ⅡⅩⅧ.恐るべし懇親会
先輩冒険者達の話はとても役に立ったのと同時に、これからのことをもっと良く考えないといけないことに気づかされた。
冒険なのだから危険が伴うことは分かっていたけれど、それより二つの世界の住み分けが大切だってこと。
混合にしてしまうといつか取り返しのつかない事件が起きてしまい、両方の世界から抹消されることがあるらしい。それはつまり死と言う意味。
確かに地球で魔法を悪用すればほぼ無敵状態だから、世界征服も夢じゃないかも?
・・・・・・やらないけれど。
それにパートナー精霊にも注意が必要で、ある程度知能があるから子育てよりも大変だそうだ。
それはもう体験済みで全員分かっているらしく、深く頷き熱心に聞いていたのは言うまでもない。
「君の事は誠から聞いてるよ。わが社の社員らしいね」
「あ、はい。月島古都音と言います。宜しくお願いします」
懇親会が始まったと途端隠れる暇などなく誠さんから両親の紹介されてしまい、私は緊張マックスの状態で失礼がないよう挨拶をする。
絶対ドジを踏めない。
「そうかしこまらなくてもいい。僕の事は弘さんと気軽に欲しい」
「あらだったら私はつぐみ姉さんと呼んでね?」
「え、あその・・・」
社長も奥さんも随分フットワークが軽くてホッとしたいんだけれど、これは素直に受け止めていいのだろうか?
もし会社で二人をその名で呼ぶものなら・・・。
考えただけでも恐ろしや。
「キツネ、どうした? 顔が真っ青だぞ?」
「あんたで言う市長に言われてる状態だから」
「うっ、それはかなりきついな」
私を心配して残ってくれている首を傾げるタヌキに、彼らには聞こえないよう小声で分かりやすく説明するとたちまち苦い顔をする。
だけどここで断ったとしても後々面倒になるのは変わりない。
「今度僕とも昼食を一緒にどうかね?」
「父さん?」
「私には絶対無理です。ちょっと用事があるのでこれで失礼します」
なぜかそんな展開になりこれには誠さんもびっくりして、私もそれは勘弁だと思いお断りをして用事を付けて速攻逃げる。
社長と昼食?
いくらなんでもそれだけは駄目です。
副社長と友人と部内中に知られている以上、社長とも親しくすれば噂はありえない展開が出回るに決まっている。
それでいて私は副社長ファンに殺されるか、派閥争いに巻き込まれます。
「助けて下さい」
「どうしたんですか?」
「またタヌキくんと喧嘩でもした?」
「喧嘩はしてません。社長が低級でしかない社員と交流を図ろうとしています」
楽しそうに話しているライオンさんとコアラちゃんとネコさんの元に駆け寄り助けを求めると、心配そうにしてくれるものの昼間の件もあり何か誤解されます。
これも日頃の行いが悪いからなんでしょうか?
誤解はすぐに解く。
「それはいいことだとは思うけれど、確かに大企業の社長となると交流はしきりが高いかな?」
「だと思いますよ。私も社長とか変わるのはイヤだな」
社長も声優で普段から交流があるらしいライオンさんには弱冠分かってもらえなくても、同じ立場に近いネコさんには分かってもらえてホッとする。
社長と仲良くなりたいと思う社員は、出世を狙う世渡り乗ずだけ。
私は一生平で構いません。責任なんて負いたくないです。
「そう言うものなんだ。でも彼は九条くんの父親なんだから、印象は良くしとかないと後々問題だよ」
「え、それってまさか?」
「はい? ライオンさん何言ってるんですか? ネコさん違うから。誠さんはただの趣味友だから」
意味深なことをいたずらっぽくライオンさんが言いネコさんは間に受けるから、私は声を裏返らせ最大限のボリュームでしてしまった。
その瞬間誰もが驚き静まり返り、私は注目の的となる。
ここでも私は何かと有名人……。
「古都音、どうした?」
「ことね、大丈夫?」
「え、あうん」
私の心配をしてくれ血相をかいて飛んできてくれる空海のおかげで、少しだけ復活するもののやっぱり元気はでず。
かと言って私が元気ないと空海がますます心配して、逆に騒ぎを起こすのは目に見えている。
優しいけれどまだね。
「ライオンにいぢめられたのか?」
「え、俺?」
「海、庵はそんなことしないよ。それに相手が大好きだと、例え苛められても嬉しいらしいよ」
「だから私はどMじゃない」
思ってるそばから誤解をされジャンヌも加わり、最早再び軽い騒ぎになる。
一体ジャンヌはそんな片寄った情報をどこで入手したんだろうか?
そして私はやっぱりMに見れらてる?
……なんかもう帰りたい。
「嘘だよ。くーはことねが大好きだけれど、いじめられたら悲しいもん。ジャンヌはライオンにいじめられたいの?」
「え、それはいやだ。……キツネ、おかしなこと言ってごめんなさい」
空のナイスな例えにより、考えを改めたジャンヌは悲しげに謝ってくれる。
素直で物わかりの良い子で助かった。
「確かに庵兄さんは少々Sっ毛がありますね?」
「え、そうなの?」
「言われてみればそうかも知れない」
クスクス笑いながらそう呟くコアラちゃんに、ネコさんは驚き私は思い当たる節があり賛同する。
からかわれて反応を楽しまれているのもSなのかも知れない。
ん?
でもそうなったら私の知り合いの男性って、Sしかいなくない?
それってやっぱり私はリアルでもMって言うこと?
「藍とキツネちゃんまで酷いよ。Sって言うのは、こう言うことじゃない? どうしてオレの言うことが聞けない? お前は馬鹿なのか? 」
『…………』
「死ぬ」
「こんなの庵じゃない」
「ジャンヌ、泣かないで」
「ライオン、おかしなもんくったのか?」
やらなくても良いのに壁ドン付きでネコさんに再現するから、ネコさんは乙女になり再び死にかける。
私とコアラちゃんはドン引きし呆れ何も言えない。
ジャンヌは泣き出し、空海もどこか覚めている。
ある意味凄まじい光景だ。
「そこまで酷い扱いをされると凹むんだけど」
イマイチ過ぎる寒い反応に、ライオンさんは肩を落とし苦笑。
自信をなくすのは当然なんだろう。
しかしこう言う場面でわざとやられても、馴れてない人には効果なしなんだよね。
ネコさんには効果抜群だけど。
「ライオン、何かあったのか?」
「……いやべつに……」
「絶対何かあっただろう?」
懇親会が終わった帰り道。
未だに凹んでいるライオンさんに何も知らないタヌキに問われ凹んだまま誤魔化すので、疑問は確信に変わったようで今度は私とコアラちゃんに視線が向けられる。
あの時私とコアラちゃんが一緒にいたことは知っている模様。
「悪ふざけしてまたファンの子を失神させたの」
「お前は平気だったのか?」
「いかにもやらせって言うのもね?」
「良く分からんが、ライオン、元気出せ」
「ライオンさん、一緒にお歌を歌おうよ」
「タヌキくんもうさぎちゃんもありがとう。何歌おうか?」
真相を知っても励ます優しいタヌキと幼ながら元気付けようとするうさちゃんに、ライオンさんは元気を取り戻し本当に二人を感謝しているようだ。
そしてうさちゃんと手を繋ぎいつもの童謡を楽しく歌い出す。
そんなほのぼのシーンを私とコアラちゃんは顔を見合わせ笑い、温かく見守るのだった。
 




