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Ⅹ.いってらっしゃい

「これはおいらが先に取ったんだろう?」

「でもくーが先に見つけたから、くーのなの」

「早いもん勝ちだから、おいらの勝ち」

「かい、ずるい」


 今朝も昨日と同じ双子の喧嘩の声に、目覚ましがなるよりも早く目が覚める。


 今朝は一体何を取り合いしてるんだ?


 仲裁するため起き上がると体が少し重く感じたけれど、別に体調が悪いと言うわけでもない。なので気にすることなく立ち上がると、泣いている空が勢いよく飛び込んでくる。


「ことね。かいがいじわるする。くーが見つけたようふくをよこどりした」

「え、着たい洋服って何のこと?」


 一生懸命訴える可愛らしい空で信じたいのはやまやまだけれど、言っている意味がさっぱり分からず首を傾げ問い返す。

 着たい洋服って言っても我が家には双子に合う物がないはずなのに、なんでそれで喧嘩になるか不思議である。


「あのね。まほうでサイズを合わせられるんだ。だからことねが持っているぬいぐるみのふくを借りようとしたらかいが……」

「なるほど。だったら私が選んであげる」

「だからことね大好き。かみもやって」


 二度目の説明で言っていることが分かり代替を提案すると、やっと泣き止みすぐに笑い私の肩に腰を下ろす。可愛らしいお願いに私の心はあなただけの物。

 これは間違えなく萌えだな。


「……」

「海?」


 そんな私達を入り口でそっと静かに見つめる海。どこか羨ましそうに指をくわえている。

 空の言う通り、海のサイズになっているアニメキャラの制服はよく似合っていて可愛い。


「……古都音。おいらも髪を……」

「かいはだめ。くーが先にたのんだの」

「ぐぅ………」


 元気なく頼む海だけど、空は強気で却下し私を独占しようとした。

 それはさっきのお返しだって分かっている海は、何も言わずに今にも泣き出しそうな悲しそうな顔をする。


 これで空の気持ちも分かって、十分反省したかな?


「空、そんな意地悪言わないの。海もやってあげるから、こっちにおいで。これからは一つしかなかったら、じゃんけんで順番を決めること」

「うん、くーさっきはごめんな」

「くーもごめんなさい。これからはなかよく使おうね」


 私の言いたいことをすぐに理解してくれた双子は、素直に謝り合い仲直り。すぐに仲直りできるのなら喧嘩もいいけれど、そう言えば双子の何かと喧嘩をしているような。

 喧嘩するほどなかがいいとか?


「二人が仲良くしてると私は嬉しいな」

『もう喧嘩はしない』

「そうだね。じゃぁまずは空の洋服選びね」


 試しにそんなお願いをしたら大きく頷き誓いはハモる。半信半疑に信じてればいいか。






「古都音、今日は何して遊ぶ?」

「くーはうさぎんちに行きたい」

「残念。今日は会社に行くから、空海も一緒に行くの」

『会社?』


 急いで朝食と弁当をと言っても食べられるものを作っていると、アニメを見ていて今日も遊ぶ気満々の双子がやってくる。

 教えてないのだからそうなるのは当然だから、普段の口調でこれからの予定を教える。 仕事だから双子を置いていくって言うのもありかも知らないけれど、そんな事本人達が泣いて許してくれないだろう。

 それにどうやらパートナー精霊達は指輪を嵌めている人と動物にだけ見えて、心で会話することが可能だから問題はないはず。


「働く所。働いてお金を貰って、生きていくの」

「お~。うさぎも今日は会社?」

「うさちゃんは子供だから保育園。学舎見たいな所」

「ならくー達もほいくえん?」

「別に行ってもいいけど、そしたらお迎えは夜だよ」

『会社がいい』


 我ながらうまく説明できたと思ったのに一瞬おかしなことになりかけたけれど、さすがにうさちゃんより私がまだいいらしい。パートナーの威厳は保たれる。


「朝食出来たから食べようか?」

『うん』


 と言って三人で朝食を食べる。

 当たり前だけど、独りよか何倍も美味しい気がする。







「古都音の会社はどうやって行くんだ?」

【電車に乗って一回乗り換えるて行くよ】

「くーでんしゃ好き」


 いつもより早めに外出し、双子と心の会話で楽しむ。本当に周囲には見えないらしく私が余程へまをしない限り注目の的にはならない。

 双子は男の子らしく、電車に興味深々のようだ。

 昨日は隠すのに必死であんまり外を見せてやれなかったから、今日から思う存分見てこっちの世界も好きになってくれるといいな。


「あ、菫と桜がいるぞ」

「本当だ。うさぎとタヌキもいるかな?」

「え、ちょっと?」


 何かを突如感じ取った双子はそう言い合い、私を置いて先を急ぐ。そう言うところはやっぱりと言う感じだ。

 私も歩く速度を速めて双子の行った後を追うと、タヌキとうさちゃんの姿が見えてくる。うさちゃんも私を見つけたらしく、こちらへ走ってくる。


「キツネさん、おはようございます」

「うさちゃん、おはよう。早起きなんだね」

「うん。うさはこれから朝ごはんを食べて、パパに保育園に連れてってもらうの。パパは市役所でお仕事」

「そうなんだ。頑張ってね」


 今日も可愛い水玉模様のワンピースのうさちゃんは朝から元気よく挨拶と、ちゃんとこれからの予定を楽しそうに教えてくれる。

 タヌキは案外可愛らしいセンスに、主夫業もなんなくこなしてるようだ。家の中も外も綺麗だ。何をとっても私に勝ち目がない。


「キツネ、おはよう。? 元気なさそうだけどどうかしたか?」


 そこに張本人が登場。こちらは空と同じく甚平姿。部屋着なんだろう。

 若干凹む私を心配してくれる。


「おはよう。万能のシングルファザーに私がダメ人間だってことを改めて痛感してるだけ」

「まぁシングル歴約四年だからな。と言ってもお袋に結構手伝ってもらってるんだぜ?」

「それでもすごいよ。うさちゃん、パパの料理で何が好き?」

「ハンバーグとオムライス」


真実を知ったとしてもすごいことは変わらない。しかもうさちゃんは王道な料理で意外に凝ったものが好きと来ている。


「おいら達も食べたい。古都音、作れる?」

【ハンバーガーを買ってあげる】

「なにそれ? 美味しいの?」


 こういう話をしてると必ず話に割り込むのが双子で、ハンバーグとオムライスは知っててもハンバーガーは知らないらしく興味を持つ。

 私だってハンバーグぐらいなら時間を掛ければ普通なのは作れるけれど、それは予定のない休日限定だから平日なんて無理。オムライスなんてなんちゃってオムライスしかできないから、ここはすぐに入手可能なハンバーガーが持ってこい。


【すごく美味しい食べ物。私は大好き】

『おお~』


 ざっくりとした答えだけなのに、歓声が上がり期待はさらに高まっていく。なのにタヌキは呆れきって深くため息をつく。

 そんな覚めた眼差しを向けないで欲しい。ジャンクフードなんて体によくない食べ物。


「仕方がない。哀れすぎる双子とお前に、タヌキ様特製ハンバーグオムライスをご馳走してやるよ」

「本当に? なら明日でも良いかな?」


 小バカにされムッとなるもののタヌキだから仕方がなく、顔には出さず笑顔で勝手に明日を指定する。細やかな嫌がらせだ。


「ああ、良いぜ?」


 なのにあっさり快く了解され、なんとなく罪悪感が生まれる。

 この分だと言葉通り私達を哀れんだだけであって、それでも頭に来るのは変わりないけれど本当のことだから仕方がない。忘れよう。


「だったら私のオススメのケーキ屋さんでケーキを買ってくるね」

「うさ、よかったな」

「うん。うさ、ショートケーキがいい」

「オッケー。凄い物を買ってくるから、楽しみに待っててね。それじゃぁ」


 気を取り直しお土産はケーキにすると約束すれば、うさちゃんは即答ではしゃぎながら、ショートケーキを指定。きっと一番好きなケーキなんだろう。更に期待されることを言い残し、駅に再び向かう。

 いつの間にかいつもより十分遅くなっていたけれど、早く出勤しているおかげで問題はない。


 ………始発が乗れないから、満員電車だけど………


「いってらっしゃい」


 しかし愛らしいうさちゃんの言葉が、私に元気をくれるのだった。

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