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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第四話・自然体の運ぶ聖十遊技(しぜんたいのはこぶ せんとゆうぎ)
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20 押売(おしうり)

昼下がりの喫茶店でのお茶を終えたギラムが外へと出ると、明るい日差しは雲に遮られ肌に突き刺さる感覚が弱い気候となっていた。朝からフィルスターと共に行動する彼は次の予定を確認しつつ、肩に乗ったまま主人に付き添う幼い龍と共に行動を開始した。

「さてと…… 文書は出来たが、急には無理だろうから少し予備日を視ておかないとな。」

次に会う予定で居た相手への文書を店内で作成していた彼は手元にセンスミントを取り出し、時刻を確認しながら送るタイミングを検討していた。

早々に送ってしまえば相手の都合に合わせて行動に移せるものの、今の彼が送ろうとしている相手は自身よりも忙しく、場合によっては無理に時間を作らせてしまう程の気遣いさえしてしまう相手だ。サインナの様に元職場のよしみで状況把握がしやすければ苦労はしないが、中々そう簡単に出来ないのが次の相手なのである。

ちなみに次に会う相手は、彼との付き合いもそこそこ長い『アリン』である。

『とりあえず昼過ぎくらいなら時間に余裕も出来る頃だろうから、その頃に送るとするか。』

適当ではあるが無難なタイミングで送る頃合いを見計らいながら移動し、彼等がショッピングストリートの北側出口に差し掛かった時の事だった。

「ギラムさーん。」

「ん? ……あれ、アリン?」

手にした端末を衣服内にしまおうとしていた彼の耳に入って来たのは、自身を呼ぶ可憐な声色だった。声の主を探そうと彼が前を向くと、そこには歩道に近い車道に車を停車させ、車内から降りて来る女性の姿が目に写った。

良く視ると相手の傍には狼獣人のスプリームの姿もあり、声の主は自身が今まさに連絡を取ろうとしていた『アリン』である事が判明した。相手の姿を眼にしたギラムは軽い駆け足で相手の元へと近づくと、両者はそれぞれの挨拶を取り交わした。

「こんにちはギラムさん。恐らくココじゃないかと思って、足を運んでみた甲斐がありました。」

「俺を探しに、わざわざココまで来てくれたのか? 何か急な案件……って、言うわけではなさそうだな。グリスン関係か?」

「察しが良いというか、まぁ当然なのかもな。グリスンから話を聞いてさ、探していたんだ。」

「私達にも協力出来る事があればと思いまして、少し時間を割いてみたんです。お電話をしようと思ったのですが、ギラムさんもお忙しい方ですので。」

歩道へと移動した彼女は運転手に車を別の場所へと移動させる中、スプリームはその場に来た経緯を伝え要件を簡単に説明しだした。

双方共に仕事の都合で連絡を取り辛いと判断した彼女はグリスンと別れた後、車を使って都市内をしばし回りながら彼等を探していた。無論連絡を取りその場で取り付けてしまえるほどの簡単な内容ではあったが、彼女はその手段を選ばず直に足を運んで自らの意思を伝えたかった様だ。それなりに遠回しだがそれっぽい伝え方をスプリームは隣ですると、ギラムはすぐに察した様子で了承し首を縦に振るのだった。

「心遣い感謝するぜ。グリスンから聞いてるなら話が早いな。近々創憎主に近い動きを取ろうとする真憧士集団が動きを見せる傾向が視えたから、二人にも協力してもらいたいんだ。」

「二の次の返事に聞こえるかもしれないが、俺達はその申し出を受けるつもりだ。前回の借りもあるからさ。」

「私もスプリームさんと同意見です。毎回足を引っ張る事と解っていても、私自身で行動を起こさなければ進展はありませんので。」

「二人共、ありがとな。」

既に意志が固まった状態での話し合いだったためか、すぐさま両者の話は終了し今後の活動を共にしてくれることを約束しだした。その場に付き添う形でそばに居たフィルスターも嬉しそうに鳴き声を上げると、三人は苦笑しながら笑い合い、平穏な今の時間を満喫する様に会話を楽しむのであった。


「ところで、グリスンは何処へ行ったか分かるか? 俺からも話をしておきたいんだが。」

「俺達の所に話をして根回しが出来たからって、借家に一度戻ったんじゃないか。『ギラムにもこの事を伝えたい』って言ってたからな。」

「ギラムさんを信用している事と、助力をしたいという気持ちの表れかもしれませんね。私達はいつも通り過ごしつつ、状況に備えて動かせてもらいますね。」

「了解。じゃあ何時かは解らないが、後日よろしくな。」

「はい。」

その後それぞれの時間の都合で別れる事になると、ギラムは二人に付き添いながら送迎用の車の元へと移動し、車が視えなくなるまで見送りをしだした。車の窓から軽く手を振りながら見送られて行く彼女の笑顔に一瞬見惚れていると、肩に乗ったままのフィルスターに軽く指で突かれ、彼は頬を掻きながら帰路へと向かいだした。


普段の帰り道とは違うルートで彼が借家へと帰宅する道中は、比較的見慣れた家々が立ち並ぶ歩道を歩くわけでは無い。都市中央駅に構えるホテルとは雰囲気の違う宿舎もあれば、はたまた高級住宅地が立ち並ぶ区域に続く広い空き地沿いを通る事もある。現代都市と言っても少し離れてしまえば土地の雰囲気はガラッと変わる為、住んでいる層もまた違うのだ。そのため、本街と下町くらいの差があると言って良いだろう。

そんな道中をのんびりと歩きながらギラムが帰宅すると、そこには意外な人物が彼を待っていた。

「……… ぉ、戻って来たか。」

「ん?」

彼の住む借家の入口から少し離れた街路樹の傍に立っていたのは、何時ぞやから頻繁に遭遇する事が増えたノクターンであった。時折やって来る雲間の日差しを避けるように木陰で彼の帰りを待ち望んでいた様子であり、相手が近づくと同時に静かに歩み寄って来た。

突如現れた狼獣人に対してフィルスターは首を傾げながら見つめていると、ギラムは相手に解る様に軽く説明し『警戒しなくて良い』事を伝えだした。

「どうした、珍しく待ってたみたいだが。」

「お前が欲しそうな情報を拾ったから、売ってやろうと思ってな。どうする。」

「内容がどんなものなのかは解らないが…… 今動きを見せてる『真憧士の集団関連』だったら、買うつもりはあるぜ。」

「ん、じゃあ買うんだな。そしたらお前の知ってる情報の一つを、俺に売れ。それが条件だ。」

「俺の知ってる情報?」

珍しく目線の合う場で待っていた相手の要件を聞くと、ノクターンは何時もとは違う話題を彼に振って来た。

元々住処が不明な彼は都市の至る所でギラムに接触するも、大体は相手よりも目線の高い位置で声を掛け話を持ち掛ける事がほとんどだ。面と向かって話す事はほとんどなく、大抵の場合は他愛もない雑談交じりのどうでもいい情報ばかりであり、今回の様なケースは本当に稀と言って良いだろう。それだけギラムに興味津々という面もあれば、単純に真面目な話をしたいという面もある様だ。

ちなみに今回は、後者が強く現れたと言えよう。

「ギラムは前に、自身と同じ顔をした存在に会ってたな。アイツに付いてだ。」

「ピニオの事か? ……っつっても、俺も良く知らない事の方が多いぜ。ピニオは俺の事を良く理解してないみたいに、俺自身もピニオの詳細は良く知らないんだ。」

「んや、俺は名前すら知らねぇから今のでも十分糧になってる。そいつが前にお前の勤めてる職場から持って行った『飲料水』があるだろ? それの銘柄が知りたい。」

「水の銘柄?? 何でまた………」

「いーんだよ、利用価値何て。早く言え。」

とはいえ、本題については話さずいきなり交渉に踏み込んでくるところは今までと変わりはない。半ば強引に対価と成る情報をノクターンは引き出そうとするも、ギラムは全く持って利用価値が分からず首を傾げてばかりであった。

ちなみに余談だが、こんな簡単に相手に情報を売らない様ご注意下さい。使い道は自身が思っている以上に、根深い場合もあるからだ。

「……確かあの時飲んでたのは、何時も俺が買ってる『クリスタルガイザー』だったはずだ。市販の標準サイズのペットボトル飲料水。」

「ほう、あの水か。 ……解った、じゃあ俺からの情報だ。奴等が始めに襲う場所らしき場所を知ったから、その辺りの動向を探れば強襲日が分かるはずだ。」

「奴等の襲う場所……!? そんなのが解るのか。」

「あくまで耳にした範囲だがな。でも、始まってから動くよりかは断然良いはずだ。ココから南側に行った場所にある桃色の高級ホテルの事、知ってるか。」

「確か……『ツイリング・ピンカーホテル』だったか? 行った事は無いが知ってるぜ。」

「奴等はそこで一発おっぱじる気で居るらしい。せいぜい気を付けるんだな。」

その後必要な情報を聞き出すと、相手は間髪入れずにギラムにとって必要な情報を提供しだした。どうやら都市内を傍観中に拾った情報の様であり、彼等がギラム達にとって不利益を働こうとしていた事は直ぐに解ったそうだ。今の彼等は『正義』の立場に位置する真憧士達であり、それと相対する行動をする者達は必然的に『創憎主』の立ち位置に居ると考えても不思議ではない。故に推理する間もなく、適当ではあるが解らず終いであったピニオの情報と引き換えに教えてくれたのだった。

一通りの情報を交換し終えると、ノクターンはその場から離れギラム達がやって来た道を戻ろうとしたその時だった。

「……あぁ、そうだ。後もう一つだけ教えといてやる。」

「ん?」

「お前のクローバーだが、奴等は壊す気は無いらしい。隙をついて奪還しな。」

「え? お前、何でそんな情報を………」

「さぁーな、教えねぇよ。じゃあな。」

不愛想で憎らしい口振りは相変わらずのままに、彼は去り際に一言告げてその場を去って行った。突然の情報に軽く驚く事しか出来ないで居たギラムであったが、彼の話が真実かどうかはあまり考える事はしなかった。


根拠の無い話は彼はする事は無く、不確かな部分が多けれど大事だと思う事はちゃんと教えてくれるのだから。


疑う事はせず、ただただその隙がある事だけを彼は理解するのだった。

『相変わらず何を考えてるんだかな……… ……でも、ピンカ―ホテルでアイツ等が動くなら…… 今の俺でも動き位は探れそうだな。』

そんな謎多き狼獣人からの情報を聞き終えると、ギラムは告げられた目的地の場所をセンスミントで確認しながら自宅へと向かって行った。


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