Ⅴ.ファンタジーワールドの現実
「うわぁ何ここ? 剣と魔法のファンタジーワールドじゃないの?」
「ええ、そうですよ。この世界は魔法と科学が両方発展してるんです。この地方は特に科学の方が発展しています」
「パパ、動物さんが普通に歩いているよ」
『ぶーぶー』
準備が終わりいざ出発とばかりに扉を開けると、飛び込んできたのは予想に反して近代化のSFの光景だった。
多くの建物が近代化であり道路は整備されていて、遠くの方には高層ビルまで経っている。空飛ぶ自動車………。
かと思えば空飛ぶ絨毯が飛んでいたり、人間を筆頭に獣耳・エルフ・動物・アンドロイドといった様々な人種が普通に生活していた。
どうやら私が思い描いていたファンタジー世界は絵空事で、これが現実と言うもの。それでも魔法が使えたり冒険が出来るんだから、ここは間違えなくファンタジー世界。
「その割りには空気が綺麗そうだね? 緑も沢山あるようだし」
「そこは魔法と科学を融合の賜物ですよ? この世界では自然と共存を心掛けていますので、国から一歩出れば未開発ののどかな光景が広がっています」
ライオンさんのふとした疑問に、自信を持って私達の世界の難題を解決したと言う。
理想郷。
そんな言葉がぴったりだ。
「その辺はさすがファンタジーだな」
「そうだね。あれ、双子は?」
「おそらにいった 」
こう言うのも意外にありだと言うことで納得すると、今度は双子がいないことに気づく。ジャンヌが空に指さし教えてくれる。
確かに空飛ぶ車に興味津々と見ていたけれど、よりにもよって許可なく見に行った?
「さすがお前の双子」
「何よ。その目? ペンちゃんどうしよう?」
「フェイス。空海を見つけて学舎に連れてきてください」
「了解。あ、私、ペンドの精霊フェイス。以後、よろしく」
嫌みのタヌキはホッといてペンちゃんに助けを求めると、ペンちゃんの石から明るい腰まで長い水色髪の精霊が飛び出す。
ペンちゃんとは違ってハキハキしていて、名だけ名乗り空の彼方に消えていく。
パートナーに似ない場合もあるらしい。これはタヌキにもう嫌みを言わせない良い機会。
……それでも私と双子は似ていると言えるけど。
「それでは私達も学舎へ急ぎましょう?」
「うん。あ、そう言えばライオンさん?」
「ん?」
「どうして私の誕生日を知ってたんですか?」
ここで聞きたかったことを思いだし、ライオンさんの隣に行き歩きながら質問。
昨日教えた記憶がない。
「それはいけないことだけど、ファンクラブの名簿を拝借したんだよ。前から月島古都音って綺麗な名前だなって思ってたから、すぐに分かったんだよね?」
そう言いながら、いたずらな笑みをライオンさんは浮かべる。
確かにそれはいけないことなんだと思うけれど、私にして見れば嬉しいこと。しかも綺麗な名前だと言われたら、幸せな気分になるのはファンなら当たり前の反応。
名前負けではあるけれど、この際なんだっていい。
「ありがとうございます。嬉しかったです!」
「キツネさん、誕生日なんだね。おめでとう!」
きっとこれ以上はないぐらいの笑顔を浮かべお礼をしてると、話を聞いていたのかうさちゃんからもお祝いされる。
本当はもう日付が変わってるとけど、可愛いうさちゃんからのお祝いだから問題ない。
「これでオレより年上だな。おめでとう」
「今は気分が良いから許す」
「……………」
タヌキのセクハラ発言にも寛大な心で多目に流せば、タヌキは無言でふて腐れたのかうさちゃんを連れ先を歩く。
まさか言い返して欲しかったとか? ……性格悪い奴。
『ことえ、ごめんなしゃい』
学舎に辿り着くと正門にはフェイスと半べその双子がいて、私の元にくるなり頭を深く下げ平謝り。すでにもう反省している。
「フェイス、何かしたんですね?」
「失礼な。私はこのやんちゃどもにパートナーを困らせていうこと聞かないと、嫌われるって叱っただけよ」
「本当に?」
「…………いらなくなったら捨て山に捨てられて、ドラゴンに食べられるって」
ごもっともなフェスの叱り方に感心してたのも束の間、ペンちゃんの疑いの視線と確認にフェスは小声で言い直す。
それでもお説教としては良いのかもしれないけど、双子の顔は真っ青に染まり私にしがみつく。
無関係なはずの菫とジャンヌ。それからうさちゃんまでもが震えて怖がってしまう。
「いやだ~。ことえ、すてないで」
「これからいいこにするから」
「いおりのいうことなんでもきく」
「たべられたくありません」
「うさもパパの言うこと聞いて良い子にする」
「あれ? 効果抜群?」
みんな一斉に泣きだし大事になり、流石にフェスもこれには苦笑し戸惑い石に戻ってしまう。
確かにこの反応は異常だ。
それだけ純粋なんだろうか?
「これからはちゃんと私に言ってから遊びに行くんだよ。これはお仕置き」
いくら反省しててもおとがめなしには行かず、約束を交わし額に軽く凸ピンする。
すると双子は額を隠しながら、何度も頷く。
「うさも菫もお前達は良い子だから、問題ないだろう?それに悪いことしたら、おしりペンペンだ」
『ひぃ~』
優しく言い直しても、これはこれで効果抜群。
「ジャンヌはそんなことしたら、おうちでお留守番だからね。もちろんおやつはなし」
「……わかりました」
同じく。
と言うことは私も、何か罰を考えた方がいい?
「………石の中で反省?」
『ぜったい、いやだ』
「うん。じゃぁ次からそれで決定。イヤなら良い子にしなさい」
『……はい』
普通ならまったく罰になってないことでも、双子に効果がありすっかり塞ぎ混む。
やっぱり双子は本来基本であると思われる石の中が嫌い。疲れて眠くならないと入らない。
「石の中は精霊達にとって過ごしやすい環境だとらしいのですが、ごくまれに石の中を嫌う精霊がいるらしいですよ」
「だとしたら相当変わってる精霊なんだ。双子だし」
「俺は個性があって良いことだと思うよ」
何事にも例外と言うものがあるのを聞いて安心していると、タヌキの関心には嫌みに聞こえてムッとするものの、ライオンさんの感想は優しい。
私も双子の個性は大切にしたいと思う。好奇心旺盛な所はうまく育てていきたい。
「それでは精霊達の授業は私が受け持つので、キツネさん達はまっすぐ行った突き当たりの部屋に行って下さい」
「了解!」
「なぁペンギン、うさも精霊達とお前の授業受けさせてもいいか?」
「それはもちろん。うさぎさんはそれで良いですか?」
「うん。うさにも分かるのがいい」
建物に入るなり当初の予定通りの話をペンちゃんが切り出すと、タヌキはうさちゃんを頼み本人も乗り気のようだ。
確かに今なら精霊達とうさちゃんはまだ似たようなレベルだから、私達が受ける授業より分かりやすく楽しいかも知れない。
普通だったらここで双子がだだをこねそうなのに、今はやけに静かでどんよりと凹んでいる。罰の効果は何よりも絶大な効果があるらしい。でもそれは一体どのぐらい続くんだろうか?
「空海、ペンちゃんの言うことをちゃんと聞いて、みんなと仲良くするんだよ」
『うん』
甘やかすつもりはないけれど、元気のない双子は可愛そうなので、ニッコリとそう言いながら頭をなぜる。
すると少しだけ元気になったのか、可愛い笑顔が浮かぶ。
「菫、うさを頼むな。なんかあったらすぐ知らせろよ」
「わかりました」
「ジャンヌもしっかり勉強してくるんだよ」
「はい」
菫とジャンヌも嬉しそうにして、先行くペンちゃんの後をついていく。
そして私達も
「じゃぁ久々に学園生活を楽しもう」
「そうだね。そう考えると、なんだか楽しそうだね」
「まぁな。行くか?」
久しぶりの授業に期待して、言われた部屋へ向かう。