Ⅷ.恵まれたパーティー
精霊達の部屋に近づくに連れ、騒がしさは異常になり嫌な予感しかしない。
「あれはうさぎの泣き声?」
「え?うそ」
そん中タヌキがそう言い捨て、血相を変え私達を置いて走っていく。もしそれが本当なら当たり前の行動だけど、 そうなるとあの天使のように可愛いうさちゃんを泣かせた犯人がいるはず。
犯人は一体誰だ? は、まさか?
「俺達も急ごう?」
「はい。双子が関わってないと良いんだけど」
「心配しなくても、大丈夫だよ。あの二人はやんちゃだけど、誰かを傷つけることはしないと思うな。ましては仲良しのうさぎちゃんならなおさらね」
心配する私にライオンさんは励ましながら言ってくれたけれども、確かに双子は意図的に傷つけることはしないとは言い切れる。でも誤って巻きこんでしまったかもあるかも知れない。
「うさぎ」
「パパ~」
先に行くタヌキは娘の名を叫びながら入っていくと、泣き叫ぶうさちゃんの声が聞こえてきて、私とライオンさんが教室で見た光景は見るも無惨に荒れ果てた教室。
多数の精霊は部屋の隅に固まり怯え、中央ではフェイスはボコボコになっている自分より大きく体格も良い男の子の精霊を説教していた。
「何これ、もう学級崩壊?」
「確かに……。ジャンヌ?」
それしか言葉が浮かばずライオンさんも同じでジャンヌを呼べば、ションボリのジャンヌとボロボロの双子もやって来る。三人とも悔しそうだ。
『ことえ~』
「いおり~」
堪えていた涙を流し胸元に飛びこみ、うさちゃん同様号泣。
間違えなく何かあったんだと分かるけれど、ここまでなるにはどんなことがあった?
「えいくんがうさにいきなりぶつかってきたの。うさ先生をしていただけなのに」
「怪我はないか?」
「ペンギンさんがいたから平気」
「だからちゅういしたのに、あっちからてをだした」
「そうだよ。うさぎはなにもわるくないのに、ひどいよ」
泣きながらの三人の懸命な説明を聞き、双子はうさちゃんを護ろうとしてこうなったことに安堵する。
やられたらやり返すは道徳的に良くないことだけど、そう言うことなら仕方がない。
まぁ私としては本当にこっちに非がなかったら、やられたらやり返すのが当然だと思うんだけどね。
「そうか。うさちゃんを護って偉いね」
「オレからも例を言うなサンキュー」
『うん』
叱らないで誉めると、双子は泣き止み胸を張る。
「わたしもうさぎをまもった。でもふくが……。せっかくいおりがくれたのにごめんなさい」
「ジャンヌも偉いよ。この程度なら直せるから大丈夫」
「いおり……」
喧嘩よりもボロボロになった服のことを気にしてしょんぼりする辺りはいかにも女の子らしく、それを気にせずジャンヌの頭をくしゃくしゃになぜながら爽やか笑顔で誉めつつ相変わらずの万能ぶりを見せる。
ライオンさんは裁縫もそつなく出来るんですね? しかもこの程度と言っても、ボタンが取れたり破れてたりかないですが。
すると双子は目をキラキラさせ私を見つめる。
「ことえ、おいらの服も直して」
「くーのも」
「無理」
『え~!!』
案の定双子も可愛らしくおねだりするけれど、んなこと出来ないから即効却下。文句を言われても無理なもんは無理。
海の一人称がいつの間にかおいらに変わっているのは、うさちゃんの授業の成果だろうか?
「女子力0」
「うっさい!!」
蝿が耳元で煩いので、殴って黙らせる。
「安心して下さい。空海の服は精霊の服なので、時間が経てば直りますよ」
「そうなんだ。良かったね。空海」
『ぶ~』
ペンちゃんのファンタジーならではの都合の良い設定に一件略着のはずが、それでも双子は納得がいかなく悲しそうに頬を膨らまし不満げにも凹む。
?
「ペンド、こいつはあたしが別室でみっちり教育するわね?」
「分かりました。ですが、無茶なことは辞めてくださいね」
「大丈夫だって。こいつが暴れさいしなけれ」
『…………』
満点の笑みで相変わらず恐ろしいことをさらりと言いながら、嫌がる精霊の首根っこをつかみ部屋を出ていく。その姿は氷の魔女そのもので、私達も凍りついて何も言えず見送るだけ。
フェイスを怒らすと冗談抜きで殺されるかも知れない。少なくても双子にはよく言い聞かせないと餌食になってしまう。
「せんせい、だいじょうぶ?」
「もうあいついなくなったから、またつづきやろうよ」
「もっといろいろおしえて」
「みんな……ありがとう」
今まで隅で怯えていた精霊達がうさちゃんの元に近づいて来て、たどたどしい台詞でうさちゃんを慕う。するとうさちゃんの顔に花がようやく戻り妖精達に囲まれ幸せそう
これでもう大丈夫かな?
「タヌキはフェイスと行かなくて良かったの?」
「フェイスに任せた方が良いだろう? いろんな意味で」
「うん。そうだね」
娘命で私に対しては恐ろしかったのに今は案外冷静なタヌキが不思議で聞いてみれば、まともな答えが返ってきたのでやたらに納得。見方を変えれば強敵には怯むタイプで情けないのかも知れないけれど、本当に娘のピンチならタヌキはどんな強敵でも怯まない…はず。
「タヌキさん、本当にすみません。私の監督不行き届きでした」
「まったくだ。お互い様の喧嘩なら許せるけど、一方的なのは許せないね? きっかけはなんだ?」
やっぱり怒っている。
ペンドは本当に申し訳なさそうに低姿勢。
「あの精霊はパートナーに無視されているようで、すっかり人間嫌いになってしまったみたいです。それでうさぎさんが精霊達と仲良くしてるのが悔しかったんでしょうね。空海もキツネさんが大好きだと幸せそうに言うもので喧嘩になったんですよ」
なんとなく分かるそれなりの理由に心を痛め、無意識に私をじっと見上げ笑う双子の頭をなぜる。私を大好きだと言ってくれる双子が余計に愛しい。
子供やオタクなら今の状況も精霊も少しの時間で受け入れられるけど、普通の人だったら一日ぐらいじゃ心の整理がつかない。
さっきの講習の時も数人否定的な人がいた。辞退する話も出てるらしい。
「それは難しい問題だよね? このパーティーは相性が良い上に、俺は未だに軽い中二病だしね」
「オレはうさがいたから受け入れられたが、もし一人だったらどうなっていたことだが」
「タヌキは一般人だもんね?」
「お前だって一般人だろう?」
誰もが思うデリケートな問題に頭を悩ませ、改めてこのパーティーが恵まれていたことを知る。
なのに一般人が気に入らなかったらしくムッするタヌキだけど、その態度こそ一般人の証拠。本当の意味を知れば怒らない。
「タヌキはオタクでも妄想癖がある訳じゃないでしょう? うさちゃんは年相応だけどね」
「ならライオンもオタクなのかよ? 声優ってだけだろう?」
理由を教えてもやっぱり不満そうで、余計ムキになり言い返される。
それは疎外感から来るものなのか、オタク主のパーティーは避けたいのかは分からない。
「俺はオタクだよ。オタクだから声優に憧れてたなったんだ」
「最近はオタクが多いって言うからな。オレもアニメを見てみるか。何がお勧めだ?」
「取り合えず放送中のライオンさんがレギュラーアニメを見たらいいよ。エリートどSでもろ私好みなんだよね?」
意外や意外の疎外感だったらしくアニメをみると言い出すから、私達にとっては無難な作品をチョイス。どうせならライオンさんのことをもっとタヌキに知って欲しい。
「キツネちゃんはそう言うキャラが好きなんだね?」
「はい。一番好きなキャラは、石川五右衛門」
「ありがとう」
「私も気になります。 今度こちらでも出来そうなものを持ってきてくれませんか?」
「了解。ペンちゃんに出来そうなの持ってくるね? 」
ペンちゃんまで興味を示すので、気軽に約束を交わす。
向こうのものを簡単に持ってこれるのは実証済みだから、後で双子に頼もう。
どんなのがいいだろう?
ここはやっぱりギャルゲーかな? 語りCDだとハードルも高いけれど、私の変態ぶりが。そもそも男が男に口説かれるのは、私の嫌いなジャンルになるからね。
「よろしくお願いします」