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鏡映した現実の風~リアル・ワインド~  作者: 四神夏菊
序章・初花咲いた戦火の叙景(ういばなさいた せんかのじょけい)
10/302

10 公共機関での旅路(こうきょうきかんでの たびじ)

予定を決め身支度を済ませた彼は、アパートを後にし徒歩で最寄りの駅へと向かって行った。都市内を巡る電鉄は幾多も存在するが、彼の近くにある電車は1つしか走っていない。改札での料金の支払いを終え、駅のホームにある備え付けのベンチに、彼は腰かけた。

『そういや、電車に乗るのも久しぶりだったな。 仕事尽くめで愛車に跨る事は多かったが、こうやって乗るのは何時振りかな…』

駅のホームから眺められる現代都市のビル街を見ながら、彼は久しぶりに乗る電車に心なしか楽しさを覚えていた。


学生時代を早くに終え治安維持部隊に入る事を志願した後、彼は中央都市へと越してきた。荷物と言える荷物はあまり持ち合わせていなかったが、部隊所有の寮生活を送る分には何ら支障がない事が多く、そのまま施設内に隣接する寮との間を行き来して、数十年。今では『准士官』のポストへ配属されるほどの知識と腕前を手に入れ、都市内にあるアパートへと越してきたのだ。そこからは当時購入した愛車の『ザントルス』に世話になる事となり、街中からの交通手段に頼ることは無い。

だからこそ、幼い頃に乗った以来の乗り物には、好奇心が芽生えている様だ。

『…ま、季節の風物詩を楽しめるくらいに俺も世暇を作れるようになったって所か。 川辺に着いたら、何処か良い場所を探して本を読むとするかな。』

そんな過去の出来事を頭の中で巡らせていると、ホーム内に電車がやって来た。紅色のボディが印象的な電車は、先端が尖り風の抵抗を減らす配慮が施されている。彼の近くで開いたドアから中へと入り適当な席に座ると、彼は電車に揺られ目的地である『エスト川』周辺の駅へと向かって行った。




中心地から少し外れた位置に流れる『エスト川』

そこで毎年行われる『エスト・フィルスター』は、毎年複数回に分けて行われるのが特徴だ。上流から下流へと向けて少しずつポイントをずらしながら花火を楽しむ事ができ、川の近くに住む住人達はタイミングさえ合えば自宅からでも花火を楽しむ事が出来る。無論遠くから来る人も、場所さえ合えば楽しむ事が出来るため、比較的他の花火大会に比べて混雑が予想される事は無い。

初回と最終日のみが警備も強化される事があるほど、他の日取りは人ごみに紛れて見る事は皆無だ。今日もそんな頃合いの日であり夜まで時間を潰しながら、彼は季節の風物詩を楽しむつもりの様だった。


電車が目的地へと到着し扉が開くと、彼は下車し改札口へと向かって行った。人込みに乗って外へと出ると、そこはビル街が広がる光景とは少し違った風景が広がっていた。

彼が下車したのは都市部から離れた場所にある『プラットジェト』駅であり、そこからしばらく徒歩での移動が続く。その日も灼熱の太陽が大地を照らす日であったが、彼は左程熱にうなされる様子は無くいつも通りの歩調で河辺へと向かって行った。途中で昼食用の『ポテトパンケーキ』と『アイスコーヒー』を購入し、彼は楽しそうに休日を満喫していた。



途中下車した駅から歩き続ける事約30分、彼は目的地のエスト川へと到着した。やって来たのは川の中流付近で、比較的流れも穏やかであり整備された川辺では子供達が楽しげに釣りを楽しんでいる光景が広がっている。無邪気な子供達を横目に彼は川沿いを歩き、見かけたベンチへと向かい腰を下ろした。

丁度彼が座った場所には1本の樹が植わっており、木陰でとても涼しそうな場所だ。座りながら持っていた紙袋に入っていたポテトパンケーキを1つ取り出し、彼はその場で食事をしだす。パンケーキに齧りつきながら彼はポーチに入れてきた小説を取り出し、その場で読みだしたのだった。


昼下がりの河辺はとても涼しく快適であり、丁度紫外線を遮っている樹のおかげもあって心地よい読書スポットだ。基本的に書物を読む事のない彼ではあったものの、先日貰った小説の内容を理解している様子で、文字を読みながら食事を取っていた。外仕事が似合う体格を持った彼が川辺で読書をしている光景はある意味新鮮ではあるものの、あまり周囲に人が居ない事もあってか、とても静かな環境だ。

読書にはもってこいと言っても、過言ではないだろう。

『…へぇー こういう話の流れなのか。 先が気になるな…』

そんな新鮮な行動をとりながら、彼は小説の中に描かれた世界観に浸り、有意義な時間を過ごしていた。

すると、



「ギラムさーんっ」

「?」

不意に彼の事を呼ぶ声が聞こえ、彼はその場を立ち上がり周囲を見渡した。しかし陸地には先ほどの子供達以外に人の姿は無く、声が何処から来たのかと彼は川を見降ろした。

すると、そこには1人の女性がゴンドラの上に立った状態で、彼に向けて手を振っていた。知人である事を知った彼はその場に広げていた荷物を簡単に片づけ、ゴンドラに乗っていた女性の元へと向かって行った。

「アリン、こんな所で会うなんて奇遇だな。 …船旅か?」

川へと降りるための階段を下りながら、彼は金髪のロングヘアーに空色のワンピースを着た女性に声をかけた。


彼女の名前は『アリン・カーネ』

現代都市でも上位を争う財閥『リアン・グループ』のご令嬢であり、管理職である父親と共に仕事を行っている人だ。主に取り扱っている仕事は『衣料品』であり、女性物を中心として幅広い用途で選ばれる洋服を手掛けている。彼とは治安維持部隊の軍服を依頼された際に知り合い、今ではこうして話をするほどの仲なのだ。

「はい。 エスト川上流での会場視察を終えて、本日の夜に行われる『エスト・フィルスター』の会場がある下流へと向かう最中だったんです。 よろしかったら、ご一緒しませんか?」

「あぁ、構わないぜ。」

彼の居る桟橋付近にゴンドラを停車させながら、彼女は下流に予約した店へと向かう最中である事を告げた。車を使って移動するほどの時間を要さず、なおかつ季節の風物詩を楽しむ際には会場の視察も行いたい。いろいろな条件の中選んだ手段がゴンドラであった様子で、1人船旅を楽しんでいた様だ。


そんな彼女からの提案を聞き入れ、彼は静かに船へと乗船した。

乗船した彼が席へつくと、彼女は船頭に合図を送り、船はゆっくりと進みだした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] お祭りとなると、風物詩であるけれど、それと同じくらい前あったテロとかに警戒してたりしそうな気がします。
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