ⅡⅩ.放課後に遊ぼう
「うさちゃん、今日は楽しかった?」
「うん。動物さん達とお友達になれるやり方を教えてもらったよ」
本日の授業が終わりお茶をしながら、それぞれの状況を報告することになった。精霊達は疲れてお休みタイム…。しかし二人で一人分の消費をしてない空海は元気いっぱいで飛び回っている。
それでまずはうさちゃんに聞けばとっても楽しそうで、今日は何事もなく過ごせたことが分かりホッとする。授業にもついていけてるらしい。
「そうなんだ。私とコアラちゃんも楽しかったよ。やっぱり魔法は最高だよね?」
「はい。でも私は攻撃系は苦手なようです」
「まだ初日なんだから、答えを出すのは早いよ」
何も考えず数々のトラブルをすべて棚に上げご気楽に楽しいとまとめてしまう私に対して、真剣にさっきのことを考え悩んでいるコアラちゃん。それなのに私は笑いながら、アドバイスになってないことを軽く言ってしまう。
そう言う考えは一理あるとは思うけれど、きっとコアラちゃんの苦手と言うのは根本的な苦手。だから回復系を薦めるのがいいのかも知れない。
「藍はどんな魔法を使っていきたいの?」
「治療系や便利系ですね」
「だったら藍はそれを重点的にやれば良いよ。攻撃系はキツネちゃんに任せて良い?」
「はい、喜んで」
私の代わりにライオンさんがフォローをしてくれ、コアラちゃんの表情に安堵の笑みが浮かぶ。私も頼まれたことに胸を張り引き受ける。
ライオンさんが信頼して頼んでくれたのだから、私は期待に応えられるよう全力でがんばるだけ。
「キツネは本当にライオンが好きだよな。オレの時とは態度がまったく違う」
「だってライオンさんはあんたと違って優しいもん」
「キツネさんはうさのパパが嫌いなの?」
そんな私にタヌキはまたもや余計なことを言うから冷たく真実を突きつけると、それをまに受けたのはうさちゃんで今にも泣き出しそうな表情の声で聞かれてしまう。さっきから無視もしてるからそう結論付けた。
「嫌いじゃないよ。友達として好きだからね。だけどうさちゃんの方が大好き」
「ありがとう。うさも好き。パパはキツネさんのこと好き?」
「え、まあ好きか嫌いかと聞かれたら好きの分類だな。ほらよく言うだろ?喧嘩するほど仲が良いって」
あくまでも友達を強調する私に、出来るだけ曖昧に答えるタヌキ。私と同じ意味なのに心臓が高鳴りだし、タヌキの顔が見られなくなってしまう。
まさか、タヌキに恋してる?
………んな分けないか。
「良かった。うさはキツネさんもライオンさんもコアラのお姉ちゃんも大好き」
「うさ、おいら達のことは?」
「くーもかいも、うさのこと大好き」
「もちろん。空海も精霊さん達も大好き」
子供らしい発言に癒されると、空海もこっちにやって来て不安げに会話に加わった。そんなことあえて聞かなくても、うさちゃんは精霊達が大好きだって分かりきっている。
「空、うさぎ、かくれんぼしようぜ?」
「そうだね」
「うさも賛成!!」
「かくれんぼか。俺も入れてくれないか?」
「なら私もやりたいです」
「じゃぁ私もやる」
双子とうさちゃんの遊びに興味を示したライオンさんをきっかけに、私とコアラちゃんも名乗りを上げる。
かくれんぼなんて四半世紀ぶりかも?
……四半世紀?
地味にショックな現実。
「キツネちゃん?」
「四半世紀ぶりと言えてしまう年齢になったんだなと」
「うっ……それは言わないで。俺も辛い……」
「ですよね?」
ライオンさんに不振がられ空笑いで打ち明けると、ライオンさんも笑止しつつ撃沈する。
アラフォー独身にはきつい現実。一気に年を取った感じがして、泣きそう。
「さっさとかくれんぼするぞ?」
「うん」
海の空気を読まない発言に、我に戻りこれ以上考えるのは辞めた。
「キツネちゃん、こっちこっち」
「ライオンさん、いいんですか?」
「うん。ここもう一人分スペースがあるからね?」
コアラちゃん鬼で始まったかくれんぼ。
隠れる場所を探しているとライオンさんの声が聞こえ視線を向けると、草むらに隠れていて私を快く向かい入れてくれる。時間もなくその行為に甘え隣に屈む。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。少し話そうか? もちろん小声でね?」
「そうですね。そう言えばライオンさん達は授業どうですか?」
せっかくの申し出に最新の注意をはらいながら、さっき聞けなかった事を興味深々とばかりと問う。
「武器の使い方を習って、射撃の練習だよ。短剣も習おうと思ってる」
「銃はライオンさんの得意分野ですね? サバイバルゲーム」
「そうだね? でもここは魔力銃だから、やり方が少し違うんだよね?」
「魔力銃か。私も使ってみたいな」
楽しい会話が弾む。さすがに一対一でもドキドキはするけれど、もう緊張することなく普通に話せる。
たった3日前までは2.5次元の人だったのに、今では気の合うお兄さん的存在だなんて不思議だな。
「ならマスターしたら、教えてあげるよ。そしたら攻撃魔法を教えてくれる?」
「等価交換って奴ですね? もちろんいいですよ」
「じゃあ、約束」
まるで昔からの友達のようにお互い子供のような笑みを浮かばせ、教え合うことにしてゆびきりげんまんの約束。
こんなとこ誰かに特にタヌキに聞かれてもしたら、指を指されてガキと言われ爆笑されそう。まぁ確かにこれはあまりにもガキっぽいとは思うけれど、声に出されて言われたら恥ずかし過ぎる。
「庵兄さん、キツネさん、見つけました。二人とも仲が良いんですね」
思った矢先コアラちゃんに見つかり、聞かれていたのかニコニコ笑顔。
「藍……ひょっとして一部始終聞いてたの?」
「聞いてませんよ。ただ囁き声は聞こえていました」
「…………」
注意して小声でしゃべっていたはずなのに、いつの間にか大声じゃないにしても普通に戻っていたようだ。だけど会話が弾んで楽しかったから、私にしてみれば後悔はまったくない。
「まいったな。もうすぐかくれんぼの収録があるのに」
「え、かくれんぼ? またすごい企画ですね?」
「まぁね。だから練習のつもりでやっては見たんだけど、甘く見すぎてたよ」
かくれんぼが下手でもまったく支障がくるんるん気分の私と違って、ライオンさんはすぐに見つかったのがショックだったらしく肩を落とす。
今時な声優は声の仕事だけではなく、バラエティーの仕事も豊富だから大変なんだろう。それなのにそんな苦労を知らずに、私も含め面白い物を望んでしまう。
「おしゃべりさえしなければ大丈夫だと思いますよ」
「それはそうなんだけど、映像だから黙ってやるのはつまらないだろう?いかに奇想天外な場所を選んで、隠れるかがポイントなんだよ」
「そうなんですか? では私は残りの人達を捜してくるので、二人はさっきの所で待っていて下さい」
適切なコアラちゃんのアドバイスだったのにライオンさんのおかしなスイッチが入ったらしく張り切りうんちくを語る。なのにコアラちゃんはさらりと流し、そう言って別の誰かを捜しに行く。おそらく度々こう言うことがあるのだろう。
「あの素朴な質問なんですけれど、かくれんぼする時カメラマンさんが邪魔なんじゃないですか?」
「鬼はもちろん自撮りだよ」
「それは面白そうですね。楽しみしているんで、頑張って下さい」
以前から似たような番組を見るたび思う疑問を聞いてみれば、その辺はちゃんと考えているようで納得のいく物だった。
さすがにかくれんぼにカメラマンが付いていたら、ゲームにならないだろう。自撮りは本当に面白そうだから、言葉通りこうご期待かな?