XV.新メンバー登場
「皆さん、初めまして。六波羅藍子です。ふつつか者ですが宜しくお願いします」
「藍。それはお嫁に行って相手に言う台詞だろう?」
「え、あそうでした」
ストレートの黒髪に大きな瞳に可愛らしい桜色の唇に白雪姫並の白い肌。日本人形顔負けの可愛らしい少女は、自己紹介しながら頭を深く下げる。ライオンさんに突っ込まれ頬がかすかに赤く染まり、それがまた更に可愛らしい。文句なしの美少女。
そんな美少女に半分隠れている精霊は、もじゃもじゃ碧髪の目は髪で見えない男の子。 双子達は興味津々に見つめて、顔を真っ赤に染め隠れてしまった。
恥ずかしがり屋さん?
「ねぇ、君なんて言うの? くーは空って言うの。これあげる」
さっそく話しかけたのはくーでヨーヨーを渡す。すると男の子はそのヨーヨーをじっと見つめ欲しそうに藍ちゃんを見上げる。
「この子はポム。まだ産まれたばかりだから、空ちゃん達いろいろ教えてあげてね」
「うん。ポム、くー達が言葉を教えてあげる。そしたらパートナー達とお話出来てすごく楽しいよ!」
「うー」
藍ちゃんに頼まれて胸を張る空はそう言いながらポムの手を取り引っ張り、海達の元に連れて行く。海達もポムを歓迎しているようで、お決まりのひらがなタブレットでお勉強会を開始する。
精霊達の方は、大丈夫か。
「ねぇ、お姉ちゃんのことコアラお姉ちゃんって呼んで良い?うさの名前は沼田うさぎ」
「もちろん。うさぎちゃんって可愛い名前だね?」
可愛い少女と美少女の会話は、いろいろと癒される。
「ありがとう。ママが付けてくれたの。うさのママはお星さまでいつもうさのことを見てるんだよ」
『え?』
積極的で和気あいあいと無邪気に教えてくれるけれど、それは深刻なことで私までマジマジとうさちゃんを見てしまう。
タヌキのシングルファザーとはそう言う意味だったんだ。明るく言ってたから、そんなこと考えもしなかった。
「キツネさんまでどうしたの?」
「え、あ、だからうさちゃんはすごく良い子なんだね?」
「えへへ。キツネさんに、誉められちゃった」
「タヌキくん、大変だったんだね」
「やめてくれ。もう四年近くも前の話で、その間何回か新しい恋をしてんだからな」
「そうなんだ。じゃぁもうこの話は止めよう」
ライオンさんまで気にしてしまいタヌキに囁くんだけど、本人から止められた過去のことだと告げられこの件は終わる。
でも本当はそんなはずがないと思う。だから新しい恋をしても結婚までは……うさちゃんもいるから余計難しいのかな? バツイチ子持ちはなかなか難しいらしいし。
「みなさん、もしよかったら学舎が始まるまで、町の中を観光しませんか?」
「そう言えばまだ町をゆっくり見てなかったね?」
「そうだな? キツネ希望の甘い物も食べに行こうぜ?」
ペンちゃんのナイスアイデアで重たい空気が一気に明るくなる。しかもタヌキは昨日のことを覚えてくれて、ますます気分がハイになっていく。
甘いもの。
この世界ではどんな食べ物があるんだろう?
「それは楽しみです。私も甘い物は大好きです」
「うさも」
「ペンちゃん、オススメのお店はある?」
「任せて下さい。とっておきの店を案内します」
女の子はみんな甘い物好きと言うのは例外ではないどころか、ペンちゃんも好きなようで自信を持って任される。
これは相当期待出来そうだ。
「そうと決まればさっそくレツゴーだね?」
「そうだね? でもその前にキツネちゃんとタヌキくんも自己紹介して欲しいな」
善は急げと言わんばかりに早速行こうとしたら、肝心なことを言われてブレーキが掛かる。
そう言えば藍ちゃんにまだ自己紹介してないや。
「藍ちゃん、初めまして。私、月島古都音と言います。キツネって呼んでね?」
「オレは沼田直樹。タヌキで良いよ。あんたのことはコアラって呼ぶからな」
「はい。私あだ名を付けてもらったことないから嬉しいです。キツネさんも私のことコアラと呼んで下さい」
ライオンさんやペンちゃん同様自分のあだ名を喜んでくれるので、私も心置きなくこれからはコアラちゃんと呼べる。
しかしタヌキの時は死ぬほど嫌がられて仕返しにキツネと命名されたぐらいなのに、なんで今回は……タヌキって言う動物が原因だった? まぁタヌキだから仕方がないか。
「うん、分かった。コアラちゃんよろしくね」
「ありがとうございます。それにしてもこの世界は素敵な世界ですね? 走っても踊っても平気だなんて、小学生以来で夢みたいです」
「だよね? 私もここだと体が軽いしなんでも普通にこなせる。早口言葉も平気なんだよね?」
私達にしか分からないこの世界の良さを語り合い盛り上がる。
やっぱりこう言うことは、実際に体験しないと分からないこと。もちろんタヌキやライオンさんもそれなりに理解してくれるけれど、最後には呆れられるしタヌキは叩いてくる。
だからコアラちゃんと歳の差は結構離れてはいるけれども、仲間が出来て嬉しい……そう思ってるのは私だけなのかも知れない。
だとしたらこんなにはしゃいでいる私は馬鹿か?
「キツネさんは庵兄さんのファンの方なんですよね?」
「え、あうん、そうだよ」
「私庵兄さんのファンの方とお友達になりたいと思っていたので嬉しいです。後で連絡先を教えてくれますか?」
いきなり話の流れを変えられた問いに戸惑いつつも答えれば、コアラちゃんは本当に嬉しそうな笑顔を浮かべ嬉しいことを言ってくれる。私とは弱冠違う物の、仲良く出来ることは光栄だ。
「もちろんだよ。……メアドで良い?」
「はい。パソコンは自由なので」
何気なく携帯の番号を教えようとしたけれど心臓病だと言うこと思い出し、なぜだかメアドを選択してしまう。
幸いそれは正解だったホッとするも、良く考えればパソコンも心臓病には怪しかったんだよね?
「藍、良かったね」
「はい。庵兄さん、私を推薦してくれてありがとうございます」
無事にコアラちゃんが打ち解けたのが分かったライオンさんはホッとしたらしく安堵の笑みを浮かべている。
コアラちゃんもライオンさんのことが大好きで尊敬もしているんだと思う。
純粋で素直なコアラちゃん。
こう言う子には華恋のような自分勝手で最悪なファンと関わらせたくないんだけれど、間違えなく関わってきて取り込もうとするんだろうな? それとも嫌がらせはされず優しくされるんだから良いんだろうか?
だけどそれって下心がありまくりの優しさだからなんか嫌だな。
「キツネ、どうした?」
「コアラちゃんを華恋に合わせたくないなって思ってね?」
「確かに。うさのためにもなんとかしたいんだが」
不安に思う気がかりをタヌキに分かってもらえて、二人して深いため息をつく。
コアラちゃんだけではなくうさちゃんにまで被害が及ぶ。しかもコアラちゃんと違ってうさちゃんには危険が及ぶ可能性が大。早いとこなんとかしたいと思いつつも、すぐには対応策は出なさそう。
まぁ何かしてきたら全力で、ボコボコにして二度と手を出せないよう分からせてやる。
「そんじゃ今度こそ行こうか?」
不安いっぱいで課題は山積みだけれど、コアラちゃん達に悟られないよう話を元に戻す。
それに甘い物を食べて観光するのは、気分転換にはもってこいだからね。
「はーい。桜くん達もお出掛けするよ」
『お出掛け?どこ行くの?』
うさちゃんの元気のいい返事と桜を呼ぶ声に、双子達も目を大きく開き楽しげに各パートナーの元にやって来る。
「甘い物を食べてこの町を観光するの」
「甘い物。チョコレートか?」
「くーは生クリームが食べたい。うさぎがすごーくおいしいって言ってたよ」
「両方あると思うよ」
『おー』
観光より食べ物に興味津々で期待通りの物があると分かれば、もうテーションマックスで飛び回る。
やっぱり花より団子だね。




