ⅢⅩⅣ.ミッションを始める前に
「いよいよこれからみなさんには実際にミッションを体験してもらいパーティーの団結力とそれぞれの実力を見せてもらいます。もし課題がクリア出来なかった場合は、補習となりますので覚えといて下さい」
いよいよ始まるミッションに期待を膨らませつつもちゃんと説明は聞かないといけないので、はやる気持ちを抑えてマデリーネの話を真面目に聞く。
課題にクリア出来ないと補習だなんて初めて知り、楽しんで攻略する訳にもいかなそう。
それにしても初日には十二チームいたはずなのに、いつの間にか三チームぐらいの人数になっている。
ペンちゃん曰く最終的にはもう少し減るとか。
「今回は当初通り冒険者を希望したのは十二人。飲食業を希望したのは三人。未定一人の計十六人です。今年は当たり年ですね」
「飲食業と未定の四人は食材調達ミッション。冒険者候補は二チームに分かれ、ダンジョンミッション。内容は担当指導員から直前に発表されます」
「だったら私は庵のパーティーが」
「無理だ。華恋のレベルじゃぁ、足手まといも良い所だ」
早速華恋が災いの種を仕掛けるけれど、キングは豪快に笑い容赦なく却下する。
私達のチームはレベルが高いと言われていて、初心者なのに中級者向けのミッションを薦められそれにすることになった。
私も双子の使い分けがどうにか出来るようになり、めきめき実力を上げているから遅れをとらないはず。
「なんでよ。そこのガキんちょよりはよっぽど……」
「うさぎはすでにドラゴンと契約してるんだぞ? なんならここでドラゴンと勝負してみるか?」
「うっ……」
うさちゃんの事を見下す発言を強気に返す華恋にキングは涼しげに真実を語れば、いくら華恋であってもその辺は常識があるらしく口ごもる。
庵さんより自分の命が大切だと思うのは当然なんだろう。
おかげで殺気を臭わせ中のタヌキさんがぶちギレずにすみました。
「と言う事で誠お前が加われ」
「はい、分かりました」
こうなれば必然的に魔法専攻でトップである誠さんが私達のパーティーに加わることになり、それを望んでいた誠さんはどことなく嬉しそうに了承し無事にメンバーが決まる。
私達も大万歳だ。
「誠くん、改めてよろしく。無事にクリア出来るよう頑張ろうね?」
「はい。乱堂さん達のパーティーに加えるとは光栄です」
「クマさんって呼んで良いですか?」
「そうだな。ここのパーティーは動物名で呼び合う決まりだから」
一時的に仮入部という形になった誠さん相手にタヌキはさも当然とばかりに教えるけれど、私でさえそんな決まりがあることを初めて知り驚く。
たまたまみんな動物の名前だっただけで、動物さんチームにした。
確かに誠さんは九条誠だからクマさんだけど、いくらなんでもそこまで強制したらダメだと思う。
そもそも私の立場も考えて下さい。
誠さんは副社長で私の直属の上司です。
使い分けなんて出来ません。
しかしそんな私の望みも虚しく、誠さんは納得の行った表情を浮かべてしまう。
「分かりました。私の事はクマと呼んで下さい。キツネくん、コアラくん、ライオンさん、タヌキくん、ウサギくん」
あっさり了解してしまい、嫌なお願いまでされる始末。
私以外は特に不都合はなくほんわかムードになり、どうやってもこの状態をぶち壊すことなんて出来そうもない。
諦めるしかないと思いつつ悔しいからタヌキの足を踏み、うさちゃんに見えないよう睨み付ける。
タヌキがすべていけないんだ。
「キツネ、何……やべぇクマはキツネの上司だった……」
珍しく自分が犯した失態を理解したようで、怒りは気まずさに変わり口を閉ざす。
理解するのが遅すぎる。
「俺とキツネさんとクマくんが前線で、後は後方。ペンギンさんは俺達を見守るでいいんだね?」
「はい。何かあれば私が対処しますが、ドラゴンがいれば問題はないと思います」
そんなやり取りがあるとは知らないライオンさんは真面目に最終確認を続けていて、ペンギンさんはすっかり安心しきっている。
本当にライオンさんがリーダーで良かったと思う。
そしてうさちゃんはこっちではこの中で一番頼りになるのかも知れない。
「うさ、いっぱいがんばります」
「私もみなさんの足を引っ張らないようがんばります!」
「頑張るのもいいけれど、あんまり無理をしても駄目だよ。俺達はチームなんだから、仲間を信じて任せることも必要なことだからね」
元気いっぱいに張り切るうさちゃんとコアラちゃんに、優しくライオンさんはチームプレーと言うものを教える。
そうこれは私達が団結して、クリアするもの。
頑張り過ぎて暴走したら、みんなに迷惑を掛けるだけ。
『分かりました』
「空海も今日は団体行動だからね?」
「アンナも勝手に精霊達だけで遠くにいかないこと」
『はーい』
物分かりがいいうさちゃんとコアラちゃんに便乗して問題児達にも言い聞かせてみるけれど、不安でしかない元気いっぱいの返事が響き誠さんと一緒にため息をつく。
今日はアンナも一緒だから余計目を光らせて注意しておかないと駄目だな。
「キツネさん、安心して下さい。フェイスが精霊達を見張ってますから」
「そそう? ありがとう」
ペンギンさんの事だから親切心で言ってくれたとは思うけれど、見張っていると言う台詞に少しばかり違和感を感じてしまう。
それはペンギンさんがどうのと言うわけでもなくフェイスの怖さを知っていて、双子とアンナも聞いた瞬間顔からさっと血の気が引き怯えだしパートナーの私達の元に身を潜める。
こんな愛らしい姿を見せるから、私は双子に厳しく最後まで怒ることを出来たことがない。
だから私だけでは双子を完全に大人しくさせられないんだと思う。
私ってやっぱり子育てには向いてないんだろう。
まぁそんな予定もうないだろうから、双子さえ優しくなってくれれば問題はない。
「ではこれからミッションを発表します。パーティーの課題は、俺達は洞窟の奥にいるモフモフの毛を刈ってくる。モフモフと言うのは地球で言うアルパカのような生き物です。
個人課題は、戦闘系の職業はモンスターを二匹退治し、うさぎさんはすでにドラゴンと契約してるため免除となります」
ついにペンちゃんからミッション内容を発表された。
うさちゃんについての配慮はごもっともなため、ここには誰もズルいと妬む人などはいない。
逆にクリアではないと言われたら、常に最高級ランクのドラゴンと契約していると言うのに、更に何と契約すればクリアと疑問視するとこだった。
それにしてもモフモフの毛を刈るか。
なんだか随分ファンシーなミッションだな。
「ねぇペンギンさん、モフモフさんは触っても大丈夫ですか?」
「外見と違い凶暴ですからやめて下さい」
私と同じで毛並みがすごくフカフカだと思ったうさちゃんは興味津々とばかりに聞くけれど、返ってきた答えは恐ろしいものでファンシーな妄想は打ち砕かれ今度は私がゾッとする。
しかし外見は想像通りファンシーらしい。
「うさ、ミッション中はギランから離れないこと。ギラン、うさを護ってくれよ」
「ギャオン」
「うん。ギランくんと一緒にいる」
流石にミッション中は護ることが出来ないと判断したらしくギランに任せ、ギランも理解したのか勇ましく吠えうさちゃんを背中に乗せる。
適切な判断だ。
「これで準備満タンだね? なら出発しようか?」
「ですね? みんな頑張ろう」
『おう』
これが本当のスタートで私の掛け声に、みんなは張り切り声を上げる。
遊びじゃないことは十分分かっていても、ドキドキワクワクしてしまう。
怖い気持ちはまったくない。