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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第四話・自然体の運ぶ聖十遊技(しぜんたいのはこぶ せんとゆうぎ)
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23 幼相棒(おさなきあいぼう)

職場での作業を終えたギラムが帰宅したのは、それから数十分後の事だった。中々しっくり来る作業完了を迎えられなかった事に対しモヤモヤするも、ずっとその事を考える事をしない様にするのが彼である。考え続けてしまえばそれだけで真実から遠のいてしまう結論が浮かんでしまう事もある為、彼はそのようにする傾向があるのだ。元々『妄想』の類が得意ではない彼ではあるが、戦場に立った事もあるため視野が外れてしまう事を避けている様にも思えた。

そんな悩み事を頭の隅に置きながら帰宅すると、彼は愛車を定位置に停め自室へと戻ってきた。



ウィーン……


「ただいま。」

「キュキキュウッ キキキュッ」

自室へと通ずる扉が開かれると同時に視界に映ったのは、廊下に座ったまま主人を待つフィルスターの姿だった。昼間に出かけて夜に戻る事が解っていた為か、それとも今の心境をいち早く察したが故なのか。

幼い龍はそこにおり、主人が靴を脱ぎ自身に手を伸ばしてくれるのを心待ちにしている様にも見て取れた。

無論そんな相手の考えを無下にしないのが、本当のイケメンである。

「ただいまフィル。俺を待っててくれたのか。」

「キュッ」

「そっか。ありがとさん。」

帰宅を待ち望んでいた幼龍に対し彼はそう言うと、優しく身体を掴み自身の腕の中へと運び込んだ。自身の定位置へ行く事を許された事を知ったフィルスターはいそいそと彼の身体を昇ると、彼の肩へと昇りうつ伏せで乗りかかる様に身体を伸ばすのであった。無論翼が邪魔にならない様に配慮をしている所を見ると、双方共に気遣った上での行動の様である。

「お帰りギラム。ご飯出来てるよ。」

「あぁ、ありがとさん。 ……なぁ、グリスン。」

「何?」

「明日なんだが、何か予定とかあるか? すでに決まってる様な奴。」

そんな玄関先でのやり取りをしながらリビングへと向かうと、彼は荷物を置きつつ相棒の予定を確認しだした。急遽決まったに等しい予定を取り付ける事はとても難しく、お互いの時間もある為思う様に計画が進まない事は何処にでもある話だ。ましてや相手は自分達とは違う世界で過ごして来た存在の為、その辺りも気にしたかったのだろう。

問いかけに対しグリスンは少し考える様に目を泳がせた後、首を振りながら予定が無い事を告げだした。

「例のホテルに行ってみようと思ってるんだ。職場で建物の事をいろいろ調べたんだが、どうにも見つからないから少し怪しくてな。」

「えっ! まさか乗り込むの!?」

「そんな一戦交える様な事はしねえよ…… 調査だよ、調査。」

「あぁ、そっか…… うん、僕は全然大丈夫だよ。」

「そか。そしたら明日、よろしく頼むぜ。朝飯食った後、少し時間を置いてから行くぜ。」

「解った。」

半ば勘違いされそうになるも、ギラムは冷静に話を戻しつつ相手に予定を取り付けるのであった。ある意味交戦するような相手を探しに行くつもりではあるが、まだ始めるつもりは無いためそう言ったと思われる。戦いが急遽始まる様な事態を招く事だけは、どの世界でも避けたいものである。

その後ギラムは手にしていた愛車の鍵を定位置へと戻すと、肩に乗ったままのフィルスターと共に席に着き相手をテーブルの上へと降ろした。するとグリスンは皿に盛りつけた夕食を手に彼等の元へと移動し、食事の用意を進めるのだった。


ちなみに今夜の夕食は、タンパク質が豊富な『ささみ肉のバター炒め』である。筋を取った肉を薄めに広げフライパンの上でこんがり焼いただけの料理ではあるが、手軽な上に上手に出来る為かグリスンは良く作る事が多かった。付け合わせの千切りキャベツもセットになれば、低カロリーで美味しいプレートの出来上がりだ。

「……そういえばギラムの職場って、そういう調べ物が出来る場所なんだね。普通なら出来そうに無い感じだけど。」

「元々企業間のやり取りを生業にする場所だからな。俺みたいに外部で依頼を受注する傭兵は確かに多いが、それが出来る年齢も必然的に限られてくるからさ。そっちにも仕事の手が伸びたってわけさ。」

「へぇー じゃあ、そっちがメインの人も居るんだね。」

「そういう事だ。」

配膳を終えて席に着いたグリスンと共に合掌し、三人は夕食を取り出した。帰宅するギラムに合わせて作った料理とはいえ、彼等は美味しそうに口にしつつ料理の感想を言い合うのだった。本日のフィルスターも同様の食事を取っている為、こちらも楽しそうに会話に混ざるのであった。

「でも、それならどうしてギラムが検索をかけて見つからなかったんだろう……? 僕はこの世界の事は詳しくないけど、ギラムはホテルの名前は知ってたんでしょ?」

「あぁ、一応な。」

「それだけ有名な場所なら、普通に両者の間で仕事の話とかありそうだけどね。あくまで僕のイメージだけど。」

「いや、グリスンのイメージはあながち間違ってないぜ。現にデータ自体は入ってたから、セルベトルガのデータベースには。」

「ぁ、そうなんだ。じゃあ、本当にギラムが探してた項目だけが無かったんだね。きっと。」

「そこが妙なんだよな……… 企画してる事とかも普通にありそうなんだが、その情報が一切ないって言うのがな………」

「んー……… ……それで、ギラムは『調査しよう』って言いだしたんだね。」

「まあな。」

しかし食事と共に進む話は進行性が薄いためか、彼等は最終的に首を傾げながら再び合掌し食事を終えるのだった。その後片付けをするべくグリスンは皿を片付けだすのを見てか、フィルスターはお手伝いをするべく腰を上げ自身が持てそうなシルバー類を手にして移動するのだった。そんな行いを視ていたギラムも同様に皿を手にし、慣れた手付きでシンクへと運んで行った。


そんな時だ。

「そしたら僕、少しだけ外に出て来ても良い? 洗い物終わってからだけど。」

「あぁ、構わないぜ。難なら洗い物は俺がやるから、今行ってきても良いぞ。」

「良いの?」

「元々独り暮らしだし、家事の一部はグリスンに任せっきりだったからな。たまにはサボっても良いんだぜ。」

「ありがとう、ギラム。じゃあお言葉に甘えて、行ってくるね。」

「行ってらっしゃい。」

「キュッキキュー」

不意に外出を申し出たグリスンに合わせてか、ギラムは返事をしながら蛇口を捻り水を流し始めた。流水で流れ落ちる汚れが少しずつ落ちて行く中、グリスンは笑顔でその場を離れバルコニーから夜の街へと跳び出していくのだった。

後姿を見守っていたフィルスターは軽く手を振りつつ見送ると、後ろへと振り返り主人を見守り始めた。

「……さてと。じゃあ洗い物するか……」

「キュッ。」

「ん、どうした。」

「キキキュッ キキュキッ、キュキュッキュ。」

「……… 肩に乗りたいのか?」

「キュッ」

「洗い物するから、危ねえぞ?」

「キュキュッ」

「まぁ、そうしたいなら良いが…… 落ちるなよ。」

「キューッ」

しばし見つめていた彼は不意に鳴き声を上げた後、主人の肩へと移動するべく空へと飛び出した。そしてゆっくり移動しながら主人の頭の上へ降り立つと、その場から移動し始め再び肩の上へと乗るのだった。帰宅した際に乗っていた右肩から左肩へと乗り換えた彼を視た後、ギラムは軽く屈みながら皿を洗いつつも、フィルスターが落ちない様にと気を使うのだった。

洗い物をしながら筋トレが出来そうなスタイルだが、あまり気にしていない様子のギラムなのであった。



ジャーッ……


「………」

「………」

そんな二人が流水の流れる音を耳にしながら洗い物を進め、ギラムは食事の際に使用した食器を次々と片付けだした。事前に落とせる汚れを落としたためか、洗剤を含ませたスポンジで手際よく洗う彼の作業に戸惑いはなく、普段から良くやっている事が良く解る作業効率であった。思わずフィルスターもジッと見つめてしまう程であり、短調作業とは言えスピーディに洗うのであった。

「……… なぁ、フィル。」

「キュ?」

「明日、例のホテルに行くって言ったんだが…… 正直言うと、何か起こりそうな気がしててな。正直不安なんだ。」

「………」

「グリスンは恐らく、そんな俺の考えを察して出て行ったんだろうけど……… ……何だろうな。アイツにはいろいろ心配かけてばかりだなって、ちょっと思ってさ。」

「……… キキキュッ、キューキキ?」

「あぁ、怖いな。 ……こうやって思う所を見ると、ちょっと前までの俺は異例の力を行使してたんだろうなって思っただけだ。戦う術も無けりゃ、何も出来ない一般人なのにさ。」

「キキキュッ………」

しかし手を動かしていたギラムの心境はあまり宜しいモノではない様子で、ふと呟き交じりに彼は想いを吐露しだした。少し前までは普通だと思える日常を過ごしていたのに対し、今の自分はどんな場で戦闘が起きても戦えるだけの力を備える事が出来ていた。その切欠となったのはグリスンの考えと些細な思いからではあったが、それでもギラムは自身には多過ぎる程の力である事を常に忘れない様にしようと考えていたのだ。本来ならば誰でも出来るはずの無い力を今の自分は使っており、例え限定的な状況下に置かれた際にしか使用しなかったとはいえ異例の事をしている。


それが段々と『自身の日常』と成っていた事を目の当たりにし、彼は少し不安な気持ちを抱いていたのだ。


自身が守ろうとしている世界の日常は双方の力がぶつかり合い、勝者の力がその世界に影響を与えて行く。だが実際には『守っていたはずの自分もその力に影響され、普段の日常で生きられない様になってしまっていたのではないか』と思っていたのだ。大き過ぎる力は身を滅ぼし何時しか世界も変えてしまう、創憎主の力に成って行くのだと彼は改めて理解するのだった。

そんな主人の想いを知ったフィルスターは何かを言おうとするも、上手に言葉に出来ない様子で言葉を詰まらせた時だった。

「……それでもな、フィル。」

「?」

「俺と一緒に行ってくれるって仲間が見つかった事、それは凄く嬉しく思ってるんだ。元々誰かを頼る事はあんまりしなかったから、いざこういう時になるとどう言ったらいいモノなのかって、思う事があってさ。独りに慣れちまってたんだろうな。」

「………」

「だからこそ、今の俺でも出来る事をしたいんだ。 ……少し危険な橋になるんだが、フィル。お前も来てくれるか。明日。」

「……! キュッ!」

「そっか、行ってくれるか……! ありがとな、フィル!」

「キューッ!」

ギラムは何時の間にか普段の彼の眼に戻っており、何処か目指すものが見つかったと言わんばかりの言葉を不意に口にしだしたのだ。軽く圧倒されながらもフィルスターは喜んで返事を返すと、ギラムもまた嬉しそうに返事をし、お互いに頬を合わせながら共に笑みを浮かべだした。


自身の傍に誰かが居る、その優しさを知ったかのように笑い合うのだった。


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