ⅡⅩⅦ. 先輩冒険者達
「え、うそうそ? これは夢か何か?」
「まぁ夢と言えば夢だな? 知り合いでもいたのか?」
いよいよ交流会になり先輩冒険者達が教室に入って来る中一人の肩に掛かるぐらいの黒髪の五十代半ばの女性を見るなり、私は心底驚き我を忘れそうになる。それをタヌキはご丁寧に返してくれ少しだけ不思議そうに問われる。
しかし知っているけれど、知り合いではない。
けして関わることが出来ない私にとって神的存在。
「ねぇビックリしただろう?」
「ライオンさんは知ってたんですか?」
「うん。収録の時ジャンヌを見られて僕も彼女のパートナーを見てね」
クスクス笑いながら話し出すライオンさん。
確かにライオンさんと彼女は同じアニメに出演している。
さっきの意味深な言葉はこの事を言ってたんですね?
大物声優 桑原 のぞみが、先輩冒険者だったことを。
「庵兄さん、だったら教えて下さい」
「ごめんごめん。二人を驚かせたかったから」
どうやらコアラちゃんにも教えていなかったらしく頬を膨らませ文句を言うけれど、ライオンさんはそう返しながらコアラちゃんの頭をなぜる。
いたずら好きなライオンさんらしい。
「? 声優なのか?」
「うん。タヌキも知ってるはずだよ。ダイヤパーツのヒイロインやってた人だから」
「ほおー、アリアスか。懐かしいな」
まったく分かっていないタヌキだったが、高校時代ハマっていた作品を上げると、感心しのぞみさんを見る目が変わる。
オタクじゃないのに当時は相当ハマっていて、私も好きだったから話は弾んで楽しかった。
「え、タヌキくんも好きだったの? 俺もなんだよ。シリアスありギャグありで最後は傑作だったよね」
「だな? きれいに完結したしな。また読み直したくなってきた」
「パパとライオンさんが仲良くお話ししてる」
珍しくタヌキとライオンさんが盛り上がり始めると、うさちゃんはニコニコと嬉しそうに見ている。
「庵さん、キツネさん!?」
「え?」
私もなんだか嬉しくてそんな三人を幸せな一時として眺めていると、馴染みあるオタ友の声が聞こえた。
キツネはオタネームでもある。
しかし振り向き辺り見回してもそれらしい人はいない。
空耳?
「キツネさん、私です。ネコです」
「え、ネコ? ……あなたネコさん??」
ファイター風で赤髪のショートの女性に名を名乗られ一瞬戸惑うもののよく見ると、かなり外見は違うものの確かにネコさんだった。
地球では軽いパーマを掛けた黒髪でごく普通の子だと思っていたけれど、実はそうでもなかったとか?
ネコさんとは十年ぐらいのオタ友で、よく乱堂さんがらみのイベントには一緒に行っていた。前回は用事があったらしい。
「はい。キツネさんは今回選ばれたんですね? と言うより庵さんまで?」
「こんにちは。君はよくキツネさんとイベントに来てくれてるよね?」
「え、はい。宜しくお願いします」
私のことよりライオンさんがいることの方が驚きのようで、さらには認識ありのスマイル笑顔にテーションが高くなっていることがよく分かる。
「それはこちらの台詞だよ。君は俺達の先輩なんだから、これからいろいろ指導して下さい」
「はう」
こう言う時遊び出すのがライオンさんで甘い声を出すから、ネコさんは完全にノックアウト。気絶し掛けるネコさんをなんとか抱え踏ん張る。
「ライオンさん、こっちではライオンさんじゃないんですか?」
「そうだったね。俺から言ったのに何してるんだろう?」
少しだけ怒るとライオンさんは多いに反省するからまるで私の方が言い過ぎたと言う錯覚が生まれる。
しかし声優の乱堂さんとリーダーのライオンさんを別けてくれと言ったのは紛れもなく本人で、……それってまさか私限定……んなわけないか。
「庵兄さん、本当に何をしてるんですか? キツネさん、もっと強く言って良いんですよ」
しかしコアラちゃんは私に味方をしてくれ、さっきのこともあるのかやけに冷たい。
それでライオンさんはますます凹み、相当ダメージを与えたんだと思う。
「……声優こわっ。そしてコアラもこわっ」
タヌキは圧倒されている。
「キツネさん、ありがとうございます。庵さんと同じパーティーなんて羨ましい」
「どういたしまして。ネコさん、乱堂さんはここだとライオンさんって言うんだよ。頼りになるリーダー」
「ライオンさん?」
「そう。私の所のパーティーメンバー全員動物名が愛称になってるの。他にタヌキとコアラとペンギン。うさぎは本名なんだけど」
この際なのでネコさんにも庵さんとライオンさんを別けてもらおうと、ダメ元で理由を話せば、最初は不思議そうに首をかしげるネコさんだけど詳しく話していくと納得してくれた顔に変わっていく。
これで一安心?
「ネコさんならうさ達のパーティーに入れるね?」
「え、そうだね? だけど私にはもうパーティーがいるんだ。私ともう一人以外はこの世界の住人なんだけど、とっても良い人達なの」
「へぇ~、そう言う構成もあるんだな」
いくらファンでもそこは常識人なので、迷うことなく断り重要な話を切り出す。
この世界の住人ともパーティーが組める。
よく考えたらありえる話だけれど、そこまで頭が回らなかった。
「詳しくは発表するので、何か質問あったら聞いて下さい」
「うん、分かった」
やっぱりそこは重要なことらしくそう言ってネコさんは来賓席に着き、私は何気なく他にはどんな人がいるのかと見定める。
「あれ? あの男性どこかで見たことがある」
すると見覚えがある七十半ばぐらいの、なかなかの渋いおじ様を発見。
桑原さんともう一人の女性と楽しそうに会話をしているからして、三人は同じパーティーなんだろう。
それとも声優仲間でもあるとか?
「俺は知らないな」
タヌキがそれに反応するけれど、寧ろ彼が知らない可能性が高い。
「見覚えがあって当然ですよ」
「あ、誠さん」
苦笑する誠さんが私達の元にやって来て、タヌキとは正反対の回答。
会社の人?
………………。
フッと嫌な予感が脳内を横切り恐る恐るもう一度その男性を確認すると、誠さんにどこが似ていることに気がつき途端に血の気がさっと引き後退する。
どうりで見覚えがあるはずだ。
しかし嘘なら嘘だと言って欲しい。
「キツネちゃん、どうしたの?」
私の異変に気づいたライオンさんは不思議そうに問うけれど、私の口からはとてもじゃないけれど言いたくない。
「そんなに怯えなくても、大丈夫ですよ。父は気さくで優しい人ですなら。母は愉快な人ですよ」
一番欲しくなかった答えを爽やか笑顔で言うけれど、そう言う情報はどうでも良くとにかく絶望する。
誠さんの家系は一体なんなんですか?
「なんだお前の両親か。だけどそれでなぜキツネがそんなに怯えるんだよ」
まだ意味が分からず疑問視する誠さんの正体を知らないとタヌキとは違って、そのからくりに気づき誠さんの正体を知るライオンさんとコアラちゃんは同情の目で私を見つめる。
「君は確かキツネちゃんの会社の副社長なんだよね?」
「と言うことはつまりあちらの男性はキツネさんの会社の社長になりますね?」
「…………」
真相は二人によって暴露される。言葉が出ずにただ頷くだけ。
社長と知り合いになることはこの際良いとしても、それを職場の上司達に知られるのは非常によろしくはない。
部長達が更におかしな気を回すだろうし、遠藤さんのような逆恨みするやからが増える。
だけどいくら異世界仲間でもベテランだから、こっちでもあまり関わりがない?
知人程度?
そんな微かな望みが出てくるけれど、
「両親に古都音くんのことを話したら、是非紹介して欲しいと頼まれてる。後で紹介するよ」
なぜか誠さんはすこぶる笑顔で恐ろしいことを発してしまう。
両親に私のことを話して、更に興味津々??
何その結婚前提の彼女を紹介するような流れは?
間違ってませんか?
「お前本当に偉い奴に好かれたな?」
「遊ばれてるだけでは?」
泣きたくなります。