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デウステイマーズ~降神戦隊~  作者: 削畑仁吉
22/24

決着

 レガド鉱山を正面から臨む雪原で、∀とトリアはテロリストと戦っていた。

 リ・アージュ側の戦力は乏しい。テクターも装甲車もほとんどおらず、アサルトライフルを持った防寒具姿の人間がほとんどだ。たまにバーゲストとペリュトンの小集団が現れるが、新型テクターにとって敵ではなかった。


「それでも、流石に弱すぎるんじゃないかい? この程度の戦力で世界に喧嘩を売ろうとしたのか、リ・アージュは?」

「おそらく前回の戦闘は彼等にとっても総力戦だったのだろう」

「なるほど、敵も味方も既に出涸らしってわけか。拍子抜けだな」

『元気ですねえ浅間さんは。そんなあなたに朗報です、出涸らしでないのが来ましたよ』


 モニターに、ランゾウが操る合体ヘルゲイターの巨躯が映る。○△□達は奥に控えるヴァルハイトに任せ、ランゾウは敵の正面部隊への対応を優先したのだった。


「撃て!」


 葉牡丹、そして秋櫻(コスモス)の名を持つ2両の戦車が砲撃を開始。合体神獣は飛翔して回避。


「あのサイズで空を飛んだだと!」

「神獣の力が使えれば、空中戦としゃれ込めたのになぁ」


 ∀がぼやく。


「敵ヘルゲイター、童嶋ファイルに記載ありません」

「童嶋さんの知らない――あるいは合体ヘルゲイターですか」

「斥候隊から入電! 鉱山の反対側に新たなヘルゲイターが現れました! クズノハです! アステリオーと交戦中!」

「クズノハはアステリオーに任せましょう」


 童嶋○△□が残したヘルゲイターの情報――通称「童嶋ファイル」において、クズノハは決して関わるべきではない強敵と記載されている。どこがどう強いのか具体的に教えてくれれば対処策も練れるのだが、何故か若い降神師はとにかく相手をするなの一点張りだった。そこまで言うなら無理に相手をしない方がいいのだろう。

 その童嶋○△□は今どうしているのか。田中は目の前にそびえる山肌に○△□の動向を示す何かが見られないかと目を凝らした。




 その頃、○△□はヴァルハイトと向き合っていた。テクターから降りたヴァルハイトが両手をいっぱいに広げる。


「『我々の同志になれ、童嶋○△□』」

「同志……?」


 ヴァルハイトの突然の申し出に驚いたのは、○△□だけではなかった。他ならぬヴァルハイト自身が驚愕の表情を浮かべる。


「どういうことですか、父上!?『やかましいぞ、おまえは黙っておれ』しかし!『恨むなら己の不甲斐なさを恨め』『我々の目的は皇家の復讐。その前では貴様の心情など考慮するに足りぬ』……そんな、母上まで!?」


 自らの肉体に憑依した悪霊と口論するヴァルハイトの様子は、滑稽な独り芝居のように○△□には映った。気分が白けるのを感じながら、○△□は悪霊に問う。

 

「自分達の中で統一見解が出てから持ちかけてきて欲しかったな。ヴァルハイト……いやアレクシィは用済みってわけか?」

「『そうだ』」


 ヒエムス皇帝の顔となったヴァルハイトが頷く。直後、一瞬だけ絶望に目を見開くアレクシィの表情が浮かんだが、すぐに冷血にして狡猾な老皇帝のそれに塗り潰される。


「『アレクシィはよくやってくれた。だがアシタナシアを取り込んでなお、此奴は届かなかった。そこにある9-B……キング・オブ・ヘルゲイターを呼び出すだけの器ではなかったのだ』」

「あんた達は、9-Bを復活させるつもりなのか」


 神獣王という表現は的を外れたものではないと認めるほかない。それほどまでに9-Bから与えられる威圧感は他の神獣と桁が違っていた。こんなものが破壊に使われれば、どれほどの被害が生まれるだろう。本当に人類が滅びかねない。


「人類だけじゃ済まないぞ。神獣は悪霊退治に使われてるんだ、あんた達だってその牙にかかって消滅する可能性があるんですよ」

「『だからこそ、奴をコントロールできるデウステイマーが必要なのだ。アレクシィは結局届かなんだ。しかし、おまえと我等が1つになれば……』」

「俺に取り憑くつもりですか」

「『悪い話ではあるまい。おまえはあのクズノハという神獣が欲しかったのだろう? 9-Bさえ手に入るなら、くれてやろう』」

「くれるも何も、俺がおまえらのモノになるって話ですよね?」

「『だが、おまえはこの世界の王になれる。憎い奴の1人や2人はおるだろう。それらを殺す、圧倒的な力だぞ。欲しくはないか』」

「それは否定しないけど」


 ○△□は博愛主義者ではない。むしろクズノハの件が示すように激情に駆られやすい性分だ。

 憎い奴? いくらでもいる。降神師と神獣を権力闘争に利用しようとする宮廷庁。自分達が見えないからと言って幽霊が見える者を馬鹿にする一般人。養父。


「俺は降神師だ! 一番憎んでいるのも、一番殺したいのも、おまえら悪霊だ!」


 ○△□はサーベラスを召喚。だがヴァルハイトの身体から伸びた青白い触手のような霧が魔犬を壁まで押し飛ばし、押さえつけた。サーベラスが苦悶する。


「サーベラス!?」

「『ヘルゲイターの心配をしている余裕があるのか?』」


 再度放たれた霊気の触手が、サーベラスと同じように○△□を磔にする。


「『我等をただの悪鬼と思うな!』『弱ったヘルゲイターごとき何を怖れることがあろう!』」


 女達の声――たぶんアシータの姉妹だろう――が嘲笑。


「『愚かな。大人しくその身を明け渡せば、意識くらいは残してやったものを』」


 ヴァルハイトがカッと口を開く。そこから青い燐光を放つ老人がゆっくりと這い出てきた。腰から下は蛇のように長く伸び、ヴァルハイトと繋がっている。○△□の恐怖を煽ろうという腹づもりか、右に左に蛇行しながらじりじりと近づいてくる。途中からアシータの母親や姉妹もそれに加わった。

 ○△□は逃れようと身をよじる。だがヒエムス皇族の怨念による縛めはサーベラスでさえ脱出できない。右腕の肘から先が動く程度だ。

 だがそれで充分だった。

 ○△□はズボンのポケットに手を突っ込んだ。そこから、黄金色(・・・)の御霊石を取り出す。怨霊達の顔が強張る。



 * * * * * * * * * * * * * * *



――よく来てくれたな。


 イヴェールの病院。まだベッドの上から動けない黄寺は見舞いに来た○△□に向かって弱々しく笑ってみせた。そしてベッドサイドに置いた1粒の御霊石を差し出す。

 これは? と首をかしげる○△□に、黄寺は言った。


――羅厳先生が亡くなられた後、征一郎さんが形見分けだって、くれたんだよ。


 兄弟子の鴇貞がサーベラスの御霊石を所持していたのはそういうことか、と○△□は思った。○△□の養父である征一郎と鴇貞は仲がよかった。鴇貞の弟分である黄寺もそのおこぼれに預かったのだろう。

 ○△□は御霊石を握り、驚く。サーベラスに勝るとも劣らない高位の神獣だ。黄寺などには扱えないクラスの。


――俺だっていつかもっと腕利きの降神師になるつもりだったんだよ。その時になってショボい神獣じゃ箔がつかねえだろ? 高位の神獣なんて、いつ手に入るかわからねえし。


 その考えの是非は兎も角、自分の成長の見込みが高すぎるのが黄寺らしかった。いったい何十年修行し続けるつもりだったのか。

 ○△□が笑うと、うるせえ、と黄寺はそっぽを向いた。


――いっとくが、それはオレのモンだからな?


 わかってるよ、と○△□は言った。今の自分にはサーベラスがいるし、欲しいのはクズノハだけだ。黄寺が不当な方法で手に入れたのならまだしも、他人の神獣を無闇矢鱈に奪うような真似はしない。羅厳は1人で多くの御霊石を所有し、状況に応じて使い分けるタイプだったが、○△□としては1人でも多くの降神師に御霊石が行き渡るようにするべきだと考えている。自分自身が御霊石を手に入れるのに苦労したからというのもあるが、○△□がチームプレイを苦手としているというのが大きい。1人1人が充分な戦力を持てば、弱い者同士で助け合う必要もなくなると○△□は考えていた。


――けどさ。


 窓の外を見たまま、黄寺は続けた。


――それ、おまえに貸してやるよ。おまえなら操れるんだろう?


 ○△□は黄寺の顔をまじまじと見つめる。


――ほら、オレはこんなだし、いてもどうせ使えねえし……。だから、それを使ってオレの代わりに鴇貞さんの仇を討ってくれよ。……頼む。


 自分より格上で生意気でいけ好かない後輩に対する歯切れの悪い言葉の中に、どんな葛藤があったのか。○△□は黙って頭を下げた。そして言う。有り難く借りていきます、黄寺先輩。

 気持ち悪ィよ、と黄寺が笑う。ですよね、と○△□も笑った。



 * * * * * * * * * * * * * * *



「フェニックス・アクティベート!」


 瞬間、黄寺の御霊石から飛び出した炎の鳥が怨霊達に飛びかかった。不死鳥は汚れた魂を焼き尽くし、ヴァルハイトと繋がった部分を一撃で断ち切る。

 自分達を縛る怨念の塊が消滅する。○△□は床に着地。怨霊達が怨嗟の声を上げながらあっけなく消えていくのに目もくれず、サーベラスとフェニックスを御霊石に収納しながらヴァルハイトに向かって疾走する。


「……ぐああああああっ!?」


 怨霊達による霊力強化がなくなった今のヴァルハイトに、クズノハの維持は不可能だった。魂を吸い取られるような苦痛に絶叫し、膝をつく。

 そこに○△□が飛びかかった。ヴァルハイトの手からクズノハの御霊石をもぎ取ろうとする。だが、クズノハからの負荷に喘ぎながらも、ヴァルハイトはそれを拒む。


「抵抗するな! おまえもこのままじゃ死ぬぞ!」

「たとえ御し得ないものであろうと、おまえには何一つ奪われてなるものかッ! おまえなぞに、これ以上はッ!」

「親に見限られたくらいで、自棄になるな!」


 こっちは親に殺されかけたんだぞ、と○△□はぼやいた。だがそんなことを言っても、目の前の男には何の気休めにもならないだろう。




 クズノハは呻き声を上げて膝を折った。デウステイマーからの霊力供給が断たれたのだ。その瞬間をアステリオーは見逃さない。傷ついた身体を起き上がらせ、光弾を放つ。光の弾丸はクズノハの槍のような銀毛を吹き飛ばした。

 だが、中途半端な形でデウステイマーを失ったに等しい今のクズノハには反撃はおろか避けることも出来ない。とどめを刺される前に御霊石に戻れることを祈るばかりだった。

 アステリオーは頭上で両手を叩き合わせる。掌の間に光の玉が生じ、両手を広げるとそれに合わせるように玉は大きく広がっていった。

 相手が動けないのを知って、必殺の一撃を繰り出すつもりだ。クズノハが焦りに目を見開く。その脳裏に、自分を母のように慕う童子の姿が浮かんだ。




 ヴァルハイトのキックが○△□の腹にめり込んだ。潰れたカエルのような声をあげて○△□が後方に倒れ込む。クズノハの御霊石はまだ敵の手の中だ。涙のにじむ目を乱暴に擦りながら、○△□は千鳥足でテクターに乗り込もうとするヴァルハイトに背中からしがみつく。


「しつこい、離せ!」

「おまえこそその汚い手を離せ! おまえがそれを持ってたって仕方ないだろ!」


 ○△□はヴァルハイトの手ごとクズノハの御霊石を掴んだ。


「――クズノハ!」


 その瞬間、クズノハの目に光が戻った。アステリオーが光球を投げつける。だが一瞬早く力を取り戻したクズノハが跳躍し、光球は山肌を吹き飛ばすに終わった。

 

「戻れ、クズノハ!」


 ○△□の指示に従い、クズノハは御霊石に帰還。ヴァルハイトが怒号をあげた。だがもはや彼にクズノハを再召喚する力はない。出来るのは、○△□を思いきり蹴り飛ばすことだけだ。


「……おまえはもう、ただテクターの操縦が上手いだけの1人のテロリストだ。あきらめろよ」


 胃液を吐きながら○△□が言う。


「違う! 俺はアレクシィ・シュヴァルツヴィチ・ヒエムス! ヒエムス皇国の正当後継者だ! 俺がアレクシィである限り、ヒエムス独立を掲げる者達の旗印となり得る! この世に争いと混乱を引き起こす火種たりえる!」

「誰のためにそんなことをする!? おまえが仇を討ってやりたかった家族は、もう悪霊となった。生きとし生けるもの全ての敵になったんだよ、おまえを含めた、な! そして俺が倒した。いなくなったんだよ、完全に!」

「……まだだ!」


 ヴァルハイトは己の胸を叩いた。


「俺の中には、まだ姉上がいる!」

「アシータが……?」


 確かに、フェニックスで葬った怨霊達の中に彼女の姿はなかった。だからこそ迷いもなく攻撃できたのだが。


「姉上の仇を討つ。そうすれば、姉上も喜んでくださる!」

「ふざけるな! アシータは、お姉さんはそんなこと望んじゃいない。あいつは、悪霊になっても誰かを呪いはしなかった。たとえ本当は仇討ちを望んでいても、それ以上に、誰かと仲良く暮らすことを望んでいた!」

「そんなものは、綺麗事だ!」

「綺麗事が本心で悪いか!」

「――貴様にはわかるまい、家族を虫けらに殺される気分は! 此処で死ぬおまえには!」


 ヴァルハイトは踵を返しテクターに乗り込む。○△□は立ち上がれない。クズノハを使役したことで精神力を大きく消費していたし、ヴァルハイトに蹴られた痛みもある。ここで踏ん張らなければならないという気概がなければ、今すぐうずくまってしまいたいくらいだ。

 黒いテクターが構えたマシンガンの、髑髏の眼窩にも似た銃口の闇が○△□を覗き込む。


「死ぬがいい、下郎」

「させませんよ!」


 マシンガンから弾丸が吐き出される直前、構えた腕が横合いからの衝撃で弾かれた。

 紫色の燦鎧――○△□のテクターがショットガンを装填しながら接近する。○△□の手前で停止。コクピットハッチが開かれる。


「童嶋さん、御無事ですか!」

「田中さん!?」


 乗っていたのは田中だ。


「総指揮官がこんなことしてていいんですか」

「よくないから、早く戻りましょう」


 燦鎧のシールドが、ヴァルハイトのテクターが放ったマシンガンの弾を弾き返し小気味いい音を立てる。○△□はコクピットに駆け込んだ。


「みんなは?」

「巨大な神獣と交戦中です。こう、腰から下が羽根のついた馬の……」

「合体ヘルゲイターです、ランゾウの……」


『田中軍曹、聞こえますか!』


 無線機がノイズ混じりの声を響かせる。


『アステリオーからの熱量増大、鉱山を破壊しようとしている模様です!』

「なんですって? アステリオーが!?」


 クズノハという邪魔がいなくなり、○△□達との同盟も白紙にしたことで、アステリオーは鉱山もろとも9-Bを消滅させる手段に出たのだった。


「脱出しましょう、童嶋さん!」

「……それは出来ません」


 燦鎧のモニターに、撤退していくヴァルハイト機の後ろ姿が見えた。


「俺は、奴を追います」


 ○△□がやったのはクズノハを御霊石に戻しただけで、石自体はまだヴァルハイトの手の中にある。もはや自分には扱えず、かつ○△□が執着しているクズノハの御霊石をヴァルハイトがどう扱うかを考えれば、絶対に此処で奴を逃がすわけにはいかなかった。


「それに、逃げるだけじゃ駄目なんです。ここには俺達にとっても壊されてはならないものがある。発射の阻止は出来ませんか?」

「アステリオーと戦えということですか? 丑峰さんを傷つけることになりますが?」

「……あの壁一面に埋まってる特大サイズの御霊石を破壊したいんです、アステリオーは。でも、そうされると神獣は全て消え去る。悪霊から人々を守る手段がなくなってしまう」

「はあ……」


 田中の表情は複雑だ。彼にとっては、存在するのかどうかわからない悪霊への対策よりもヘルゲイターの脅威を排除できる方が価値があるのだろう。貴咲を犠牲にしなくてはならないというなら尚更だ。

 それでも、田中は○△□の判断を受け容れてくれた。


「CC1、聞こえるか? こちら田中。DTパープルと合流した。我々はこのままアレクシィの追撃を続行する。DTブルー、レッドはアステリオーの攻撃を阻止せよ」


 ローラーダッシュの駆動音を響かせて、燦鎧が疾走する。性能はこちらが上だ。ゆっくりと、しかし確実にヴァルハイト機の背中が大きくなっていく。

 ○△□はマシンガンを発砲。ヴァルハイトは振り返りもせずに回避。撃ち返してこないのは、もう相手に充分な弾薬がないからだろうか。この機を逃すわけにはいかない。

 

「童嶋さん、気をつけて!」


 田中が叫ぶ。曲がり角を曲がった直後、○△□の目の前に尖ったものが突き出されてきた。モニターがブラックアウト。メインカメラが破壊された。サブカメラからの映像に切り替わる前に、燦鎧が横倒しになった。復活した視界いっぱいに、ランスを振り上げる黒いテクターの姿が映る。


「やらせるか!」


 咄嗟に○△□はグロォブ・コントローラーに切り替えた。


「なに!?」


 ヴァルハイトが驚愕の声を上げる。渾身の力で突き出された槍の切っ先は、しかし燦鎧が合わせた両掌で受け止められていた。真剣白刃取り。上手くいったのはただの幸運に過ぎないが、窮地を脱するには充分だ。

 ○△□は黒いテクターを蹴り上げる。黒いテクターがよろめき、その隙に○△□は距離をとる。

 次の瞬間、周囲が真っ暗になった。ヴァルハイトが照明のケーブルを寸断したのだ。距離をとったのは失策だったと○△□は気付く。サブカメラは所詮予備(サブ)でしかなかった。画質は粗く、そして暗い。闇の中で黒いテクターの姿を捉えることは出来なかった。覗き穴からの目視など問題外だ。

 黒いテクターのダッシュ音が広間に反響する。○△□の精神をかき乱す効果はあっても、敵の位置を教えてくれはしない。


「この、メインカメラがやられただけで!」


 心臓を鷲掴みにされたような恐怖を、○△□は必死で打ち消す。


「童嶋さん、立ち止まらないで! あと、照明を消しましょう! 相手から丸見えです!」


 田中がコクピット内照明、及びフロントライトをオフにする。○△□の視界は完全に闇に塗り潰された。どんなに目を凝らしても、閉じているのと変わらない。


――では、まず目をつぶるんだ。


 何故か、∀の言葉が思い出された。テクターを上手く扱う秘訣を求めた○△□に対して、あのバトルマニアはこう言ったのだった。


――自分を拡張しろ。自分の領域を足の先から床に、床からその上にあるものに広げ、己と繋がる世界を感じるんだ。


 馬鹿なことを言っていると思ったが、あの時∀は真剣だった。

 そう、どんなに信じられないからって、それを嘘の一言で片付けていいものではないと自分自身が言い続けてきたのではなかったか。


 ○△□は動くのをやめた。下手に動いても壁に激突するのがオチだ。

 呼吸を整え、両足を踏ん張る。ペダルを意識する。そのペダルを支えるシャフト、その先にあるテクターの脚部、その底面にあるローラー、それが踏みしめる岩場を想像する。○△□が何かしようとしているのを察して、田中は息を殺して見守った。


――そして、それが出来たとしたら……。


「○△□君!」


 燦鎧が振り返る。鋭い槍の一突きが、胸部装甲を切り裂いて通過する。確実に胴体を貫いたつもりでいたヴァルハイトが目を見開く。


「バーッとやって、ビシューってやって、ヒュバ、だァァァ!!」


 雄叫びを上げながら、○△□は燦鎧のクローを振りかぶる。がら空きになった敵の腹に向かって渾身の力で叩き込む。黒いテクターの胴体がへしゃげ、その四肢から力が抜けていく。保持力を失ったマニピュレーターから突撃槍が零れ落ちた。

 ○△□が腕を引くと、ヴァルハイトのテクターは崩れ落ち、地に転がった。


 結論から言うと、∀のレクチャーは功を奏さなかった。○△□が敵の位置を捕捉できたのは、単純に持ち前の霊感でアシータの気配を感じたからだ。

 それでも∀の言葉を思い出さなければ、あの場で悠長に精神統一しようなど思わなかっただろう。


「○△□君……」


 光も届かぬ地の底で、アシータがぼんやりと光って見える。涙を浮かべた彼女が指差す先に、青白い燐光をまとったヴァルハイトの憎悪の表情があった。○△□に向かって、獣じみた唸り声を上げる。


「あの子には、もうわたしの声は届かないんだ。最初から、そうだったのかも、しれないけど」


 アシータは嗚咽しながら言った。


「あれが、弟の魂であろうと、そうでなかろうと――こんな地の底でたった1人、誰かを呪いながら存在し続けるなんて、悲しすぎるよ。……お願い、○△□君」


 ○△□は彼女の願いを叶えた。




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