XIV.精霊は甘えん坊
境内の裏には運がいいことに誰もいなかったので、そこでお御輿が始まるまでゆっくりすることにした。
ベンチに私とライオンさんで肩を並べて座ってるため、ドキドキと胸が高鳴って行き意識してしまう。
今まで2.5次元の世界の人だったのに、今では普通に話せるし触れられる。
夢が現実になった。
「は、この状況ってもしや乙女系なんじゃ?」
「は、何いきなり?」
「今の私のポジションです。大ファンの声優、同級生、副社長、エルフ」
ふと思ったことを考えずに口にすればライオンさんはビックリしてしまい、訳を話すとキョトンとした後クスクスと笑いだす。それを見て男性には言ってはいけないことだったと気づく。
これでは下心ありまくりの変態じゃない?
さっきとは違う意味で恥ずかしくて小さくなる。
「キツネちゃんってやっぱり面白いよね?確かにラノベか漫画にしたら面白そう。試しに作ってみようか?」
「え?」
「まずは企画書を書いて見て、知り合いに見てもらうよ」
ヤル気満々ノリノリで話し出すライオンさんに、今度は私が驚いてしまう。
私のただの思い付きがまさかまさかの具体化。そう言えばライオンさんはこう言う新しいことを考えるのが好きなんだっけぇ?
「二人で何楽しそうに話てるんだ?」
「くー達も混ぜて」
そこへ双子とジャンヌがやって来て話に加わろうとするんだけど、口と手はソースやなんやらで泥だらけ。三人がいた場所には殻の容器があるだけで綺麗に食べ終わっていた。
ウエットティッシュを取り出す。
【いいけど、まずは綺麗にする】
【ジャンヌも。ジャンヌは女の子なんだから身だしなみをきちんとしないとね】
ライオンさんも私と同意見で、ジャンヌの口と手を綺麗に拭く。
他人から見れば私達は怪しい人なんだろうな。
「庵、ありがとう。これからは自分でやる」
「くーはことねにやってもらう」
「くーは甘えん坊だよな。おいらもジャンヌと同じで一人で出来るぞ」
「そうだよ。赤ちゃんみたいで恥ずかしい」
「甘えん坊の赤ちゃんで良いもん」
どんなに言われてもくーは落ち込むどころか、それを認め断言し私に抱きつく。
私としては頼ってくれて良いと思うけれど、これってマザコン息子になるダメなパターンかも知れない。しかし精霊達はまだ産まれたばかりでパートナーに甘えたい時期らしく、海もジャンヌも羨ましそうな表情を浮かべる。
【だったら仕上げをしてあげるよ】
「庵、大好き」
【海はどうする?】
「おおいらは別に……」
ジャンヌの方はすぐに円満解決したのに、海はまだ心とは裏腹なことを言って沈む。
ツンデレ予備軍?
【もし恥ずかしいだけなら、誰もいない時にたまにで良いから仕上げをさせてね。そうじゃないと私は寂しいよ】
「古都音がそう言うんなら、仕上げをしてもいい」
「ありがとう海」
私の策略にまんまとはまり台詞では嫌そうで仕方がなさそうだけれど、態度は笑顔をいっぱいで嬉しそうに肩に腰かける。ツンデレになるのは、まだまだらしい。
「キツネちゃん、良かったね?俺もジャンヌが自立して甘えてくれなかったら寂しいよ」
「私ずーと庵に甘えるから大丈夫だよ」
「くーも。かいもそうだよね?」
「古都音に悲しそうな思いはさせられないからな」
「あ、そろそろお御輿が始まりますね」
「そうだね。ならさっきの話はまた後でにしよう」
「ですね?」
ライオンさんの気のきいたフォローのおかげで空とジャンヌは本気にして海のプライドが保たれる。
腕時計を見れば御輿が始まる五分前で調度良い時刻になっていたので、見やすい場所まで移動することにした。
「古都音、もっと近くに行って良いか?」
「私も行きたい」
「くーも」
【いいよ。気を付けて行ってきてね】
【御輿の邪魔はしないこと。それから終わったらすぐ戻ってくること】
『はーい』
テンポの良い音楽に合わせて御輿も担がれ踊り子達は踊り出す。不思議に体が動き出すのは私だけではなく、双子とジャンヌもでしまいにはそう私達に許可を取ってから御輿の上まで行き踊り出す。
想像していたより遙かに楽しい物で双子も喜んでいる上、何よりライオンさんとこうして一緒に見られてここに来たことは大正解。
このことを教えてくれた地下鉄の掲示板ありがとう。
「キツネちゃん、凄く楽しそうだね?」
「はい。ライオンさんは?」
「俺も楽しいよ。楽しそうにしているジャンヌ達とキツネちゃんを見てると余計にね」
「・・・・」
ライオンさんの何気ない台詞が私の心にザクリと刺さって、柄にもなく凹んでしまう。
いい年した大人と言うかもうおばさんなのに、私は未だ子供のまま。こんなんじゃ駄目だとわかっているのに、どうすることも出来なくって………。
これからは年相応の女性を目指して頑張ろう
「キツネちゃん、危ない」
「え?」
などと何度目かの決意を胸に刻んでいる矢先、ライオンさんの声で我に返ると目の前には段差。
しかも結構な高さで普通の人でも危なさそうだから私にはもろに危険。そんでもって回避なんか出来るはずもなく派手に転けると思ったのに、間一髪で私は誰かに支えられて最悪自体を免れる。それはライオンさんだった。
「ぼーとして歩いてたら危ないよ」
「はい、すみません。ありがとうございます」
少しぼーとしながらもライオンさんに視線を合わせ謝罪と感謝。
恥ずかしさと嬉しさが交互に訪れて、この感情をどうやって納めればいいのか分からない。
ライオンさんに助けてもらっちゃった。
「それにしてもいきなり暗い顔に変わったけどどうしたの? 俺何かおかしなこと言ったかな?」
「え、そんなことないですよ。ライオンさんの気のせいですよ!」
「本当に?」
「はい」
顔にすぐ出るタイプは隠し事が出来ないからこう言う時に苦労する。
心配されるのはありがたいんだけれど、これは言うわけにはいかない。誤魔化すのが大変で明るく言ってもイマイチ信用されてない模様。
今までと違った意味での心臓がドキドキして、悪いことをしているみたい。
「もしなんか悩み事があったら遠慮なく言ってね? 相談に乗るから」
詮索をもう諦めてくれたのは良いけれども、ライオンさんはどこまでもいい人だった。
近くにいて優しくしてはくれるけれど、彼は私にとって最高の高嶺の華。妹ポジションでも良い所。
「古都音」
【あ、海。御輿はもういいの?】
まだ御輿は続いていて空とジャンヌは仲良く踊っている最中なのに、海だけ戻ってきて機嫌良く私の肩に止まる。
感じからして空と喧嘩して一人だけ帰ってきた訳じゃなさそうだからそこは安心。
「おいらはもう楽しんだ。今度は古都音と一緒に楽しむ」
【そうか。なら一緒に見よう】
訳を知りひょっとしたら甘えたいのかと思い、頭を優しくなぜる。すると海は顔を赤く染め嬉しそう。
【俺、ひょっとしたら邪魔だったりする?】
「するわけないじゃん。庵も一緒に見れば良いだろう?」
【そういうことなら遠慮なく】
苦笑しながら明らかに気を使うライオンさんだったけれど、海はケロっとして首を横に降り邪魔者扱いせず。特に甘えているのを見られても平気そうだ。
意外にも精霊に見られるの恥ずかしいけれど、そのパートナーに見られても構わないのかも知れない。そう言う気持ちはなんとなく分かる。
【ねぇ海、これからこっちの世界でも空と三人でいろんな思い出作ろうね】
「おう」
もう少しで終わりそうな御輿を見ながら、なぜか物語でのラストに言いそうな台詞を言ってしまう。
今までは一人淋しくあるいは親と行っていた場所に空海と行ったら、今まで以上に楽しくなるに決まっているから。