ⅢⅩⅤ.初めてのダンジョン攻略
子供の頃から憧れていたダンジョンは順調に先へ進んでいたけれど、それはギランのおかげでモンスターが自ら逃げているだけだった。
確かに自分より強い相手がいる所に好き好んで突っ込んでくるチャレンジャーなんているはずがない。
いくら子供でもドラゴンはドラゴンだから。
しかしこのままではパーティー課題をクリアできても、個人の課題のクリアは難しくなってきていた。
「うさぎさん、みなさんの課題が終わるまでギランを小さくし気配消し魔法を使ってもよろしいでしょうか?」
「ギランくん、いい?」
「ギャオン」
緊急対応するべくペンちゃんはうさちゃんとギランに提案して許可を貰うと、早速ギランはうさちゃんの顔と同じぐらいになり頭上に乗る。
その姿は滅茶苦茶可愛くて、スマホを取り出しうさちゃんに向ける。
「キツネ、何やってる?」
「私も撮りたいです!」
「え、藍まで?」
「おいら達もうさぎとギランと撮ってくれ」
「あたしも。誠可愛く撮ってね」
「やれやれ」
そんな私にタヌキは驚き、コアラちゃんは私と一緒にスマホを向ける。それにライオンさんも目を丸くする。
精霊達は一緒に撮って貰いたいようでうさちゃんの元に行く。誠さんは呆れていた。
とにかく私が原因でお祭り騒ぎになってしまいダンジョン攻略はもちろん一時中断されようとするけれど、いきなりはりつめた空気に変わりただならぬ気配が近づいてくるのが分かった。
「みなさん、戦闘態勢に入って下さい。それなりのモンスターです」
「それなりって、これ初戦だよな?」
「そうだね。でも俺達結構進んでいるからね」
さっきまでとはまるで違う初めて見る真剣なペンちゃんの指示に、誰もがこれはただ事ではないことを自覚し緊張感がさらに入っていく。
タヌキの言いたいこともライオンさんの言っていることもよく分かる。
私達はこれが初戦なのだからその辺は考慮して下さいと言う気持ちはあるけれど、ここはきっともう目的地に近いんだろうから現実的に生易しいはずがないんだろうな。
そしてモンスターは四匹が私達目掛けて突入してくる。
狼のようなガガルと白鳥のようなワンスターは並みの強さらしいから多分いけるとは思うけれど、問題はのようなラガドール。
ラガドールは中の上モンスター。
いくらなんでも私達では倒せな……ペンちゃんに任せるべき?
「皆さん、課題を変更します。このモンスター達をすべて倒せれば個人課題をクリアにします。安心して下さい。死ぬ寸前で助けます。うさぎさんはこちらへ」
『は?』
任せる前に鬼畜な事を爽やかに言われ、信じたくない私達は耳を疑い何とも言えない裏声がハモる。
ただうさちゃんには優しままで少し離れた足場の良いスペースに移動しシールドを張った。
ここに来て腹黒発動ですか?
死ぬ寸前で助けるって、瀕死までは助けてくれない。
まぁうさちゃんを自分と同じ高みの見物にさせたのは懸命な判断だと思う。
「つまり獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす。ですね?」
「クマくん何冷静に分析してるの?」
「ライオンもボケ突っ込み噛ましてんじゃねぇ!! コアラ、ガードしろ。キツネ、双子を同時に使って一発ぶっぱなせ」
『はい』
誠さんとライオンさんはほっとくことにして焦りまくりで口は悪くてもしっかりとした指示を出すタヌキに従い、まずはコアラちゃんとポムか息のあったコンビネーションで結界を張る。
と言ってもレベル2の結界魔法なのでどのぐらい持つかわからない。
「空海、行くよ」
「任せろ」
「任せて」
今度は私の番で双子は準備万端らしくやたらに張り切る。
私が知っている最大級の魔法はレベル2の炎系。
双子が同時だから威力は増すから、これ以上になると信じよう。
特大な炎の攻撃をイメージしながら指先に神経を集中させる。
「プロクスボム」
力強く叫びフィンガースナップで、魔法はうまく発動。
頭上に無数の炎の珠が産まれモンスターめがけ突撃。
タイミングの良い所で
「ブレイク」
もう一度言葉と共にフィンガースナップすれば、炎の珠は勢い良く破裂。
ダッン
威力も大きさも練習時よりか倍以上あり、直撃した上壁に激突しその場に倒れ動かなくなる。
ワンスターは爆音に驚き敵わないと判断したのか、ガガルは尻尾を巻いてさっさと逃げていく。
あっと言う間に一匹になりこれなら意外に楽勝かと思ったのは一瞬の束の間。
何発かは直撃したはずなのにラガドールは、かすり傷程度のダメージを与えられないどころか余計な怒りを買ったらしい。
手を振り上げただけなのにその爆風に、結界は一度防いだだけで壊れてしまう。
すぐにコアラちゃんは同じ結界を張るけれど、残念ながら一度しか持たない。
「冗談だろう? おいペンギン、こんな奴本当にオレ達が遣れると思ってるのか?」
「落ち着いてやれば大丈夫と言いたいとこですが恐らく無理だと思うので、後十分耐えて下さい。ギランを元に戻せます」
「そんなこと言ってないで助けてよ」
ペンちゃんに助けを求めてもなぜか答えは鬼畜過ぎるものだった。
あくまでも自分達の力でなんとかしろと言うことなんだろうけれど、世の中どう頑張っても無理ゲーと言う物がある。
バシッ
再び攻撃を受け結界は破られるが、すぐに新しい結界が張られる。
「藍、無茶するな」
「私なら平気です。ですから早く反撃して下さい」
「ボクも頑張る!」
「コアラちゃん、ポム。うん、わかった」
駄目な大人達とは違いコアラちゃんだけがまだまだ懸命に頑張ろうとしている姿を見て、すぐに諦めてしまった自分が情けなくなりコアラちゃんを見習い何度でも頑張ろうと心に決めた。
一回がダメなら連打すれば打撃を与えられるかもしれない。
バシッ
ラガドールの攻撃は止まることなく襲いかかり、本来ならすぐに破られるはずの結界は今回ばかりは攻撃を防いだ。
「助けることはできませんが、結界を強化させてもらいました。皆さんよく話し合って作戦を立てて下さい」
どうやらペンちゃんはただの鬼畜ではなく少し鬼畜だったようで、今の私達にはありがたい中途半端なサービスだった。
そんな時誠さんはクスッと意味ありげな笑みをこぼすのを見てしまった。
さっきから何も話さなかった誠さんだけに不気味なものを感じる。
「誠さん?」
「どうやらあのラガドールは左足を痛めているみたいだね」
「え? だったらそこを集中して攻撃をすれば、倒せなくても追い払うぐらいは出来るんじゃ?」
「さすがクマ」
どうやら私達が軽いパニックに陥っていた間、誠さんは冷静にラガドールを分析し続けてしかも貴重な情報までげっとしてくれたようだ。
不気味だと思ってすみませんでした。
「だったらここは三手に別れよう。俺とタヌキくんは囮になって、キツネちゃんと誠くんはそこを一斉攻撃。藍はここで俺達を指示してくれる」
思った矢先ライオンさんはリーダーらしい適切な指示を出しつつ、うまい具合にコアラちゃんを危険な場所から遠ざける。
いくら弱点が分かったとはいえ格上相手なのだからやっぱり危険度は高いままだし、コアラちゃんはもう十分過ぎるぐらい頑張ってくれた。
だから今度は私達の番。
「はい分かりました。みなさん、よろしくお願いします」
「任しとけよ。じゃぁライオンいくぞ」
「おう」
すっかりタヌキも元に戻り、ミッションは再開される。
「キツネくん」
「はい、なんでしょう?」
自然とキツネと呼ばれて条件反射で返事をしてしまいもう後には退けなくなってしまった情けない私。
この分だと私もクマさんと呼ばないといけないんだろうか?
…………。
…………。
……無理だな。
私は断固として誠さんと呼ぼう。
「さっきの魔法発動のタイミングが少しずれていたと思う」
「え、本当ですか? だからダメージが与えられなかった?」
話の内容は目から鱗が出るほどのありがたいものだった。
自分の中では完璧だと思っていただけに正直ショックもあるけれど、これが今の実力なのだから素直に認めて直す努力をしよう。
ただリズム感がない奴だから、すぐには無理だろうね?
「今回は私が合図をするから合わせて欲しい」
「もちろんです。今度はずれないように頑張ります」
合図されてもずれたら意味がない。
私を思って言ってくれた優しい言葉のはずなのに、変なプレッシャーが掛かったらしく身体中に力が入り重くなる。
緊張すると固くなるのは、こっちの世界でも同じ。
「大丈夫。僕を信じてくれれば、乗り切れるから」
「え、あはい」
そんな私に誠さんは優しく微笑み、なぜか手をギュッと握られた。
不思議と緊張がほぐれ温かい気持ちになり胸の鼓動が高鳴り……、
ここでハッと我に変えりブレーキをかけ現実に戻る。
なぜここでいきなり恋愛フラグが立つ?
って言うか、これは恋愛フラグ?
ただ私に任せると失敗するから、自分が主導権を握ったと言うだけだよね?
何があっても誠さんとの間に恋愛フラグなんて立はずない。
しっかりするんだ月島古都音。
自分の心に強くそう言い聞かせ私なりに自然と囮組達に視線をやると、苦戦しつつもなんとかうまくやっているようでそろそろ私達の出番かなと思い始めた時、ラガドールの攻撃をすべて避けきれずタヌキは数発かする。
かすった程度だから少し態勢を崩したたけで心配はないけれど、それを四歳児が分かるはずもなく
「パパをいぢめちゃだめ~!!」
「あ、うさぎさん?」
大必死に叫ぶうさちゃんの声が響き渡り視線を合わせれば、ペンちゃんを振り切りギランとタヌキの元に掛けよりラガドールの前に両手を広げ立ちふさいだ。