XIII .美味しいお祭り
【美味しい?】
『うん』
約束のハンバーガーセットを買って半分こして食べる双子に聞いてみれば、笑顔いっぱいの二つ返事。
その笑顔を見られただけでも買ったかいがあった。
私も双子に貰ったポテトを食べる。
「ことねはそれだけでいいの?」
【うん。これから行く所で食べるから】
「どこに行くんだ?」
【お祭り】
「お祭り?なにそれ?」
「美味しいのか?」
【行けば分かるよ】
言い方が悪かったらしくすっかりお祭り=食べ物になってしまいハンバーガーセットを半分食べたのにまだ食べる気満々である。
小さい体なのに食欲旺盛。見境なく食べさせても大丈夫なんだろうか? 私のせいで肥満にしたくないから、後で手帳に書いてある精霊の育て方を読んでみよう。
そのお祭りとは会社近くの神社でやっていて地方の御輿が出るらしく、私はそれを楽しみに行くんであって屋台目当てではない。
それにしても誠さんは一体何を考えてるんだろうか?
私が誠さんと趣味友だって上司達に言ってしまってすみませんと連絡したら、
それで構わないし自分は隠れオタクじゃないからバレても大丈夫。逆に余計なトラブルを起こさせてすまない。
と返信が来た。
それですべては終わり誠さんは紳士で格好良いなと思っていたら、夕方になりまた部長から呼び出しが掛かり会議室には先程の上司達。
副社長との食事の席を取り付けたが、条件として私が同行と私が店を選ぶことを言われた。なので同行することを命じられ、費用はこちらですべて出すから予約しとけのこと。
不安いっぱいの上司達に、もちろん私も相当なプレッシャー。
誠さん曰く思いっきり趣味に走ってくれと言われてしまったけれど、本当にそれで良いんだろうか?
オタク御用達のカラオケ屋?
アニメカフェ?
メイド居酒屋?
戦国居酒屋?
この場合は戦国居酒屋なら上司達も多分文句はないだろう。ちょうど昼間盛り上がっていたアニメとコラボもしてたしね。
後で予約状況を確認してみるか。………でも明らかに接待でしかない飲み会なんて行きたくないな。
「すげぇ、美味しそうな良い匂いがする。お祭りってすごいんだな?」
「うん。くーあれがやりたい」
【海、これは屋台って言うの。空、ヨーヨー釣りなんてどうやってやるの?】
「くーが古都音の手になってやるの」
【そう言うことか。海もやる?】
目をキラキラしながら屋台中を飛び回り、空は食べ物よりも遊ぶ方に興味津々。しかもそれなりに考えていて、試しにやってみることに。どうせやるなら海もと思い聞いてみたけど、
「おいらはあれあんず飴?って言うのが食べたい」
食べ物に興味がいっている。
【了解。ヨーヨー釣りしたら買ってあげるね】
「おう」
今回は後回しにしても怒らないので、ヨーヨー釣りの屋台に行く。
今では当たり前となっているキャラクターのビニール製。これだったら長く遊べそうだけれど、それだけ釣りにくそう。
「おじちゃん、一回」
「あいよ」
「お姉さん、すごいね? 十個も取るとは。おじさん完敗だよ」
「えまぁ、見かけによらず得意なんですよね? アハハハ………」
空の意外な才能なのか軽く十個も取ってしまい、さすがにこれ以上は悪いので釣糸を返却。圧倒されるおじさんにそう言葉を返しさっさと退散。
本当は何個かヨーヨーも返そうかと思ったんだけど、空が欲しいと言うから仕方がなく。
「今度はおいらの番。あんず飴」
【分かった分かった。あそこはボタンで本数決める見たいだから、空見たく手にいてね】
「ラジャー」
ちゃんと大人しくしていた海がお待ちかねとばかりにそう言い私の服を引っ張り、今度も私の言うことを守ってくれすっかり良い子になっている。
今朝のことが効いているのだろうか?
「あんず飴下さい」
「あいよ。好きなタイミングでボタン押して」
「解りました」
って言われ海とタイミングを合わせボタンを押すと、2が点滅。
後少しで4だったけれど、当たらなくってらなくて良かったと思う。
「おめでとう。はい、二つ」
「ありがとうございます」
二つなので嫌な顔されずに、あんず飴を渡される。私も今度は気まずくならず受け取れた。
しかしヨーヨー十個にあんず飴を二つを持っているのはつらい物があるから、どこか人気のない所でヨーヨーを双子のバックに入れよう。そんでもってお腹も空いたから焼きそばとたこ焼きを買って食べるか。
【じゃぁ、人気のない場所に行って整理しよう。空、本当に十個もいるの?】
「うん、ことね、くー、海、うさぎ、さくら、すみれ、ジャンヌ、アンナ、フェイス、新しい子の分」
「おいらの分もあるのか。ならあんず飴やる……古都音の分がなくなる……」
【ありがとう。でも私は一口ずつ貰えればで良いからね?】
十個すべて自分だけではなく友達の分もあることを知り、そんな優しい考えがまったく出来なかった自分が恥ずかしい。
これには嬉しそうにする海はあんず飴をあげようとするけれど、それは私の分らしく塞ぎ混むから解の頭をなぜながら辞退する。その気持ちだけで私は充分。
「あれ、空海と古都音?」
『ジャンヌだ!!』
【え、どうして?】
浴衣姿のジャンヌが姿を見せ、喜ぶ双子に驚く私。
ジャンヌがいるってことは当然ライオンさんもここに来るってことで、それは凄い偶然で嬉しいことである。
「庵とお祭りに来たんだ。空海達もだね」
辺りを見回すと遠くの方でパッと見分からない帽子を被りサングラスを掛けた男性ライオンさんがこちらに向かってきている。
そしてライオンさんも私と同じで、わたあめやらチョコバナナやら金魚やらいろんなものを持たされていた。すっかり良いお父さんになっていて微笑ましい光景ではあるけれど、
ライオンさん、ジャンヌを甘やかせすぎです。
「ああ。古都音にあんず飴を買ってくれて二個当たったんだ」
「クーはヨーヨーつりをやって、十こつったの。ジャンヌにも後であげるね」
「それはありがとう。空はすごいんだな 私も庵にたくさん買ってもらったから、みんなで食べようよ」
『うん、ありがとう』
三人はそれぞれ楽しそうに現状を報告し合い、仲良く食べることをしたらしい。
仲良くすることは素敵なことだけれど、宴会をやりそうだからその辺注意しとこう。
【三人とも考えて見て】
『はい!!』
【三人は普通の人達には見えません。それなのに見える食べ物がパッと消えたらどうなりますか?】
『怖い』
【はい、良く出来ました】
普通に注意してもイマイチ実感がわかないと思い分かるように説明すると、すぐに理解出来たのかそう言う心配はなさそう。
「キツネちゃん、こんばんは。君も来てたんだね」
「こんばんは。はい。ここ会社の近くなんで」
「そうなんだ。今の説明ナイスだと思うよ」
ようやくライオンさんが私達の元に辿り着き、聞かれていたのか頭をなぜられ誉めてくれる。それはいかにも子供っぽい誉められたけれども、私はライオンさんに頭をなぜられるのが好きで握手会の時良くお願いしてた。
覚えてくれたんだ。
「ありがとうございます。じゃぁまず人気のない所にいきましょう」
「そうだね? キツネちゃんは今日一日大丈夫だった?」
「いろいろありました。双子にはまだまだ教えないいけないことがあるんですよね」
「やっぱりね。ジャンヌも基本は大人しなくしてくれてるんだけど、たまにやらかしてくれるんだよ」
話ながら私達は苦笑する。
精霊を育てることは、どこも同じだってことが良く分かった。それが分かっただけでも、ずいぶん気が楽になる。
双子は優しい男の子に育っているけれど、やっぱりわんぱくって言うのが玉に瑕だからね?
タヌキに子育てのコツを教えてもらおうかな?