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ⅡⅩⅠ.アラフォー、嫉妬される

     キンコンカンコン

 昼休みのチャイムがなった。


『ご飯だご飯だ。アンナのとこに行こう』


  大人しかった双子が可愛らしく歌いだす。

 広場に遊びに行けば良かったのに、午前中は私の傍を離れようとせず、二人で何かを熱心にやっていた。午後から遊びに行くと言っているけれど、その違いは何かあるのだろうか?


【そうだね? 誠さんが美味しいサンドイッチを用意してくれると言ってから楽しみだね?】

『うん』


 あまりにも双子がサンドイッチに興味を持ったため、そう言うことになってしまった。 ありがたいけどおごられるだけは悪いから、地元では美味しいと評判なマドレーヌを買ってきた。誠さんの口に合うかは分からないけれど、少なくてもアンナの口には合うはず。


「月島さん、副社長室に行くんだね? くれぐれも粗そうのないように」

「え、はい」

「いくら趣味友と言っても副社長なのだから怒らせたりなんかしたら、左遷もしくは首が飛ぶかもしれないから気を付けて」

「………気を付けます……」


 いち早く気づいた部長は私の元にやって来て、いらない心配をここぞとばかりに言ってくる。

 趣味友だから激しい口論も出来そうなんだけれど、そう考えるとあり得そうだから怖い。 平等にはならない?

 何はともあれ軽い会釈をしてさっさと行こうとすると、出口付近で嫌な奴と遭遇。しかもなぜか睨まれてる。


「月島さん、ちょっと話があるの」

「急いでいるので、ごめんな」

「私前に言ったわよね? 障害を武器にして同情を得て甘えるのは辞めろって。私だって障害を持ってるけど、そんなことしてないの」


 また始まる訳の分からぬことを言ってくる。そんなこと彼女にはまったく関係ないはずなのに何かと絡んで来る困った人。偉そうで正当なことを言う割りには、自分自身にはめちゃくちゃ甘い。他人が職務中私用のスマホを使うのは許せないけれど、自分は隠れてガッツリやっている。歩きスマホも半端ない。可愛い後輩がちょっと派手な服を言うと怒るのに、自分は派手と言うか二十代が着る服を平気で着ているもうすぐ四十代。だから私は大嫌いで部は一緒でも彼女がいるからお土産は自分のグループのみで、社内便も持ってこない。彼女だけならそれは虐めになるけれど、グループ全体にすれば普通のはず。なのにそれでも気に入らないらしくいつも睨まれる日々。


「すみません。それなんですが、どんな障害を持ってるんですか?」

「言うはずないでしょ? 私あなたと違って、それで同情されたくないから」

「だったら障害を持ってるって言わない方がいいですよ。それでは私急いでいるので」


 ここでもやっぱり矛盾が生じて面倒なことになりそうだから、無理矢理話を終わらす。

 同情されたくないのに、どうしてこんなアピールしてくるんだ?


 「……誠様。副社長には近づかないでよ」


 誠様?

 何言ってんの?


「は?」

「きっと彼優しいからあなたに同情しているだけ。それなのに真に受けて一緒に昼食するなんてみっともない」

「もしかして副社長の彼女ですか?」


 今回の原因がようやく分かったけれどはっきり言ってくだらなすぎることだった。

 ムカついたので嫌味混じりでそんな問いをぶつければ、彼女はなぜか泣き出しトイレの方に走っていく。向こうから仕掛けてきたのにまるで私がいじめたみたいで納得がいかない。

 後で上司に呼び出しをくらったら嫌だな。


「なんだよ。あのガマガエル見たいなおばさん」

「ことね、大丈夫? あの人、嫌な奴だね?」

【うん、ありがとう】


 双子は彼女を見ながら怒り出し、私を気遣ってくれる。

 ガマガエル見たいなおばさん。

 思ったらいけないんだけれど、確かにそう見える。







『おいしい』

「それは良かった」


 副社長が用意してくれたサンドイッチは、良く特集が組まれるほど人気のある有名店のだった。

 ふわふわな食パンに素材の味を最大に引き出したポテトサラダ。良い具合にマッチングしている。双子が食べてるカツサンドも美味しそう。 とにかく私も双子も大満足でニコニコ。そんな私達に誠さんも満足そうに微笑む。


「そう言えば誠さんは調達事業部の遠藤小百合さんを知ってますか?」

「遠藤小百合? ……いいや心当たりない」

「さっき誠さんのこと誠様って言っていて、知り合いみたいな言い方をされた物で」

「誠様? 学生時代にそう呼ばれていたよ」

「……。そうですか?」


 彼女のことが気になり聞いてみると、手がかりなしと思いきやまさかまさかの展開。しかしそれは物凄いものだった。

 誠さんの信者がゴロゴロいたのでは? そして彼女もその一人? でもそれってもう二十年ぐらい前のはずなのに、まだ信者をしてるなんて純愛と通り越して怖すぎる。まさかストーカー?


「まぁもしそうだとしても、さすがに分からないよ」

「だと思います」


 信者をすべて認識していたら、あなたが一番怖いです。


「そいつ古都音と誠が仲良くしてるのが気に入らない見たいだ」

「まことはことねに同情して優しくしてるの? ことねがまことと一緒だとみっともない?」

「ちょっと海、空?」


 私より頭が来ている双子は言わないでいようとした内容を暴露。しかも空は無自覚だろうけれど、傷に塩を塗るような言い方を真剣に問う。

 それは傷つく言い方だよと教えたら、きっと大泣きして反省するだろう。


「そんなことないよ? 私と古都音くんは秘密を共有する仲間であり、趣味も合う。それに古都音くんといると楽しいからね?」

「誠さん、嬉しいです。ありがとうございます」


 誠さんならそう言ってくれると思っていた。

 趣味友達以前に私達は秘密を共有する仲間だし、昼食を半ば強引に誘われただけだもん。他人が何を言っても、気にしなければ良い。


「私は当然の事を言っただけだよ。それよりもこちらでも魔法が使えるようだ」

「え、本当ですか?」


 そして話題は魔法の事に変わりそう言いながら、使い込まれたろうそくをテーブルに置く。


「ああ。アンナ行くよ」

「OK」

「ライト」


 フィンガースナップと同時に、ろうそくに火が灯る。誠さんは教えられた通りの事を、素直にやるから姿勢が綺麗。


「すごい」

「古都音、おいらともやろうぜ?」

「くーもやる」

「ごめん。無理」

「えーなんでだよ?」


 やる気に道溢れ目を輝かせる双子だったけれど、可愛そうに思いながらも否定する。洋服作り同様ここでの私は無理。


「そんなのフィンガースナップが出来ないからに決まってるでしょ? ほら」


 黙らせるために出来ないと言う証拠を見せる。案の定スカして鳴りません。


『……ごめんなさい』


 なぜか二人揃ってシュンとなり謝られる。

 何か誤解された?


「どうしたの? 空海?」

「頑張っても出来ないことやらせようとしたから……」

「ことね、困ったよね……」

「二人は優しいね」


今にも泣き出しそうな声で理由を話してくれる双子に、逆に悪いことをしてしまい私を気遣ってくれる気持ちが嬉しかった。そこまで頑張った結果出来なかった訳でもない。もしかしたらもっと頑張れば出来るかも知れない。


「ちょっと失礼」

「え、ななんですか?」


 突然誠さんが私の手を握る。これは不意打ちでなくても顔が赤く染まり動揺を隠せない。

 昨日の告白風の言葉の次は何?


「古都音くんは無意識に力が入るから出来ないんだと思う。どうして鳴るんだと思う?」

「ゆ指と指の摩擦音?」

「違う。空気を弾いている音。つまり中指を親指の付け根部分に振り下ろした時に空気が振動し、それが音波として鳴っているんだよ」

「そうなんですか? 知りませんでした」


 いきなり始まるフィンガースナップ講座。やっぱり自分は無知で馬鹿なことを再確認。その間なぜか手のマッサージを続けている。

 講座はとてもありがたくってマッサージは気持ち良いんだけれど、この二つがなぜ同時進行で行われているんでしょうか?


「古都音くん、手の力を抜いて私に預けてくれる?」

「え、あはい?」


 頭の中がパニクりながらも、言われた通りにする。それでも完全に力を抜くなんて難しいことなんですが……。


「こうやってここの所をこうやれば」


                パッチン


 器用に私の手を動かして、物の見事に音を鳴らす。他人にやって貰ったことでも、これはすごいこと。


「鳴った。すごい」

「古都音、やったな?」

「まこと、ことねは練習すれば、一人でもできるようになる?」

「それはどうだろう? ただやる気があれば出来ると思う」

「私頑張ります。こっちの世界でも魔法が使いたいです」


 双子と誠さんがここまでお膳立てをしてくれた物だから、調子にすぐ乗る私はついそう宣言して本音を漏らす。


 やっぱ魔法は使いたい。

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