ⅩⅨ.初めての魔法
「古都音くんと藍くんも魔導師だったのだね? 隣の席良いだろうか?」
「あ、誠さん。どうぞ」
クラスが別れることになりコアラちゃんは一緒なので前の席に座りアニメ話で盛り上がっていれば、誠さんに声を掛けられ私の答えを聞いた上で空いている席に座る。
さっきの件があるけれど、本気じゃないだろうから気にしない。それよりタヌキの事が許せずあれからずーと無視をしていた。
ちなみにタヌキとライオンさんは武器戦クラスで、うさちゃんは特殊クラス。知夏さんと尚悟くんが同じらしく頼んでいた。
「ありがとう。魔法が使えるなんて、夢のようだ」
「そうですね? ワクワクします」
「私も待ち遠しいです」
オタクだからなのか魔法への憧れは強いようで、もうすぐ始まる授業をウキウキ気分で心待している。
魔法。
魔法少女のように杖を使ってリズム感ある呪文を唱えるのか、ラノベの戦闘バリバリの魔導師の魔法なのか。どっちにしても楽しみなのは変わりがない。
「古都音は魔法を何に使いたいんだ?」
「まずは空を飛びたい」
海の問いに、当たり障りのない答えをまずは答える。本当は攻撃魔法をぶっ放して見たいんだけど、それは物騒なので最初は空を飛ぶ。
「飛べるようになったら、みんなでお散歩しようね?くーが案内する 」
「おいらも」
「わた……誠は何したいの?」
「もちろん空も飛んでみたいが、攻撃魔法も捨てがたい」
心配しなくても、大丈夫だったらしい。
「あいこは?」
「私は治癒魔法。そして治癒魔法の勉強をして、どんな病気も治せるようになりたいです」
目を輝かせながらコアラちゃんは立派な願望を真剣に話てくれた。模範解答。
「そう。叶うと良いね? ………誠さん、私達って大人なのに、ただのアホ?」
「古都音くんはまだ良いが、自分の考えが幼稚で情けない」
私達大人は自分達の馬鹿っぷりを痛感し、苦笑しつつ肩を落とす。誠さんはそう言ってくれたけれども、内心同じ事を考えていたのだから同罪なのだ。
「二人ともいきなり暗くなってどうしたのですか? 私も二人のように空を飛んだり攻撃魔法を使いたいです」
「ありがとう………」
「藍くんは優しい子だね?」
「え?」
私達の会話を知るはずもないのだから本心から言っている言葉のはずなのに、ダメな大人達の気遣いに聞こえてしまい感謝する愚か者。意味もわかるはずもなくコアラちゃんは首をかしげるだけ。
「いよいよ実践か。空海、よろしく頼むね?」
『ラジャー』
「ポムも私と一緒にがんばろうね」
「うん、ボクがんばる」
魔法の理の授業を終え校庭での実践の授業になり、張り切るのは私達だけではなく他の人達もそうだった。
魔法で必要なことはパートナー精霊とのコンビネーションと、魔法を放つ前のイメージとタイミングらしい。
発動は魔法名とフィンガースナップ。つまり指パッチン。
向こうの私は出来ないけれど、こっちの私はあっさり出来た。例のごとく嬉しくって調子に乗りやりまくってたら、指導員には注意されるはコアラちゃんと誠さんには微笑まれる始末。恥をかいたのは言うまでもない。
「空海、どっちが上手に出来るか勝負よ!」
「望む所だ。何を賭けるんだ?」
「アンナ、これは勝負ではない」
「海、なんで賭け事に持っていくの?」
何を思ったのか勝手にそう言うことになり、誠さんと私で突っ込みそれを阻止する。
自分の事で勝負するならまだしも、なんで他人で勝負しようとする? しかも賭けって、私達は馬なのか?
「だってその方が盛り上がるだろう? な、くー?」
「くーはやりたくない。みんなで仲良くがんばろうよ」
「空、何、言ってるの? そんな甘い考えをしてたら、上達しないわよ」
空だけが反対でもっともなことを言っているのに、アンナはそれを許さず全否定。落ち込んだ空は私に抱きつく。 私と海と違い空は平和主義で繊細なので、頭をなぜ元気付ける。
「アンナ、辞めなさい。そもそも魔法を使うのは私達なんだよ」
「だったら私達だけの勝負なら良い?」
「勝手にしなさい」
「……ごめんなさい……」
あくまでも勝負に拘るアンナだったけど、誠さんの冷たい一言で悲しそうに謝り大人しくなった。
「海も、分かった?」
「はい。もう言いません」
残る一人も強めに言えば、こちらも今度は素直に頷く。これでもう大丈夫。
そして講師であるマデリーネとペンちゃんがやって来る。
「全員揃ってますね? ではこれから簡単な実技のテストをやります」
「え! もう?」
「まぁテストと言ってもあなた達の基礎レベルを調べるだけです。人によって基礎レベルは異なると教えてましたよね?」
「はい。まったくの初心者と最初からそれなりの魔法が使えるんですよね?」
「ええ。なのでそれを元にして二チームに分かれ、実技を行います」
いきなりのテスト発言にざわめき出すけれど、もっともな理由にすぐ落ちつきを取り戻す。
そっちの方がこちらとしてもありがたい。ここでも落ちこぼれになるのだけは勘弁して欲しい。私なんてどうせ初心者チームに決まっているんだから。
「では、魔力があれば誰にでも出来る魔法を教えます。魔導書の10ページを開いて下さい」
早速授業が始まり言われた通りのページを開くと、文字が輝いている。
と言うことは習得可能の呪文。
「察しの良い方はお分かりだと思いますが、文字が輝いていれば習得可能です。石を文字に触れて「コピー」と呟いて下さい」
「そう言う仕組みなんだ。コピー」
教えられ感心しながら試してみると、指輪の部分が暖かくなり文字と共鳴してるようで、輝きが強くなり石に吸い込まれていく。
これが魔法習得の手順。意外に簡単かも知れない。
「これでこの魔法はさっき教えた方法で、発動します。そこで基礎レベルによって威力は変わります」
「ちなみにこの魔法は周囲を明るくする物です。今からランプを配りますので、そこに灯して下さい」
とペンちゃんは言って、ランプを全員に渡す。
ようやく私はリアルで魔法が使える。基礎魔法をきっちり覚えて、パーティーの重荷にならないようにしよう。
うん、まずはそこからだ。
「精霊と心を一つにしてイメージしつつ、魔法名とフィンガースナップでしたよね?」
「そうそう。落ち着いてやれば大丈夫だからね」
緊張しまくりガチガチのコアラちゃんに、笑顔で私に言える当たり前のアドバイスをする。私も緊張しているとは言える感じではない。
「ライト」
力強い声が聞こえ視線を向けると、誠さんのランプに明かりが灯されていた。丁度良い大きさで、明かりを保ち続けている。
他の人達も次々に発動しているけれど、明かりが小さくて不安定のためすぐに消えてしまう。これがきっと初心者には普通の事で、誠さんが特別なんだろう。
「さすが誠さん。それじゃ私も。空海、行くよー」
「キツネさん、待って」
「え? ライト」
ボワー
私も気合いを入れて発動させようとするとペンちゃんが止めに入るが、それは時すでに遅し。
魔法は発動したのだけれど、勢いがよくあろうことかランプが割れる。それでも巨大な明かりは灯っている。
???
「キツネさん、しばらくは魔法を使う時は双子のどちらかと協力して下さい」
「うん分かったけど、どうして?」
目の前で起こっていることもペンちゃんが必死に言ってることも分からないけれど、今は従う方が良いと思い頷き念のため問う。
一体私の身に何が起こっている?
「二人同時は強力過ぎて今のキツネさんには制御できません。双子は二人で一人分の魔力ではないようで、一人一人分の魔力を持っていますから」
「と言うことは私って偉大な魔導師になれるとか? 」
「はい。十分過ぎるぐらいの素質を持っているので、後は努力と根性次第です」
「へぇ~努力と根性か」
しかし理由は単純で調子に乗りふざけて言ってみたら、笑顔で肯定されるが苦手な分野の条件付きに棒読みで復唱。
いくら才能があっても、努力しないと開花されない。
才能があるだけあっちの世界より良いけれど、宝の持ち腐れになっていそう。そうならないようがんばろう。
「じゃぁおいら達はどうすれば良いんだ?」
「やっぱりここは、順番かな?」
「うん。それが良いね」
「しょうがねぇな」
新たなる火種になりそうなものをなくそうとさっさと決めれば、不満げな海も渋々と頷いてくれ万事解決する。
私の初めての魔法はこんな感じで感動よりも、驚くことが大きく終わってしまった。なんだか勿体ない気がするけれど、初めてとは案外そんなものかも知れない。