く空を舞いだしてしまったのだ。慌てたイオルは左手を伸ばして彼の腕を掴もうとするも、相手はすでに手の届かない高い位置にまで飛んでしまっており、追いかけるにも出来ない状態となっていた。それを見た相手は再び不気味な笑みと高笑いをした後、団扇を持ったままその場を駆けだした。

「奴等の若芽なんて残さない……!! 力が完成された時を待っているのが貴方達なら、その希望さえも根絶やしにしてあげましてよ!!」

「させませんよっ!!」

飛ばされたヒストリーに追い打ちをかけるべく駆けだした相手を視て、イオルはその場を駆け出し応戦する形でマイクスタンドを横に持ち、相手との間に立ちふさがる様に動き出した。落下しかけていた相手に対して団扇が振り下ろされそうになった途端、彼女の武器がその攻撃に間一髪で立ちふさがるのだった。



ガキンッ!!


「ッ!! 退きなさい、小娘が!!」

「嫌ですっ……!! 初歩港ちゃんの望みを叶えるまでは、ボクは消えないと約束したんです!! 初歩港ちゃんが消えちゃったら、ボクがココに居られる程の願いが消えて無くなる事と同意義なんですから!!」

「小賢しいのよ……!! オカルト娘ぇええ!!」

しかしその程度で止まる相手ではなく、敵は一度スタンドを払う様に両手で押した後、その場で右足を振り上げ武器を蹴り飛ばした。不意の一撃によって武器が手元から無くなり宙を舞うと、相手はそのまま左足に力を入れその場で回転し回し蹴りを放つ体制に入った。それを見かねたイオルは慌てて両手で防ぐ体制を取った瞬間、宙から割り込んで来た骸骨と共に彼女は相手からの一撃をもろに受ける事となるのだった。

「うわぁああっ!!」

「お姉ちゃん!!」

そしてそのまま後方へと吹き飛ばされると、彼女は後方に転がりながら床にうつ伏せで倒れるのだった。割り込んで来た骸骨もその拍子に彼女の近くを転がるも、目元の形がバツ印になった途端その場から消えてしまった。地味に痛む身体を起こす様に彼女はその場で起き上がろうとするも、転んだ拍子に擦り剥いたであろう左太腿に痛みを覚え立ち上がる事が出来ずにいた。

「いったぁっ…… ……!」

「ウフフフ…… 覚悟するのね、小娘。」

軽く着地に失敗した事を後悔しながらも彼女は痛みに耐えだすと、気付けば目の前には団扇を持った相手の姿が視界に入って来た。既に両手には無い団扇はそのまま彼女目がけて振り下ろされそうになっており、イオルはピンチになったと悟り左腕で顔元を防ごうとした。

その時だ。


バッ!!


「? 何のつもりかしら、子狐。」

「駄目ぇっ! イオルお姉ちゃんに、怪我させちゃ駄目ぇーーっ!」

「初歩港ちゃんッ……! 駄目です!!」

彼女に対して行われそうになっていた事を目にしてか、飛ばされるも無傷に等しかったヒストリーが二人の間に割って入り込んで来たのだ。突然現れた子狐に対して相手は見下す様に視線を向けるも、相手は怯む事なく両手で壁を作りながら立ちふさがるのだった。彼の行動に慌てたイオルは慌ててその場から逃げる様言うも、彼は言う事を聞かず一向に動く気配が無かった。

それを見ていた相手は空いた左手で彼の着ていたシャツの胸倉を掴むと、そのまま軽々と天井に向けて持ち上げだした。

「ぐうぅっ!」

「初歩港ちゃん!! 止めて下さい!!」

「おねえ……ちゃんっ………!」

「フフフ、良い声じゃない? そういう声を聴きたかったのよ。 ……もっとも。」


スッ


「!!」

そして身動きが取れない少年に対して首元に団扇の隅を当てると、イオルは驚愕して両脚に力を入れ立ち上がろうとした。しかし彼女の意思に反して両足は立ち上がろうとすると痛みが走り、立とうにも立てない状態になってしまっていたのだ。気付けば吹き飛ばされたマイクスタンドは完全に視界から脱却しており、どちらに飛んで行ったかさえ解らない状態であった。

「これ以上にもっと酷い事をしたら、貴方達はどんな声で泣き叫んでくれるのか…… とぉーっても楽しみ、何だけどね………!!」

「ッ!!」

双方共に身動きが取れないのを見て勝利を確信したのか、相手はそう言いながら団扇で相手を叩こうとした。次の瞬間だった。


ブンッ!


「!! 何っ!!」

胸倉を掴み背丈以上の位置で脚が動かせないでいたヒストリーが、何と相手の両腕を軸にその場で倒立し相手の手の中から退避しだしたのだ。動かせなかった足をそのまま天井に向けた拍子にシャツから相手の手が離れたのを見ると、彼はそのまま太い尻尾で相手の顔を叩き、再びイオルの前へと降り立った。

「くっ!! ……このっ! 子狐!!」

予想とは違う動きによって逃げられた事を知った相手は再び団扇を双方で構えるも、相手はすでに彼女の傍に移動し完全に応戦する体制に入っていたのだ。気付けば両手に手裏剣が握られており、どんな攻撃が来ようとも彼女を守って見せると言う意思が現れ出ていた。

「お姉ちゃんに怪我はさせない……!! ギラムお兄ちゃん達の邪魔をしたり、ヒストリー達の敵になる人達なんて……! ここから消えちゃえば良いんだ!!」

「何を小賢しい事を……… ……なっ!?」

そんな彼の発言を無視して再び相手の首を取ろうとするも、相手は不意に違和感を覚えだした。動かそうとした右足は何故かその場から動く事が出来ず、逆に左足を動かそうとするも双方共に止まったまま歩く事が出来ない状態となっていたのだ。何が起こったのかと思い相手は足元を見ると、そこには驚きの光景が広がっていた。

何と彼女の纏っていた修道着の足元は全て地面に繋に停められ、動く事が出来なくなってしまっていたのだ。布地と地面を縫い合わせる様に地面の至る所にクナイが刺さっており、どうやら脱出し跳び出した瞬間に隙をついて投げ放った様だった。

「影縫い!? 何時の間にッ……!!」

「忍びは本来影の存在だって、ヒストリーはお父さんやお母さんに聞いてきた…… でもお姉ちゃんは、そんな事をしなくても良い未来があるって教えてくれた……!! だからヒストリーは何時だって、イオルお姉ちゃんの望む未来を見て視たい!!」

そう言いつつ彼はリュックからロープを取り出すと、その場を跳び出し相手の身体の上を駆け上がりあっという間に相手を縛り上げてしまったのだ。ご丁寧に紐同士が絡まり合う所は『あやつなぎ』になっており、ちょっとやそっとでは簡単に解けない状態になるのだった。

「クッ!!」

「えーっと……後はぁ…… ……ぁっ、あったぁ~」

先程までの怒りは何処へやら、相手を上手にお縄に出来て満足した様子で相手は再びリュックを漁り一枚のカードを取り出した。そしてそれを相手の懐に忍ばせる様にカードを付けると、彼は両手を交えて十字を作り指を揃え構えを取りながらこう言い放った。

「「『エースクリーマー・シュプリンゲン』!」」

すると次の瞬間、忍ばせていたカードからは幾多の光があふれ出し相手の身体を包み込む様に発光しだしたのだ。あからさまにヤバいと察した相手は慌ててロープを解こうとするも、時すでに遅し。瞬時に光は強くなってその場から消えると同時に、相手の姿は消えてなくなってしまうのだった。

ちなみにこの魔法は『転移魔法』に近い為、相手が消失したわけでは無い。



「わー、綺麗さっぱり居なくなっちゃいましたね。さすがです、初歩港ちゃんっ」

「えへへ~ ……お姉ちゃん、怪我大丈夫ぅ?」

「大丈夫ですよ、これくらい。そうだ、折角だから初歩港ちゃんの中に入ってる『メディカルキット』さんを貸してもらえますか?」

「はぁーい。」

返事をした彼は右手を高らかに上げた後、再びリュックを開け中から白い救急箱を取り出し彼女に手渡した。箱の中には消毒液から簡単な治療が行える応急処置セットが多数入っており、彼女は中から消毒液とガーゼ、そして大きめの絆創膏を取り出した。先程の衝撃によって擦りむいた皮膚を消毒し、傷口を抑えられれば良いと判断したのだろう。可愛らしいハートのマークが描かれた絆創膏は、何処となくファンシーであった。

「………ぁっ、お姉ちゃん。あっちの黒いの、もういなくなってるよぉー」

「わぁ、本当ですねっ じゃあこの手当てが終わったら、メアンちゃん達と合流しましょうか。」

「はぁーいっ」

そんな他愛もない話をしながら、二人はその場で手当てを済ませるべく両手を動かすのであった。


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