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Ⅺ. 双子、会社へ行く

【ここが、私の働いている会社だよ】

「すげぇ~」

「うん。高いね」


 予想以上の満員電車に弱冠疲れ少し休憩してからようやく辿り付いた我が社を紹介すると、双子は本社ビルを姿勢を崩しながらも見上げ声も上げる。

 あっちの世界でも見える範囲に高層ビルはありはしたけれど、間近で見るのは双子にとっては初めてのこと。

 三十階ビルは誰が見たって圧倒し興奮するんだと思う。私も初めて見た


【でしょう?それから私が仕事をしている間、もし飽きちゃったらあっちで遊んでてね】


 自分のことじゃないのに少しだけ得意げになった後、双子には一番大切なことをここで伝えておく。

 本社ビルの隣に面した緑化活動として作られた森林が豊かな広場。小川もあって珍しい小動物や鳥類も住み付き始めているようで、もちろん野良猫もいて社員達の憩いの場所となっている。

 だからきっと今後暇を持て余すだろう双子には、たくさんの友達が出来て楽しく遊んで過ごせるはず。


『はーい』


そんな私の思いを知ってか知らずか、元気いっぱいの返事が返ってくる。






「今までと景色が違うぞ?」

「いろんなものがよく見えるね。車や人が小さくなってるよ」


 十階の職場に着くと窓にぶちゅとへばり付き夢中で外の景色を眺める。何を見せても望む以上のリアクションに、見せがいがあって私も満足でにっこり。


 昼休みになったら、もっと上の階まで連れてって行こう。


【そうだね? 気に入ってくれた?】

『うん』

【じゃぁ私は自分の席に行くけど、二人はどうする?】

「おいらはまだ見てる」

「くーはいっしょに行く」


 ここで性格の違いが出てきて、外に釘付けの海と私に付いてくる空。席からでも見えるので言葉通り席に行き、いつも通り支度を始める。


【空はここで大人しくしててね】

「うん。くーはお絵描きしてるね」


 カレンダーの前にスペースを作りそう言い聞かすとちょこんと座り、バッグから自由帳と色鉛筆を取り出し絵を描き始める。

 バッグに入れるとなんでも指輪をはめている人にしか見えなくなるらしい。





「ことね見て。ことねの絵かいたの」

【あ、本当だね。上手に描けてるね】


 お絵描きに夢中で静かだった空が、得意気になって絵を私に見せてくれた。

 人の顔に見えなくもない微妙なだけれど、すべでが紙をはみ出す勢いがある元気いっぱいの絵だと言うことはよく分かる。

 私はこう言う子供らしい絵、好きだな。


「うん。ことねにあげるね」

【ありがとう。そう言えば海はまだ外を・・・】


 すっかりご機嫌な空に早速癒されながら不自然にならないよう海がいる方向に視線を合わせれば、恐ろしい光景が入ってきて顔から一気に血の気が引く。

 他人の机にあるお菓子を食べようとしていた。


「月島さん、どうしたんですか?顔が真っ青ですよ」

「ちょっとお腹が」

【空、海を今すぐ連れてきなさい!!】


 前に座っている後輩君は突然の私の異変に驚き心配してくれるのを良いことに、空にそう言い捨て立ち上がる。空気を読んだ空は急いで海を呼び連れてくる。そのまま三人で誰もいない場所に行く。

 これは怒らないといけないレベル。





【海、なんで勝手に人の物を食べようとしたの? それは泥棒なんだよ】

「だってお腹が空いたから……」

【そう言う時は私に言いなさい】

「……はい。ごめんなさい」


 理由を聞いてそれをどう言うことなのか分からせると、あっさり非を認めシュンとなる。 反省してくれるのは嬉しくて許してあげたいんだけれど、あんまり甘い顔を見せたら図に乗って甘く見られてしまう。


 え~と双子と約束した罰は確か……


【悪いことをした海は罰として、お昼まで石の中に戻りなさい】

「いやだ~」

【え、海?】

「ことね、かいのことは、くーにまかせて」


 威厳ある態度と口調で罰を与えると、大声で泣き出しどこかに行ってしまう。驚く私に空はそう言って海を追い掛けていく。


 空って案外いざとなったらしっかりして頼りになるタイプなのかも知れない。確かに今の海を私が追いかけても逆効果になるだろうから、空に任せておいた方がいいのかも?

 考えたら私も悪かった。双子は世の中のことをまだ知らないんだから、他人の物を勝手に食べたらいけないのも教えないと分からない。だからお腹が空いた海は野生の本能で動いただけのこと。

 それなのに私は、怒って罰を与えようとした。


「……はぁぁ」


 自然と吐き出してしまった大きな大きなため息。しかし今は勤務中なので落ち込んでもいられず席に戻ろうとすれば、またしても後輩君がいてさっきと同じ表情で私を見つめている。


「月島さん、やっぱりどこか調子が悪いんじゃないんですか? 医務室に行きます?」

「体調はいいから大丈夫。ただ子育ての難しさを痛感しただけ」

「は、子育て?」

「え、あ育成ゲームの話だから気にしないで」

「……真面目に仕事をして下さい」

「……すみません」


 思わず本音を呟いてしまい不審がられたため、適当な嘘を付けば心配の眼差しが軽蔑に変わる。

 元々後輩君からの信頼はされてなかったけれど、これでますます信用もなくなってしまった。

 泣きたい気持ちを抑えこみ、今度こそ席に戻り真面目に仕事を再開する。







【空海、どこにいるの? お昼にしよう】


 チャイムが鳴ると同時に職場を飛び出し、帰ってこない双子を捜しに森の広場に行く。

 しかし呼んでも応答がなく困っていると、エンドリュースで知夏さんのパーティーのインテリ風眼鏡さんが視界に入る。あの時はラフな姿だったけれど今はサラリーマン姿で、向こうも私に気づいたらしく近づいて来る。


 同じ会社の人?


「あなた、エンドリュースにいましたよね?」

「はい。知夏さんの同じパーティーの方ですよね? 私は月島古都音です」

「ええ。私の名は九条誠と言います」


 問われた問いに答えると一瞬変な顔をされるがすぐに戻り、私の問いである自分の名を答えてくれる。

 多分障がい者には偏見を持ってなさそうだから、普通にしていれば大丈夫だと思う。


「よろしくお願いします。あの九条さん、双子の精霊を見ませんでしたか?」

「それならアンナが見たらしい。そうだろうアンナ?」

「そうだよ。あっちで空海が仲良くねんねしてたよ」


 同胞なので双子のことを聞くと、九条さんのパートナー精霊アンナから有力情報が手に入る。

 白銀の髪で赤と青の瞳を持つやっぱり愛らしい女の子。精霊はみんな萌えっ子なんだろうか? だけどうさちゃんを虐めてたAは憎たらしい子だった。

 どうやらアンナと双子は面識があるらしい。まぁ精霊クラスであれだけ騒ぎを起こしてたら、そうなるのも無理ないか。

 

「私にも案内してくれる?」

「いいよ。こっちだよ」


 と快くアンナは言って、双子達の元に案内してくれる。






 双子は本当に気持ち良さそうに眠っていて、海は涙の跡が残っていた。


 可哀想なことしちゃったね。


「何かあったのですか?」

「他人の机にあるお菓子を食べようとして叱って罰を与えようとしたら逃げられてしまって。よく考えたらそれが悪いことだって教えていなかった私がいけなかったんです」

「そうなんですね。確かに精霊達はまだ何も知らないですが、悪いことをしたら教えると同時に叱らないといけないと私は思いますよ。アンナも与えられたもの以外は、絶対に食べないこと」


 不振に思ったんだろう九条さんに起きたことを苦笑しつつ話せば、優しい教えが反ってきてアンナにもそう忠告する。


 悪いことをしたら教えると同時に叱る。


 だけどさすがに罰はないか。


「約束する。空海、起きなよ。お昼だよ」

「……アンナ? なんでここにいるんだ?」

「だって誠はこの会社で副社長なんだよ。すごいでしょ?」

「!!」


 アンナが起こすとまず海が目を覚まし眠たそうに目を擦りながら、アンナがいることに疑問を持つ。するとアンナは得意気に恐ろしいことを発する。


 だって誠はこの会社で副社長なんだよ。


 九条は確かに社長一族の苗字。

 インテリ風眼鏡は本当にインテリだった。


「ことね? どうしたの? またかいがわるいことした?」

「……してない。……古都音、ごめんなさい。お昼食べたら石の中で反省するから許してくれる?」


 そこに空も起きてきて私の顔をのぞきこみ心配をしてくれ、海は元気なくさっきとは違い反省をする。

 やっぱり冷静になれば、分かってくれた。

 しかし今はそれどころではない。


「海、そのことはもういいよ。今度から気をつけようね?」

「うん。約束する」

「アンナ、ありがとう。それでは私達はこれで失礼」

「そんなこと言わずに、昼食をご一緒にどうですか?」

「え?」


 粗相のないようさっさと退散したかったのに、引き留められて誘われてしまう。

 副社長の誘いを断ったと上司達知られたら騒ぎになると言うか、私と副社長が知り合いと言う時点騒ぎになりそう。


「そんな身構えなくても、私とあなたは同じ秘密を共有する仲間じゃないですか?」

「そうですね。ならお言葉に甘えて」


 副社長は誤解を招くことを言いながら微笑む。


 これが二次元だとインテリ眼鏡の副社長は腹黒か俺様系でしかないけれど、現実だとどんなキャラなんだろうか?

 しかしなぜ私相手にフラグが立つ? それとも私だからフラグでもない?


 さまざまな疑いを持ち不安いっぱいのまま、やっぱり断れず頷く。


「な、副社長ってなんだ?」

「この会社で二番目に偉い人」

「それってことねよりも?」

「当たり前でしょ? 一番は誠のお父さんだもん」

「すごいな」


 私達の後ろで精霊達は、無邪気に恐ろしいことを話し合っている。

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