Ⅻ.副社長は、オタク友達?
「古都音の所より更にすげぇ~」
「みんなくー達よりも小さい。ひこうきはよく見えるね?」
「そうだね?さすが最上階」
副社長につられてやって来ました副社長室。
いかにも副社長室って感じで家具はすべてが最上級で、落ち着いた色合いでコーディネートされている。何より十階でも眺めはもちろんいいんだけれど、約三倍の高さがある三十階だとスケールが違う。
だから外の景色夢中になって眺め、双子と一緒になって騒いでしまった。
「月島くんは、アイスティーでいいかね?」
「はい」
「空海は、オレンジジュースでいい?」
「おう」
「くー、オレンジジュース大好き」
「なら私と一緒だね」
そんな私達をちゃんとお客様として扱ってくれ、飲み物まで出してくれる。
副社長室なのに給湯室が備わっていて、自分で入れているようだ。
「さぁここに遠慮なく座って。昼食にしようか?」
「はい。……フカフカだ」
「くー、こうやると面白いぞ?」
「わぁ本当だ」
言われてソファーに座れば、あまりにもフカフカで声を出す。双子は恐れを知らずに、トランポリン代わりにして無邪気に遊ぶ。
「空海、ソファーで遊ばない」
『は~い』
「あそこのソファーなら構わない。アンナの遊び場にしたからね」
「ご飯食べたら遊ぼうよ」
『うん』
冷や汗もんだけど教えないと分からないので教えると双子は素直に返事をしてちょこんと座るけれど、副社長は隅に置かれている一人用のソファーと机を指差す。机には画用紙とクレヨンに絵本も置かれていた。言葉通りの立派な遊び場である。
ちなみに副社長とアンナのお昼はサンドイッチだ。
「おいらもサンドイッチ食べたい」
「じゃぁ明日ね」
「そうだね? 今夜はハンバーガーだもんね?」
もはや子供のサガなんだろうか人の物を欲しがる海にそう言い聞かせてると、こちらはそうでもなく与えられた物を美味しく食べる空があんまり言って欲しくないことを言ってしまう。
ハンバーガーなんて庶民のさらにその下級民衆が好む物だから、きっと軽蔑されてしまう。
それとも高級ハンバーガーだと思ってる?
「ハンバーガーはポテトとコーラが合うんだよ」
「アンナは食べたことあんのか?」
「うん。昨日誠が買ってくれた。これがおまけ」
とアンナは言っておまけを見せてくれたのは、現在CM中の庶民がいくバーガー屋のキッズセットのおまけだった。意外過ぎて声がでない。
「私、これでもジャンクフードは大好きでね? よく食べるんだよ。それにオタクでもあるしね」
「え?」
これまた意外過ぎることを発言を、苦笑しながら副社長は暴露する。
でもよく考えれば冒険者に選ばれたんだから、多少なりともお仲間さんか。
「君達のパーティーには乱堂庵がいて羨ましいと思ってるよ。我々のパーティーはいろいろ問題があってね」
「あ、なんとなく分かります。大変ですね」
言うまでもなく華恋のことだろう。
「彼女は君達のパーティーになることしか頭にないようでね?我々のパーティーはどうでも良いって感じで、そのうちトラブルにならないかとビクビクしているよ」
「…………」
薄々予想して恐れていることを言われてしまい、顔から血の気が引き軽い目眩が私を襲う。
第三者には言われたく……副社長も当事者なるのか。
逆らうことが出来ない二つのパーティーを巻き込む大事件。
回避できる選択は本当にないんだろうか?
「卑怯技を使うのであれば彼女の父の会社を我が社外買収後、乱堂庵本人から拒絶をしてもらえばいい……」
「は、何言ってるんですか? そんなこと出来るとしても、働いている多数の従業員が路頭に迷うので辞めて下さい」
どす黒い大人の汚い手段を笑み付きで聞かされ、さすがにそれは怖いので願い下げ。怖すぎで鳥肌が立つ。
そんなドラマのような展開が現実に出来ると言う驚きより、この副社長を敵に回したら怖いと言うことが良く分かった。触らぬ神に祟りなし。
イケメンで金持ちで頭が切れる。それでいて独身貴族と来れば、どれだけ女癖が悪いとか?
「冗談だよ。もっと穏便な手段を考えよう」
「そうして下さい。それよりも今はもっと楽しい話をしましょうよ!副社長は今期は何を見ていますか?」
とても冗談だとは聞こえないけれどそこは長し、話題をアニメに持っていく。暴露された以上、そう言う話をして下さいと言うことなんだろう。
「そうだね。それと私のことは名前で呼んでくれればいい。今期のアニメは……」
その後はかなり私と嗜好が合うようでアニメの他にも洋画や歴史の話で盛り上がった。その間仕事の話を一切しないのは、きっとオンとオフはきっちり切り替えるタイプなんだろう。
まぁ平社員の私にしても意味がないと思ってるかもしれないけど。
とにかくあっと言う間に時間が過ぎてしまい、予鈴のチャイムでようやく我に戻る。
「誠さんの話すごく楽しかったです」
「私もだよ。明日からも昼食を一緒にしてくれないだろうか?アンナも喜ぶからね」
「はい、是非」
自分の部署に戻る時、嬉しい誘いに二つ返事。
すっかり副社長と言う警戒心は解かれていて、普通のオタク友達。
「ありがとう。あ、これ私の私用の連絡先とSNS。でもけして仕事中にはしないこと。連絡ならば頻繁にじゃなければ構わないよ。時には気分転換も必要だからね」
「ですよね? 二人とも私は戻るけれど、どうする?」
「くー、ねむいからねんねする」
「おいらも。昼寝する」
「誠、私も。空海、お昼寝したら遊ぼうね?」
「おう。あそこに集合な」
「アンナ、おやすみ」
私用の名刺を渡され軽く釘を刺された後、さっきからウトウトしていてやけに静かだった双子に聞けば、そうアンナと約束して石の中に入っていく。
本当に寝る時だけ、石の中へ入ってくれるんだよね?
「月島さん、ちょっと会議室まで来てもらえる?」
「え、あはい」
勤務中いきなりただ事ではなさそうな部長から呼び出しが掛かり、訳も分からず部長の後について会議室へ向かう。
私は何かとんでもないことをやらかしたんだろうか?
でもそしたらまずはリーダーが呼びに来ると思うんだけど。
「……っげ、何これ?………」
会議室に入れば圧倒的な光景に、思わず小声で吐き出してしまった。
だってこの部署のナンバー3まで揃っていて、ただ事ではない重い空気が流れている。
これって言うまでもなく死亡フラグ?
クビ?
今すぐ逃げたい。
「月島さん、副社長とはどんな関係?」
「え?」
最悪な状況を想像して怯えていたのに、問われた問いはどうでもいいことだった。あまりのことにぽかんとする私。
そんなのどうでもよくない?
「さっき副社長とお昼してたよね? 今までどんなにお誘いしても断られてるんだよ。趣味は一切明るみに出さない人だったからさ」
「あ、そんな感じですね? オンとオフはきっちり切り替えるタイプなんだと思います」
「やっぱりそうなんだ。それで?」
「趣味友です。詳しくはプライベートのことなので、話せませんが」
話しているうちになんとなく事情は分かったけれど、ドラマのような派閥争いになんて巻き込まれたくなかったので守秘義務を主張する。
誠さんがプライベートを隠しているってことは、教えたくないってこと。特にオタク系?
しかし私と趣味友って言ってしまった時点、おおよその察しは付いてしまうかも知れない。
謝罪の連絡をしないと。
「月島さんと趣味友? なら歴史関係?」
「確か洋画も好きだったよね?」
「そう言えば小説を書いているんだよね?」
しかしオタク趣味は一切触れられず、なぜか他の趣味で詮索をされるのだった。
まさか優秀そうな副社長がオタクだとは夢にも思わない……って言うかなんであなた達は私の趣味を知りつくしているんでしょうか?