Ⅵ.ライバル登場?
「あなた方がペンド担当の冒険者達ね。私はマデリーネ。これから一週間と言う短い間ではあるけれど、この学舎では生きていく上の知識と冒険者に必要なことを教えるわ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
ペンちゃんの言われた通りの部屋のドアを開けると、すでに数組の冒険者がいて何かを熱心に取り組んでいる様子。一グループ五人で見た感じは全員日本人。小学生ぐらいの子もいれば、50代ぐらいの人もいる。老若男女。
部屋も大学の教室の教室のようで新鮮さを感じていると、指導員であろう猫耳で腰まで長い女性に声を掛けられ、何かにチェックをしている。
………出席簿?
「まずはこの書類に必要事項を明記した上、本日中に提出をお願いします。それで冒険者の登録手続きは完了になります」
「分かりました。席は決まっているのですか?」
「グループごとに固まって座ってくれれば、どこでも大丈夫です」
と軽い説明を受けながらA4サイズの書類を渡され、ライオンさんの問いにもちゃんと答えてくれた。なので私達は空いている前の席に座り、書類に目を通す。
書類はパーティーの登録申請書で、パーティー名・リーダー・団員・パートナーの精霊名の記入欄。団員名欄は全部で五人分あり、リーダーを合わせる最大六人構成らしい。
他のメンバーはMAXなのに私達は足りないのは、ちゃんとした理由があるのだろうか?
「パーティー名って、動物チームでいい?」
「いや、それ冗談で言っただけだから。本気にしないでくれ」
「だけどうざぎちゃんにも分かる簡単な名前がいいんだよね?」
「まぁな」
早速パーティー名で悩む私達。
確かに動物チームはあまりにも幼稚だけれど、うさちゃんのことを考えるとそう言う名前の方がいいんだと思う。少なくても中二並みのおかしな名前は却下。
「なら先にリーダーを決めようか? 誰かやりたい人」
『…………』
ここで沈黙が走りまたしても、話が一行に進まない。
私がやってもいいけれどなんか大変そうで、もしも何かあっても対応出来ないからやめておく。
だとしたらここは………。
「だったらリーダーはライオンさんがいいと思います」
「え、俺?」
推薦するかのようにライオンさんの名を言うと、当たり前のように驚かれる。
「はい。私はリーダーシップがないですし、タヌキにはうさちゃんがいるんで。そうじゃなくても私の知っている限りのライオンさんはリーダーシップがあると思うんですよ」
消去法で決めたと言ったら可哀想なので、ちゃんとした立派な根拠を言って納得してもらう。
声優の庵さんはいつも悪ふざけしてても、まとめ役がいない時は上手く収集をつけている。それが台本通りならそれまでだけれど、長年見ていたから少なからずそう言う素質はあると思う。
「そう言うことなら引き受けるよ」
「ありがとうございます。ではリーダーは乱堂庵。あれ? 字って力を入れなくても書けるんだ」
ありがたいことに揉めることなくあっさり決まり名前を書くと、また何気ない当たり前のことに驚きまた調子に乗り全員分の名前を書く。
汚い字は変わらないけれど、少しはましになった私の字。これなら愛着がわく。
「お前ってこう言う時は可愛いよな?」
「は、いきなり何言ってんの?」
「確かに。いつも幸せそうな笑顔だから、こっちまで幸せになるんだよね?」
「ライオンさんまで何を言ってるんですか? そもそもそれ単純バカって言うことにもなりますよね?」
そんな私に何を思ったのかタヌキが訳の分からないことを呟き動揺してると、ライオンさんまでがタヌキに同調してあり得ないことを言う。
途端に身体中が熱くなり、二人の顔がまともに見られない。
二人とも目が逝かれた?
それとも実はこの肉体は美女……鏡を見た限りでは私だった。
ならこれは新手のいじめ?
「その初さ。高校時代と何も変わってないな」
「え? もしかして私からかわれてる?」
「少しだけな」
「俺は違うよ。本当にそう思う」
「もういい。どうせ私は良い年越えてお子様ですよ」
いじめに近い仕打ちだと分かり、トキメキが一瞬にして怒りに変わった。
よせばいいのに子供のように拗ねてそっぽを向くと、私達は周囲から注目の的で笑われている。
………恥ずかしい。
「あなた達、とっても仲が良いのね? 以前からの知り合いなの?」
「え、私とこいつは高校時代の友人だけど、この人は初対」
「もしかしてあなたは声優の乱堂庵さんですよね?」
すると三十代前後ぐらいで細くて髪の長いおっとりした清楚な子が愛想良く声を掛けられ話していると、同じぐらいのマシュマロ女子がライオンさんに声を掛ける。
テーションがやたらに高いことからして、言うまでもなくライオンさんのファン。
しかも良く見れば、イベントで必ず見かける熱烈集団の中の一人。もちろん昼の握手会にもいた。
「そそうだよ。君はいつも見かける子だよね?」
「はい、そうです。わぁー、夢みたい」
更にテーションは上がり少々ライオンさんは引き気味であるけれど、ファンなので営業スマイルは欠かさない。
さすがプロと言うべき物なのか?
「な、あいつ昼間の握手会にいなかったか?」
「いたよ。ねぇ私も昨日はあんな感じだった?」
こちらは完全に引いていて小声で問うから、小声で答え何気なく聞き返す。
私と同じファンだからそうなるのは良く分かるけれども、イベント以外でこれは結構痛々しいかも知れない。
これからは自粛しよう。
「お前はあんな喧しくなかったから安心しろ。年甲斐もなく乙女になってただけだ」
「………」
一言余計である。
「見た所二人も少ないようなので、私をパーティーに加えてくれませんか?」
「え?」
「ねぇいいでしょ? 金なら向こうでいくらでも払うから」
「お姉ちゃん、何馬鹿なこと言ってるの?」
突然の爆弾級の申し出に頭が追い付かずポカーンとしていると、清楚な女性が顔を真っ赤に染め姉の暴走を止めようとする。どうやらこの二人は姉妹らしい。
「私は大真面目よ。どうせ冒険するのなら庵としたい。それにいくらあんたの息子だとしても、私はガキが大嫌いなの。知ってるでしょ?」
「お姉ちゃん、ひどい」
「あ、だったらうちもダメだと思うよ。四歳の可愛い女の子のメンバーがいるからね」
「……え?」
きっと今の彼女にはライオンさんしか見えないようで、完全に暴走しかけ言ってはいけないことを平気で言っている。
ここまではっきり言えるのも珍しい。でもそれは揉めることなく断る最高の理由で、ライオンさんはスマイルのまま丁重に断ってくれ笑顔が固まる女性。
子供嫌いの人と組んだら、一番うさちゃんが可愛そう。
「姉がご迷惑を掛けてすみません」
妹が出て来て、申し訳なさそうに謝罪。
姉が姉だけだからなのか、妹の方がしっかりしている。
「いえいえ。これからお互いに頑張ろうね?」
「……やっぱ庵のためなら、ガキが一緒でも我慢するか?」
「我慢しなくても結構だ。今のパーティーでうちの娘は満足してる」
「それに多分子供中心になりますから、辞めた方がいいと思いますよ」
ファンである以上大切にするのは当然で気にしてないような優しい言葉を投げ掛ければ、あまりにも酷い企みを呟くからタヌキが切れバシッと断りを入れる。私も同じ気持ちだから更に忠告。
私とタヌキにはこの人にゴマをする必要はない。
嫌なものは、嫌だと言える。
「お姉ちゃん!!」
「だって私は庵と………。あ、そうだ。私と庵と後一名で独身貴族パーティーを組むから、あんた達夫婦とそこの夫婦でパーティー組めばいいじゃない? マデリーネに」
「私この人と結婚してないし、子供は私の子ではありません」
なぜか話を余計拗らせ状況は悪化していくだけでスルーしたかったけれど、誤解されたら迷惑なので取り敢えず誤解だけは解く。
うさちゃんのママには喜んでなるけれど、タヌキの妻には今の所お金を積まれたってなりたくない。
……まぁタヌキだって相手が私だったら嫌がるだろうけど。
「お姉ちゃん、いい加減にしなさい。本当に皆さんすいません。これ以上ご迷惑にならないよう言い聞かせます」
「え、ちょっと待って。いおり~助けて~!」
遂に妹がキレ深々に謝りながら、嫌がる姉の手を掴み連行していく。
大人しそうな人程キレると恐ろしいと言うのは、どうやら本当のことらしい。
だとしたらペンちゃんもキレると怖いんだろうか?