ⅡⅩⅢ.おいしい食事の隠し味
「本当にこのハンバーグオムライス、美味しいね」
「だろう? なんせオレの十八番だからな? 双子はどうだ?」
「うまい」
「ハンバーグがフワフワと卵のとろとろが絡み合っておいしい」
想像以上にほっぺたが落ちそうになるぐらい美味しいハンバーグオムライスを絶賛する私と双子に、タヌキは有頂天でご機嫌になる。しかも美味しいしか言えない私と海とは違い、空はなかなかの食レポートぶり。
海は私とそっくりなのに、空はだんだん私とはかけ離れつつある。泣き虫だしおっとりしてるし甘えん坊。
まぁそこが可愛いんだけどね。
「空は味が分かるな。また作ってやるよ」
「うん。約束」
「キツネさん達、毎日一緒に食べようよ。みんなで食べると楽しい」
「そうだな。そうしろよ。どうせろくなもん食べてないんだろう?」
うさちゃんの突然の思い付きにタヌキも気軽に誘い出すけれど、それは結構重大なことですぐに頷けるものではなかった。内心嬉しいけれどそこまで甘えるわけには行かない。
……お昼だって誠さんが用意することになってしまったのに……。
「それはいくらなんでも悪いよ。親子だけの時間が減っちゃうよ」
「うさはキツネさん達と一緒が良い」
「遠慮するなって。なら一食三百円でどうだ?」
「なら週二でお願いしようかな?」
当たり前のことを言ったはずなのにそれでも強引に誘われ、断りきれずそれで手を打つことにする。しかし勘違いされる始末。
なぜそこまでして私と一緒に食べたい?
私が好まれているとか?
最近なんか私の周りがおかしくない?
あまりの急激な変化に若干付いていけません。これも異世界のおかげなんだろう。
「やった」
無邪気に喜んでくれるうさちゃん。タヌキもニコニコしてるだけで、本当に私や双子が加わっても問題ないと言う感じだ。
「そんなに喜んでもらえると、私も嬉しいよ」
「くーも。みんなと食べる食事は美味しいんだよ」
「そうか? おいらはどこで食べても同じだと思うけどな。でも楽しいな」
ここで良くある繊細の違いが出てしまい、きっと海は何があっても生き残る野生児タイプだと確信した。それとツンデレ予備軍。かと言ってほったらかしにしていたらぐれるタイプだろうから、気を付けて見ていないとダメなんだろうな?
そう思い無意識に海の頭をなぜると、海は嬉しそうに私を見上げる。
「古都音、どうかしたか?」
「あ、ごめん。なんとなく」
「別に構わないぞ」
「かいずるい~。くーもなぜて」
「ワンワン」
この辺はまだまだ素直でそうにそう言ってくれると、ほっぺを膨らませた空となぜか仔犬までやって来る。なので二人もなぜる。
そう言えばまだこの子の名前を決めてない。
「りくもことねの事が好きだって」
「りく?」
「おう。三人合わせて空海陸だ」
しかしすでに立派な由来がある名前が決まっていて、きっと私もそう付けていただろう。
「格好いい名前だな? それでうさはなんて付けたんだ?」
「チョコちゃん。うさと契約するの。猛獣使いは動物さんと契約すると、すごく仲良くなれるんだって」
「ワンワン」
外見通りの可愛い名前で本人も満足そうで、こっちもすっかり打ち解けている模様。ただあっちに連れて行くと言ったことが驚きで、そんなことが出来る。
……………
……………あれ?
そう言えば陸とチョコは今までどこに隠していたんだろうか?
「りくとチョコは小さくしてバッグの中に入れてたんだ」
「そうすればいつも一緒に入られるよ」
聞かなくても心を読み取れるので、得意気に答えられ真相を知る。
物限定だとばかり思っていたら、生き物にも可能。だからうさちゃんはそんなことを言ったのか。だとしたら当然陸も連れて行くだろうし、アンナの所の仔犬も来るはず。そしたらジャンヌだってミントを連れてくると言い出しかねない。あ、それはありがたいから私的にはOKだけど。
でもペンちゃんに怒られないだろうか?
「お前ら本当に悪知恵が働くよな?」
「悪知恵じゃないぞ。知恵だ」
「うん、タヌキ、一言余計」
「………っぷ」
いつもの毒舌タヌキに双子は反発し、特に空のストレートな言葉に吹き出す。
確かに双子は悪知恵が良く働くから、こう言う時も生意気なことを言い返してしまう。
「さっさと飯を食え。キツネも笑うな」
『はーい』
罰が悪くなったのか少し怒った様子で最終手段に出られて、一応聞き分けの良い返事をして食事を再開。
少し悪ふざけが過ぎたかも知れない。
「キツネさん、うさぎさんのショートケーキすごく美味しかったです。また買ってきてくれますか?」
「もちろんだよ」
「だったらクリスマスケーキを買ってきてくれよ」
「あ、そうだね? って一緒にやるの?」
ペットショップに行く途中、そんな話になり足を止める。
いやクリスマス会をやることは別に構わないんだけれど、確認もなしに確定されるのが気に入らないと言うかなんと言うか。まぁどうせクリスマスに予定がなんて、イベント以外十年ぐらいないけど………。
「まさか予定があるのか?」
「ありません」
「なら再来週の日曜な。ライオンも空いてるいいんだが」
「え、ライオンさんも呼んでくれるの?」
なんとなく小バカにされ惨めになる中、思わぬ人の名が飛び出し気分が一気に上昇。
ライオンさんも一緒のクリスマス会なら何を言われても許せてしまう。
「ああ。でもあいつ忙しいんだろう?」
「どうだろう? 前日はイベントだけどね」
「そうなのか? キツネは行くのか?」
「もちろん。一番大好きな作品だもん」
タヌキなりに少しは声優の忙しさを学んでるようだった。
さすがに私もそこまでは知らない。
イベント系はなくても収録やインタビューの仕事があるかも知れない。それともプライベート? 結婚はしてないって言ってたけれど、彼女ぐらいはいるよね?
「それって昨日ペンギンに貸してた戦国時代の恋愛ゲームか?」
「そうそう。五右衛門様は私の永遠の夫なんだから」
「……さようですか」
ついテーション高くなり迷うことなく痛い台詞で返すと、完全に引かれ嫌味すりゃ言われない。一般人にしてみれば当然の反応。
アラフォー婆が二次元キャラを私の夫とか言ってたら、キモさを通り越して頭が逝かれている。
そんなこと本当は私だって十分分かっているけれど、それでも辞められないから世間の冷たい風などスルー。
「ねぇことね。くー達の所にもサンタさんは来てくれる?」
【え、そりゃ良い子にしていればね】
「ならこれから良い子でいようぜ? まぁおいらはもう良い子だけどな」
「うん。くーがんばる」
タヌキとの会話がなくなった途端目を輝かせた双子が戻ってくるなり、うさちゃんからサンタの話を聞かされたのか興味津々と問われる。当然の答えを返すと二人はさらに張り切り腕を組みに踊りだす。
張り切り過ぎて問題を起こしそうではあるけれど、それは一生懸命やった失敗だろうから温かく見守ろう。
まさか私がサンタになる日が訪れるなんて夢にも思わなかった。双子は私のパートナーだけど手のかかる子供でもある。
「うさちゃんはサンタに何を頼んだの?」
「トイプードルの仔犬だけれど、うさにはチョコがいるから変更してもらうの。出来るかな?」
「何に変更するの?」
「動物のお医者さんごっこセット」
参考のためにうさちゃんに聞けば、随分お財布に優しいプレゼントに変更となっている。下手したら四十万位するプレゼントが十分の一以下になるんだから、大人にしてみれば大万歳だ。
タヌキもこれにはどことなく笑顔だったりする。
しかし仔犬なんてどうやってプレゼントするつもりだったんだろう? サンタクロースはいつの時代も大変だ。
「な、サンタにはどうやって欲しいものを言うんだ?」
【お手紙を書いてパパに渡すの】
「タヌキに? タヌキはサンタさんの知り合いなの?」
【お前らの場合はキツネな。キツネがサンタに出してくれるから。お前ら字は書けるよな?】
『うん』
そうやって子供の欲しい物を知りプレゼントを用意する。なかなか出来た仕組みで、それで苦労することはなくなった。
……無理難題を言われなければ。
【空海は何を頼むの?】
「くーはお絵描きが好きだから、お絵かきセット」
「おいらは大きなお菓子の家」
【空のはいいけれど、海のは却下。食べ物以外にしなさい】
「え~、なんでだよ?」
【すぐ食べないと腐るでしょ? だいたいせっかくもらったプレゼントをすぐなくなっても良いの?】
「うっ……。そうだった」
手遅れにならないよう先手を打つとやっぱり海のプレゼントに問題があるようで、屁理屈を言って考え直させる。単純だからこそ鵜呑みにして頭を抱え迷う海の姿が可愛かった。
可哀想だからお菓子の家はパーティーで用意しよう。