Ⅸ.動物さんチーム
「所で皆さんはどうしてこちらにいらっしゃのですか?うさぎさんの危機を察知したとか」
「それなんだけどね。追加でパーティーにもう一人加えられないかな?」
ここでようやく本題に入る。
地味に私は忘れかけてたけれど、ライオンさんは当然忘れていなかったようで真顔に変わった。
ダメだと言われたら私とタヌキも頼み込む。
「それならすでに何人か候補者は選んでますが、ご要望があるのですか?キツネさんのような方が適任だと私は思います」
これはすんなりいくパターンで、ペンちゃんらしい優しい考えが嬉しい。
どんな人達が上がっているんだろうか?
「それなら俺の姪の六波羅藍子はどうかな?」
「その方なら候補者に入っていますよ。心臓病と言う病で幼い時から入退院を繰り返しているそうですね」
候補者と言うだけすでに調査済みのようで話す手間が省けたけれど、この分だと私達のことも事前に調査していたんだと思う。
と言うことはつまり私のこともいろいろ知ってる?
「そうなんだ。ダメかな?」
「私は構いませんが、お二人はいかがでしょうか?」
「もちろんだよ。私からも頼もうとしてたんだよね」
「オレも賛成だからな」
反対する人は、ここにはいない。
「では協会で手続きをしておきますね」
特に問題もなくとんとん拍子に決まり、ライオンさんは見たこともない優しい笑顔を浮かべる。
オフの顔?
そんなライオンさんを見ていると私まで嬉しくなって、何気なくタヌキを見れば同じくだった。そうなると当然精霊達も嬉しそう。
「パパ、どうしたの?」
そこにうさちゃんがやって来て、不思議げに理由を聞かれる。うさちゃんもパーティーなんだから、当然教えないといけない。
「ライオンの親戚のお姉さんが仲間になるんだよ」
「うさと仲良くしてくれるかな?」
「もちろんだよ。藍は子供が大好きで、保育士になるのが夢なんだ」
「そうなんだ。だからみんな楽しそうなんだね? うさも楽しみ」
少しだけ新メンバーに不安を抱くうさちゃんだったけれど、ライオンさんはしゃがみこみうさちゃんの目線に合わせ大丈夫だと言う。すると安堵の笑みを浮かべてくれた。
小さいながらそう言うことには敏感で、仲良くしてくれない人にはなつかないんだろうな。私も自分を快く思わない人には、極力関わらないようにしている。
「まさしく期待の新人ですね」
「そうだな。それじゃぁ後半の授業も頑張……そう言えばパーティー名どうすんだ?」
「うっ、今日中に提出だった」
話はこれで終わりだから教室に戻ろうとすれば、もう一つの大切なことを思い出し頭を抱える。
それはライオンさんも同じく失笑。
簡単で恥ずかしくない名前。
何かあるだろうか?
「パーティー名って何?」
「うさ達の組の名前。うさは何がいい?」
「タンポポ」
「たんぽぽ?可愛らしい名前だね?」
即答でナイスな名前が返ってきてそれでいいかなと思いきや、タヌキ一人だけが肩を落としため息を吐く。タヌキにしたら珍しい反応。
「タヌキ君、タンポポじゃ駄目なのかい?」
「タンポポはうさの保育園のクラス名なんだ」
『なるほど』
その答えがやたらに納得できてしまい、ライオンさんと声がハモった。
そう言うことなら無理もない。
「ももたろう」
「しんでれら」
「それは絵本の名前でしょう?」
「みんと」
「それは猫の名前だろう?」
何かを勘違いした双子も話に加わり、絵本を持って声を張り上げ、ジャンヌまで一緒になって騒ぎ出す。突っ込んでも楽しんでいる所をみると、どうやら確信犯らしい。
まったくそんな悪知恵どこでつけたんだ?
「うさちゃん、クラスの名前じゃなくて、今のメンバーの名前」
「動物さんチームじゃないの?」
『………』
「違うの?うさは動物さんチームがいい」
今度は意味をちゃんと理解してくれたけれど思わぬ展開になってしまう。うさちゃんはその名を気に入っているようで、自分の意思を強く主張して反対しにくい状況。
別に私はその名が嫌じゃないから、そこまで推すのならばそれでいい。
「うん。じゃぁ動物さんチームにしよう」
「そうだね。パーティー全員動物の愛称だし」
「お前の姪は?」
「六波羅 藍子でコアラ」
「なら決まりだな?良かったなうさ」
ライオンさんも私同様賛成で姪にも動物名あることを知り、このパーティーは動物さんチームがお似合いだ。本人確認はしてないけれど豚やカバと違い、コアラなら可愛らしいからまず嫌がることはないと思う。
「うん。ありがとうキツネさんライオンさん」
こうしてパーティー名は、無事に決定した。
「本日の講義はここまで。明日からは実技も加わりますので、頑張って下さい」
「はい」
と言ってマデリーネは教室から出ていき、本日の授業はすべて終了した。
久々に頭をフル回転した私はもうヘトヘト。
「帰りに甘いもの食べていこうよ。疲れた頭に栄養補給」
「甘いものね。男はあんまり食べないが、うさが喜びそうだから良いぜ」
「俺は甘いもの好きだけどな? ペンギンくんに連れて行ってもらおう」
私の提案に二人は乗ってくれ私達も席を立ち教室を出ようとすると、背後からとてつもなく嫌な殺気が漂い唾をゴクリと飲む。
言うまでもない。
「庵、これからお茶でも飲みに行きませんか?」
「ごめんね? これから仲間と行くところなんだ」
「だったら私も混ぜてくれませんか?」
やっぱりの誘いにうまく断ったはずが彼女の方が1枚上手のようで、なぜか私をギロリともう一度問う。
一瞬なぜか分からなかったけれど、考えたら私もファンだってことに気づいたんだろう。
どこ行ったって目立つからね私。
だからここで断ったら、ファン贔屓だって叩かれるのは目に見えている。
断れない。
「お断りだ。言っただろう? うちには幼い娘がいるって。お前といたら空気が悪くなる」
しかしまったく関係のないタヌキは、きつくハッキリと断ってくれた。
少し言い過ぎかも知れないけれど、こう言う人にはちょうどいい。
「何よその言い方? だったらあなた達親子が空気を呼んで外せばいいでしょ?」
「なんだと? お前の方こそ自分のパーティーと交流を深めればいいだろう?」
「タヌキ、落ち着いて」
「そうだよ。俺と彼女でお茶して帰ることにするよ」
なぜか逆ギレする彼女にタヌキは怒り出してしまい、見かねたライオンさんは自ら折れてしまった。どことなく悲しそうな表情を浮かべているのに、彼女は馬鹿のようにガツポース。私には勝ち誇った笑みを見せる。
「じゃ、ごきげんよう」
と優雅に言って、教室から出ていく。
「本当に最低なファンだな。好きな人に迷惑を掛けてる自覚あるのか?」
「ないんじゃない? 同じファンとしてなさけない」
怒りだけが込み上げてきて、二人で愚痴の言い合い。あんな奴と一週間も一緒なんてヘドが出るほど苦痛。
「本当に姉がご迷惑を掛けてすみません。姉はなんでも自分の思い通りになると思っていて、昔から我が儘でやりたい放題なんです。父が姉には激甘でブラックカードを与えてるもんだから、働いたこともないんです」
さっきと同じように妹が申し訳なく謝罪するが、それは私達には無縁な夢のような現実だった。
半端ではないほどの大金持ちでお嬢様。
でも品がないのはなぜだろう?
「だったらお前もお嬢様なんだな」
「えまぁ、私も親が決めた縁談で結婚はしたけれど、今は家族三人で暮らしてるわ」
呆気に取られたタヌキの問いに妹は否定はするけれど、それでも並み以上の優雅な暮らしをしてるのは間違えない。
私とは月とスッポンの差。
「それでその姉を大人しくさせる方法なんてあるの?」
「取り合えず私がきつく言えば収まりますが、いつもならその後父に告げ口され私が怒られます」
「妹なのに大変だね」
ここまで話して常識を持っていて姉に振り回されている妹に激しく同情する。
姉より父親が最悪。
「さすがにここではありえないだろうな? しかも金も権力もない。だんだん自分が分かってくるだろう」
「だといいんですが……。しばらくは私達夫婦がさらに目を光らせますが、何かあったら言って下さい」
根拠のない願望と厳しい正論を言うのだけど、妹は歯切れの悪い返答。しかも馴れているようでまるで子供を見る親の台詞。
「お母さん、お父さんが呼んでるよ」
そこに小学生低学年ぐらいの可愛らしく聡明な少年が、そう言いながら妹の元にやってくる。
「分かった。今行く。……そう言えば私の名前を言ってなかったわね。私は、知夏。この子は息子の尚悟」
「私は古都音」
「オレは直樹。娘は精霊クラスにいて、うさぎと言うんだ」
本当に今更ながら楽しく自己紹介。知夏となら仲良く出来そうな気がする。
姉とは死んでも無理だけど。
「これからよろしくね。それじゃ私達はこれで。あ、姉の名前は華恋」
そうお辞儀をして最後に姉の名前を言い残し、旦那さんらしき二人の男性がいる所に戻っていく。
少年に似たどこから見ても優しそうな知夏と同い年ぐらいの男性がきっと旦那さんで、どこかで見たことがあるような私と同い年ぐらいのインテリ眼鏡男性。
残りのパーティーメンバーだろうか?
「うさ達を迎えに行くか?」
「うん。なんか疲れちゃったからまっすぐ帰ろうよ」
「だな」
すっかり甘い物を食べる気分ではなくなり、脱力感だけが残ってしまう。
こう言う時は寄り道などせずまっすぐ帰ってまったりするのに限る。
『ことね!!』
「あ、迎えに来てくれたの?ありがとう」
教室を出るとまず双子が飛び込んできて、私の名前をようやくちゃんと呼べるようにまで成長を遂げていた。
その後うさちゃん達もやって来るけど、うさちゃんはなんだか疲れているご様子。
「パパ、うさ眠い……」
「そうか? ならおんぶしてやるよ」
「ありがとうパパ。キツネさん、おやすみなさい」
「おやすみうさちゃん」
タヌキに負ぶわれたうさちゃんはそう言い、あっと言う間に吐息を立て眠りにつく。
寝顔は言うまでもなく愛らしい。
それから私達は高校時代の昔話をしながら帰宅し途端、眠気が襲い自室のベッドでバッタンキューしたのだった。