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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
第四話・自然体の運ぶ聖十遊技(しぜんたいのはこぶ せんとゆうぎ)
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18 助力(じょりょく)

「ところで、リミダムはイオルに何の用だったんだ? 夜って言ってたが。」

買い出しを終えて目の前で食事をする面々を目にし、ギラムはふと頭に浮かんだ話題を彼等達に振り出した。彼の声を耳にしたイオルはヒストリーの口元をナプキンで拭った後、軽く思い出したかのようにこう言い出した。

「あぁ、そうでした。ギラムさん、最近妙な話を耳にしたんです。」

「妙な話?」

「何やら常人では有り得ない力を得た人達を集めて、思想と共に大きな改革を起こそうとしている教団があるそうなんです。力の有る人達に階級を与えて、上下社会をまるっきり変えちゃおうって言う人達が。」

「……その話、少し詳しく教えてくれるか?」

「良いですよ。」

突然舞い込んできた話題を耳にしたギラムは少し首を傾げた後、気がかりな部分があった様子で彼女の話を聞きだした。

現代都市リーヴァリィを始め全世界を巻き込んだ動きを見せたのは、今からそう遠くはない数年前の事だ。彼等は一つの思想を掲げ自身と同じ理想を抱く者達を集めた教団を発足し、現実世界で気付かれる事無く裏から表舞台を飲み込もうとしていた。彼女がその事を知ったのはリミダムと会うほんの少し前の事であり、ネット上で噂されていた謎のサイトでその事が発覚するも、当時の彼女はあまり気にすることなく日々を過ごしていた。しかし彼との他愛の無い話をしていた時にその時の情報が頭の中を駆け巡り、ある一つの結論に結び付いたのだと言う。


その力は全て『リアナス』達のモノであり、自身と同じ力を持った者達が強者と成る世界を創り出そうとしているのだと………


「……そんな事が起こってたのか。結構有名なのか。」

「一般の人達は眼中にないそうですが、今まで起こった事件の一部には全て関与しているみたいで…… ボクも妙な人達に声をかけられた事があって何度かあって、昨夜はリミダムさんに助けてもらったんです。」

「ちょっとギラムの様子見も兼ねて散歩しに来たんだけど、思いもよらない事が目の前で起こってたからねぇ~ オイラ達はリアナスの人達に手をかける事はしないし、殺める事も禁止されてる。だからオイラは助けた。」

「イオルを助けてくれたのか。ありがとさん、リミダム。」

「どういたしましてー」

あくまで推測に過ぎない情報を聞くも、イオルが助けられた事を知ったギラムは隣でサンドイッチをむさぼるリミダムにお礼を述べた。声を聴いた相手は嬉しそうに返事を返しながら食事を再開し、コンビニ飯を満足そうに堪能するのであった。

「ちなみにそいつらの『思想』とやらは、俺達リアナスが力で相手をねじ伏せる様な世界を目指す事なのか?」

「簡単に言ってしまうと、そんな感じみたいです。全ての場において力を統べて、なおかつ誰よりも強い人が生きられる世界を目指すのだと。もちろんヴァリアナスの方々にはその権限も力も無いため、必然的に底辺に置かれて下僕の様な場に置かれるんだそうです。」

「酷い事をする奴等も居たもんだな。それじゃあ上司が部下を圧力でねじ伏せるのと、同じやり方じゃないか。」

「『年功序列を固めた者達の面構え』から生まれた考えだそうですが、やっぱり深い所はそれぞれで違うのかもしれません。何かを変えるために力が求められるのは当然の事ですが、それによって払われる代償は常にやってきます。今回はその扱いを受ける方々を入れ替える、といった形で現れるのかもしれませんね。どんな手段を使ったにせよ、その素質さえなければ可能性を絶たれる思想に過ぎません。」

「悪足掻きをして立場を入れ替えるって言う手段が、最初から使えない状況にするってわけか…… でもそれだと、企業としての組織力に繋がるのか? 人が居なけりゃ、仕事も成立しないだろ。」

「その辺は全て『魔法』でどうにかしてしまうつもりの様です。相手によっては『相手の意識、身体そのものをコントロールする』力もあるそうで……」

「それは非常に厄介だな。敵に回る事は確定事項だろうし、その辺も対策を打っとかないとマズイな。……でもそんな奴等が敵になるとすると、エリナス達も怒涛を組んでやって来るってことに」



「それが、彼等の傍にはエリナスの方々は居ないそうなんです。どの事例を調べてみても、その情報だけは出て来ませんでした。」

「なる…… え? それってどういう事だ?」

話を聞いていたギラムは不意の言葉に驚き、質問を返す様に問いかけだした。首を振りながら話すイオルは段々と表情が暗くなるも、隣でご飯を食べるヒストリーに気付かれない様に顔を上げながら話を続けだした。

「奴等はリアナスの力を使っていないって事か? 多勢に無勢の手段を取らないのか?」

「そうじゃないんだよーギラム。アイツ等全員、オイラ達『エリナス』を拘束してるって話が出てるんだ。リヴァナラスで失踪してるヒトが後を絶たないんだよ。」

「何だって!? それって本当なのか!?」

「リアナスは契約を交わしたエリナスが同じ世界に居ないと、魔法は使えない。それを知った奴等はそれを利用して、この世界から元の世界に戻る事を許さないんだって。この前オイラが花を手向けた場所で、オイラはその事を知った……」

「彼等は同様の契約を交わした方々を全員拘束する事を入団条件としていて、裏切れば彼等のクローバーを奪って世間から完全に隔離させるそうなんです。いろいろと調べてみて分かった事例は、幾つか見つかりました。」

そう言いつつイオルはその場を立ち上がり、壁際に置かれた藤色のハンドバックを手にし戻ってきた。バックから取り出したのは彼女専用のセンスミントであり、指紋認証を済ませた後に目の前に電子盤を展開し彼が視れるように画像を反転させた。目の前に浮かんだ書類を視たギラムは文章に眼を通し、内容を理解する様に目を走らせた。

イオルが調べて分かったのはあくまで断片的なモノであり、どの場でそれが行われ発覚したというモノでは無かった。ネット上には沢山の情報が転がっており、幾ら鍵をかけたとしても閲覧が出来ないという世の中ではないのだ。そう言った手段から彼女は一部を引き抜いた様子で、彼等の集う名称が『ザグレ教団』である事が分かったそうだ。集団が集うにつれて蓄積する知識も膨大な量であり、そこからリアナスが魔法を使う際の前提条件を理解したのだ。

「エリナス達を監禁か…… こいつは結構、大それた事をやってるってわけか。一部のエリナス達が俺等を敵視する理由も分らなくは無いな。」

「敵視?」

「あぁいや、こっちの話だ。……まぁとは言え、ここまで大きな集団と成ると創憎主単体の時よりももっと大きな戦いになる可能性があるな。」

「そうなりますね。」


「イオルお姉ちゃん、お代わりぃー」

「あぁ、はいはい。」

大きな敵と成り得る集団の事を理解したギラムは再び飲料水を口にし、先日襲ってきた連中がその残党だろうと理解した。自身のクローバーを持ち去った所を見ても合致する部分が幾つも存在しており、彼等が自分達と行動を共にするグリスン達を狙っている事も解った。彼等は力を保持するための糧を望んでおり、思想に賛同しない者達からその糧を奪っているのだと。

エリナス達も生きている存在の為、食料を提供しなければ生き続ける事は出来ない。ましてや監禁となれば想像以上の疲労も貯まっている為、過労死してしまう可能性もあるのだろう。どれだけの力を使うために命を犠牲にしてきたのか、想像すら付かない状況であった。

段々と相手の行いに罪悪感を抱いていた時、彼の隣である動きがみられた。

「ところでギラム、今日もクローバーは不携帯?」

「え?」

「だってギラム、これから出かける時は絶対に付けるって言ってたじゃん? 確かゴーグルに付けてた『銀の龍』がそうだって話だったけど、今日無いよねぇ。何で?」

隣で食事を取っていたリミダムは不意に彼に話しかけ、問いかける様に質問をしてきた。不意の質問に対しギラムは少し返答に戸惑うも自身に向けられる大きな眼差しは何処か真っ直ぐであり、何処となくグリスンに気遣われている様にも感じられた。

そんな瞳を目にした彼は軽く左頬を掻いた後、正直に話そうと思い返答した。

「……もしかしたらイオルの話した教団との関係があるかもしれないが、実は妙な連中にクローバーを奪われてな。」

「えぇっ!? 本当ですか??」

「あぁ。相手は時間操作に近い魔法を使って俺達の動きを止めて、その隙にな。どうやら俺の動向に目をつけていたらしくて、危険だからって先に対処しに来たらしいんだ。」

「ありゃま、じゃあ取られちゃったんだねぇ。地味にヤバーい。」

「とはいえ今の行動をやめるつもりもねえから、早めに対抗策を考えてそいつ等との戦闘に備えようと思ってる。グリスンにも了承は得てるから、あっちでも策を練ってもらってる所だ。」

彼等とその時の相手の関係性に確証は無いものの、彼は推測を交えた上で皆に報告をしだした。突然の事に驚いたイオルは手にしたジュースを零しそうになり慌てるも、隣に座っていたヒストリーが手を伸ばし彼女の手の動きを阻害しない動きでゆっくりと静止をかけだした。手にした飲物がこぼれなかった事に二人は喜びながらお礼を言い合う中、リミダムは右人差し指を立てながら自身の口元に添えだした。

それぞれの反応を目にしながらギラムは考えを告げると、一同は顔を見合わせながら何かを決めた様子でこう言い出した。

「じゃあ今回は、ボク達も傍観者って訳には行きませんね。ギラムさんの一大事ですから。」

「うんー」

「何するつもりだ?」

「決まってます、ボク達も一緒に戦うって事ですよ。リアナスが世界を守るどころか、壊すために力を行使するなんて絶対に反対です。この世界には『平和』が維持されるべきですっ」

「確かに、戦乱になっちゃったらいろいろ犠牲者とか出ちゃうしねぇー オイラ常に献花させられるの、面白いとは思えないし。」

目の前で食事をしているだけだった三人はそれぞれ意見を言い合い、彼の行動に同行すると言い出したのだ。突然の同行者の出現に驚くギラムであったが、彼等はいたって真面目に話している事だけは解り言葉を詰まらせていた。

「……だが、危険なのは解ってるだろ? 確かに今の俺は戦力外に等しいし、ましてやお前等を守ってやれるなんて思えない。」

「ギラムさんはボク達を残して、あの時は戦いに身を投じたじゃないですか。ボクはそんな心意気のあるヒトが世界を守ろうとしてるのに、ボクだけのうのうと生きるなんてお断りですっ」

「ヒストリーも頑張るぅー」

「そうは言ってもな………」


「良いじゃん、折角だし力借りなよ。」

「リミダム。」

そんな仲間達の意見を口添えする様に、隣に座っていたリミダムは彼に対して言葉を告げだした。元々敵側であるはずの彼が何故そんな事を言いだしたのかと驚くギラムであったが、こちらもいたって真面目に言っている事だけは解った。しかし手にしていたおかき煎餅がその緊迫感を消している為、インパクトには欠けていた。

「オイラはまだギラムには勝ち残ってて欲しいと思ってるし、もっともっと楽しい事したいって思ってるもんっ それに今の状況で無理してるのって、どっちかって言えばギラムじゃん。」

「………」

「別にオイラ達は無理に手伝うなんて言ってないよ。出来る事をしたい、ギラムの力に成りたいって言ってるだけなんだし。断って良いのぉー? 一人じゃ殺られちゃうよ?」

「……… ……本当に良いのか。話を戻す様で悪いが。」

「もちろんですよっ こうやってボク達の力に成りたいって来てくれるギラムさんなら、ボク達がギラムさんの手伝いをしたいって言う気持ちが分かると思いますよ。大丈夫、皆で力を合わせれば何とかなりますよっ 世界を守る為に、ボク達の魔法はあるんですから!」

「ヒストリーも頑張るよぉー お兄ちゃん。」

テーブルを囲んで座っていた一同の視線が自身に集まるのを感じ、ギラムは少し決断を迷わされていた。実際の所助力が得られるのは嬉しい事であり、グリスンと二人だけでは彼に無理をさせてしまう為、初戦の創憎主との戦闘同様に苦労を掛けてしまうのは解っていた。だが今の自分は皆を守る力は皆無に等しく、ましてや危機に遭遇して死すらも隣り合わせになってしまう。簡単に返事が出来ずに居るのは、当然の様な状況であった。

しかしそんな彼を動かしたのは、思いもよらぬ相手であった。

「キュッ」

「? フィル……」

「キュキキュッ キュッキュッキューッ」

「……… ……分った。力を貸してくれるか、イオル。ヒストリー」

「もちろんですよっ!」

「まっかせてぇーっ」

自身の右膝に座っていた幼い龍は自身の顔をしっかりと見つめ、何かを告げる様に鳴き声を上げだしたのだ。やはり何を言っているのかは確かではないが、リミダム同様に自身の背中を押してくれている事だけは解ったため、彼は迷わず二人に助力を求めるのであった。

彼の意志を聞き届けた二人は嬉しそうに返事をすると、お互いに戦いに身を投じる事を約束してくれるのだった。

「ギラムぅー…… オイラはぁー……?」

「えっ、お前敵側だろ? ………あぁ、そっか。一応『味方』って概念のままだったな。」

「そーそー レーヴェ大司教がちゃぁーんと外枠は確保してくれてるから、だいじょーぶだいじょーぶ。ギラムの代わりにはならないだろうけど、ギラムの補佐くらいならオイラにも出来るよぉー」

「分った。リミダムも力を貸してくれるか。」

「もっちろーん! どんと来ーいっ!」

そんな三人と一匹のやり取りを目にしたリミダムは不服そうに彼に言葉を投げかけると、これまたギラムは意外な言葉に首を傾げていた。しかしよく考えれば相手の催促はもっともだったため、こちらにも助力してもらおうと思いギラムは同じ様に協力を求めるのであった。


その場に集う皆が一緒に戦ってくれる事を理解すると、ギラムはふと頭に浮かんだ者達にも今回の事を話そうと決意するのだった。


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