潜入
指揮車、そして整備トレーラーは途中休憩を挟みつつ、レガド鉱山に向かって走り続けていた。
地図上で見れば目と鼻の先に見えた鉱山だが、実際には車で2日の位置にあるという。移動中にも敵の妨害に遭ったりして、到着にはその倍近く時間がかかった。
「皆さん、聞いてください」
敵の勢力圏目前で田中が言った。
「これから最終ブリーフィングを行います。我々降神戦隊の最初にしておそらく最後の作戦の」
降神戦隊。それが○△□達の部隊の名前だ。
正確にはヤマト帝国陸軍ヒエムス植民地駐留部隊第3小隊付属実験隊・降神戦隊。名前は田中が勝手に考えたもので、隊員達の、ちょっとダサいんじゃ、という意見を無視して強行採決された。
○△□にとっては驚くべきことに、この度イヴェールを出るまで田中達の部隊には名前すら与えられていなかった。公式には一切存在しない部隊。神獣の存在は宮廷庁でも非公式だし、そんなものと軍が提携していると知られるのは体裁が悪いというわけだ。
「とかいいつつトップは手を組んで燦鎧を造ってたんだから、現場ももっとおおっぴらにやればよかったですね」
もっと積極的に行動していれば、ここまでリ・アージュに追い詰められることもなかっただろうか。
今更言っても仕方のないことだ。
「それより私は丑峰さんの中にアステリオーがいること、それを童嶋さんが黙っていたことの方が驚きですよ。なんで話してくれなかったんですか、私と童嶋さんの仲じゃないですか」
「どういう仲ですか。話せるわけないでしょう」
「おまけにリ・アージュの離反者まで連れてきて……」
田中は、部屋の隅で気まずそうにしているヘルマンを見た。
「で、ヘルマンさんと話したのですが、レガド鉱山には秘密の抜け穴があるそうなんです。ま、脱出路を用意するのは当然ですね。そこで――」
田中はホワイトボードにカラーマグネットを幾つか貼り付けた。赤、青のマグネットと、紫のマグネットを二手に分ける。
「浅間さんとトリアさんが正面から敵を攻撃。陽動を行います。アステリオー、ヘルマンさん、童嶋さんはその隙に抜け穴から敵基地に侵入、アレクシィの身柄を抑えてください。なんなら殺してもかまいません。死体が残っているとベターです」
「ただでさえ少ない部隊を更に分けるのか」
「田中さん」○△□は手を挙げる。「たぶん、俺達の中で一番敵から警戒されているのが俺――いや、正確にはサーベラスだ。俺が陽動に回った方がいいんじゃないのか?」
「舐めてもらっちゃ困るね、○△□クン。燦鎧はいいマシンだよ、たとえ神獣の力を使えなくてもね」
空を飛んだことですっかり燦鎧に惚れ込んだらしい∀が胸を張った。トリアも頷く。
「陽動作戦は最初から見抜かれているだろう。敵はどこから来るかわからない童嶋○△□とサーベラスを警戒し、陽動部隊に本腰を入れられない」
「その時こそ、敵にボク達を侮ったことを後悔させてあげるよ。なんなら陽動ついでに大将首を取ってきてあげよう」
「いやはや、心強いですねえ」
……そういうわけで、○△□、ヘルマン、貴咲3人だけの本命部隊は雪の積もった山道を歩いている。スノーモービルで移動できる場所はとっくに過ぎた。あとは自分の足だけが頼りだ。
「おれの背中に乗ってください、お嬢さん」
ヘルマンは気を利かせたつもりで何度も貴咲をおぶろうとするが、その度に貴咲は物腰柔らかに、しかし明確に拒絶する。倒れそうなほど疲労していても、あれだけ怖い目に遭わされた相手に身を預ける気になれないのは当然だろう。
いい加減許してやっても、と○△□は思わなくもないが、そう思えるのは○△□にとって2人の確執が他人事だからだ。ここでヘルマンに肩入れするのは貴咲の感情を蔑ろにするのと同義だ、くらいの気は回るので何も言えない。
結果、自然と休憩が増える。
燦鎧はサーベラスの御霊石を抜き取った状態で置いてきた。○△□が別行動をとっていることを可能な限り悟られぬよう、最初の戦闘で不具合が生じた風を装っている――あるいは他の誰かが乗って、通常のテクターとして使用中かもしれない。
地図と時計を見比べれば、予想以上に進行が遅れていた。○△□は胸ポケットの中の御霊石を探る。サーベラスはまだ回復しきっていないが、今の状態でも3人を一気に抜け穴まで運ぶのは可能だ。しかしそれでは敵に大声で居場所を知らせるのと同じことである。同じ理由でアステリオーも頼れない。
貴咲を見る。疲労の色が濃いが、それ以上に何か思い悩んでいるようだった。○△□が何か声をかけようとしたとき、彼女はすっくと立ち上がった。ヘルマンに向かって向き直り――頭を下げる。
「……すみません、ヘルマンさん。……おぶっていってもらえますか」
顔を輝かせたヘルマンから少女は悲しそうに目を逸らした。別に彼を許したわけでもないし、疲労に屈したわけでもない。自分の所為で行軍が遅れていることが許せないだけだ。
「勘違いしないでください。あなたを信用したわけじゃなくて、時間がもったいないからです」
「わかっています。それでも、ありがとうと言わせてください」
○△□はヘルマンに手を伸ばした。彼の抱えていたライフル銃を代わりに持ってやる。本当ならば重くて冷たいライフルよりも貴咲を背負いたかったのだが、残念ながら体格も体力もヘルマンの方が上だ。○△□では貴咲が回復する前にバテてしまうのが関の山、というか既にバテ気味だった。むしろ自分がおぶって欲しい。
それからしばらく経った頃、遠くから爆音が聞こえてきた。陽動部隊が戦闘に突入したらしい。
「……あと、どれくらい歩けばいいんだ?」
「急いで、1時間だな」
「…………」
1時間。ただの山登りならまだしも、戦闘時間としては長すぎる。
○△□は御霊石を掲げた。
「サーベラス、アクティベート!」
三つ首の魔犬が出現し、その背に3人を乗せて風のように走り出した。
「いいのか、ヴァルハイトに気付かれるぞ」
「それでも陽動部隊とこっちで敵を半分こだ。各個撃破されるよりは遥かにいい」
神獣が抜け穴の入り口に辿り着くまであっという間だった。扉を体当たりで突き破り、○△□達は鉱山内部に入り込んだ。外に比べれば、中はほのかに暖かい。人が此処で暮らしているのだ。奴等のアジトというのは本当らしかった。
通路を少し歩くと、広間に出た。天井は高く、ここでアステリオーを呼び出してもまだ余裕があるだろう。自然に出来た空洞ではなく、何十年にもわたる採掘で生じたものだ。人間が環境を変える力の大きさを○△□は感じた。
「……この鉱山でヘルゲイトオーブの原石が見つかった」
ヘルマンがぽつりと呟き、両手をいっぱいに広げてみせる。
「こんなくらいの、大岩ほどもあるオーブだ。その中には史上最大級のヘルゲイターが眠ってる。ヴァルハイトはリ・アージュ最強のデウステイマーだが、奴でさえ起動すらさせられなかったくらいの超高位の――」
そこで、ヘルマンは目を見開いた。
「危ない!」
何が、と問いかけた○△□の身体をヘルマンは突き飛ばした。
――銃声。
尻餅をついた○△□の頭上で、血飛沫が舞った。胸を押さえてバッタリと倒れたヘルマンと入れ替わるように、サーベラスが○△□をかばう位置に立つ。素早く起き上がってその足の影に隠れながら、○△□は銃弾が飛んできた位置を睨んだ。
全身を包帯でくるんだトレンチコート姿の男がそこにいた。総督代理誘拐未遂事件の際、田中達に捕縛されて連行中の彼の姿を見たことがある。その名前も後で聞いた。
「おまえがランゾウか!」
「そういうおまえは童嶋○△□だな。運のいい奴」
「ヘルマンさん!」
貴咲は大男に駆け寄った。ヘルマンは力なく唇を動かした。命の灯が消えるのも時間の問題だと、誰の目にも明らかだった。
「なんで――」
貴咲の目に涙が浮かぶ。
「この人は、罪を償おうとしていた――やり直そうとしてたのに」
「今更遅ぇんだよ」ランゾウは嗤う。「馬鹿な奴だ。他人をかばうとか、罪滅ぼしのつもりかよ。オレ達はもうどうやったって地獄行き確定コースの人間だろうが。今更ブレるんじゃねえよ」
「何笑ってるんだ、そいつは、あんたを……」
「救おうとした――か? もう知ってるよ」
ランゾウは自分のこめかみを指でつついた。
今この時起こるはずだったことを、彼は既に予知夢で見ていた。アステリオーの力をもって元の身体に戻ろう、人生をやり直そうと、ヘルマンは言っていた。そして夢の中のランゾウはそれを拒絶したのだ。
「この身体が戻ったところでな、失ったものは返ってこねえんだよッ!」
三井蘭蔵は死んだのだ。今更身体が元に戻っても、起きたことは何一つ覆せない。与えられた傷は消えず、犯した過ちも消えたりしない。
ただ身体が元に戻っただけで人生を取り戻せた気分でいるヘルマンの脳天気さがランゾウにはひどく不愉快だった。
だから殺した。夢の中で。そして経緯は違えど現実でも。全く違うのは、夢の中では最初の不意打ちで死んだはずの○△□がまだ生きていることだ。
「デウステイマーらしく、ヘルゲイターでの勝負でケリをつけようぜ!」
そう言いつつも○△□が隙を見せればすぐ拳銃で撃ち抜くつもり満々でランゾウは言った。コートのポケットから、フラギリスから回収した御霊石を取り出す。
閃光。
ランゾウの前に1体の巨大な神獣が顕現した。○△□は息を呑む。頭部は牛、胴体は筋骨隆々とした肉体を持つ人間、下半身は翼の生えた馬、そして尾は大蛇。○△□の知らない神獣――合体神獣だった。身体を構成する神獣は3種類と少ないが、それはランゾウがフラギリスよりデウステイマーとしての能力が劣っているからではなく、単純に使い易さを考慮してのことだった。
サーベラスの体調はまだ7割といったところだ。だが戦わずに切り抜けられるわけがない。
合体神獣は突進してくる魔犬に尾を振り下ろした。それをかわしたサーベラスは尾の上に飛び乗り、一気にそれを駆け上がる。狙うは首筋。そんな中、合体神獣の視線がサーベラスから外れた。
(こんな時に余所見?)
○△□は敵の視線を追う。そこにいるのは、貴咲だった。
「丑峰さ――」
サーベラスの三つの顎が合体神獣の首筋に噛みついた。だが血が噴き出るのもかまわず、合体神獣は貴咲に向けて右腕を振りかぶる。
ランゾウは唇を吊り上げた。夢の中で、彼はアステリオーに身を変じた貴咲に殺されたのだ。それを防ぐには奇襲しかない。サーベラスを攻撃すると見せかけて、アステリオーが反応できない一瞬で、肉片も残らないほどの攻撃を与える必要がある。
「サーベラス!」
このまま敵の喉笛を食い千切り絶命させたとしても、拳が届く方が早いと○△□は一瞬で判断した。○△□の意志を受け、サーベラスは牙を離す。敵の右腕に向けて火炎弾を連射。
わずかだが右腕の軌道がずれた。拳は貴咲のすぐ側に落ちる。
地面に亀裂。次の瞬間、貴咲は地割れに呑み込まれていた。
「丑峰さん!」
○△□とサーベラスがその後を追い、穴の底へ消える。
舌打ちして、ランゾウは亀裂を覗き込んだ。闇一色で塗り込められたそこには何も見出すことが出来ない。
おかしい、と思った。あれだけの猶予があれば充分だったはずだ。何故アステリオーは現れなかったのか。
とにかくとどめを刺す必要があるだろう。ランゾウは神獣を回収し、辛うじて落下を免れたヘルマンに歩み寄った。かつての相棒はか細い呼吸を繰り返している。
「……ラ、ランゾ――」
その額にランゾウは躊躇なく銃弾を撃ち込んだ。返り血がランゾウの頬にまで飛び、包帯に赤い染みを滲ませる。そのまま、ランゾウはしばらく動かなかった。
ランゾウの腰に下がった無線機が静寂を破る。
『おい、こちら正面部隊! ヘルゲイターを回してくれ!』
ランゾウは舌打ちした。ヒエムス中のレジスタンスを掻き集めたはいいが、その中にデウステイマーたりえる者はほとんどいない。それどころか、まともな武器すら持っていない者が大半だ。銃砲店で手に入る程度の武器しか揃えられないくせに、よく独立活動家を名乗っていられるものだと思う。
援軍に向かうか○△□達を追うか、ランゾウは迷った。
――誰かが名前を呼んでいる。○△□は目を開けた。暗すぎて何も見えない。それとも打ち所が悪くて失明してしまったのだろうか。
頭の下に何か暖かくてやわらかいものがある。手で触れると、それは小さく悲鳴をあげた。
「……丑峰さん?」
「そうだよ、童嶋君」
どうやら、自分は貴咲に膝枕をしてもらっているらしい。○△□は心の中でガッツポーズをとった。
灯りがないのが残念だ。蛍ほどの光でもいい、あれがあれば貴咲の胸を下から見上げるという絶景を拝めるのに。
……そんなことを考えていられる自分はきっと大丈夫なのだろう。
痛みもなければ苦しみもない。手足を動かせば、少し軋んだだけでちゃんと動いてくれた。感覚もある。ポケットを探れば、御霊石もあった。サーベラスは自分が気絶したと同時に石の中に戻ったようだ。
「……あの」貴咲が困ったように言った。「身体、痛む? 起きられない?」
「いえ、大丈夫です、起きます」
名残惜しいが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
「私のことならアステリオーが守ってくれるから大丈夫だったのに」
「いや、その、つい、丑峰さんが心配で」
半分、嘘である。貴咲のことならアステリオーがどうとでもするのはわかっていた。危ないのはむしろ○△□だ。もしあそこで1人戦い続けても勝ちはなかっただろう。貴咲から離れない方が安全だったから、そうしたまでだ。
風が吹いた。
それはとりもなおさず、空気の流れがあるということだった。閉じ込められたわけではないらしい。
行ってみよう、と貴咲が言った。はぐれたら困るから、と○△□の手を握る。その細い指から彼女の怯えが伝わってくる。
「……怖くない、私のこと?」
出し抜けに貴咲が訊いてきた。
「怖いよね、得体の知れない宇宙人に取り憑かれた女の子なんて」
「宇宙人なんですか、アステリオーって」
「あ」
貴咲が手を口で押さえる気配がした。
「おっと、つい口が滑っちゃった。アステリオーに怒られるかな」
「怖くないですよ、丑峰さんのこと」
闇を恐怖し、化物と怖れられることに不安を抱く。アステリオーに憑依されてはいても、貴咲自身は変わらない。普通のメンタリティを持つ普通の女性だ。それがわかって、むしろ○△□は安心した。
「チカちゃんも、私のこと、怖がらないでくれるかな?」
「ええ、きっと」
誘拐未遂事件以後、千華は貴咲を避けるようになったが、アステリオーのことがバレてからは貴咲の方も千華を避けるようになっていた。このまま一生、お互いを避けたままでいるのか。
やはりそれは嫌だ。
「……うん、決めた。私、この戦いが終わったら、絶対、首根っこを掴んでもチカちゃんときちんとお話しするよ」
「ええ、その時は俺もお手伝いしますよ」
この戦いが終わったら――が死亡フラグみたいだなんて、野暮なことは言わない。ただ、○△□は黙って目を伏せた。
――戦いが終わったとき、自分の手の中にクズノハはいるのだろうか。アシータは?
風の吹いてくる方向に、ぽつんと光が見えた。
光に向かって歩き続けると、岩をくり抜いて作られた一室に出た。正面の壁に電球がぶら下がっている。鉱山閉鎖時に放置されたか、リ・アージュが再設置したか。
左右を見渡して、○△□は目を見張る。左側の壁いっぱいに、ひとかたまりの巨大な宝石が埋まっていた。地中に埋まっていたものを掘り出そうとして、途中で放棄したようだった。
「これは……御霊石じゃないか!」
これだけ大きいと触れてみるまでもない。何かとてつもなく大きな存在の鼓動が離れていても伝わってくる。まるで御霊石が呼吸しているようだ。
○△□のポケットが震えた。サーベラスは目の前の神獣に怯えているようだった。
「……そう、これを探してたのね、アステリオー……」
貴咲が呟いた。巨大な御霊石を見つめるその目は厳しい。アステリオーの憎悪が貴咲の精神にも影響を与えていた。
「どうしたんです、丑峰さん?」
「アステリオーはね、コイツを追ってきたのよ」
――遥か銀河の彼方に、私達によく似た生き物が住んでいたわ。文明と科学を発展させるうち、彼等は興味本位で命までも作り出せるようになった。
そうやって生まれた命の中に、偶発的に高い知能と能力を持った突然変異が現れた。実験体9-Bと呼ばれたそれは人々の恐怖を吸収し成長、更には恐怖のイメージを生物として現実世界に生み出すことが出来たわ。それが神獣、ヘルゲイターと呼ばれるものの始まり。
え? 降神師の伝承と違う? そうなの? でも、それは童嶋君が自分の目で見聞きしたわけじゃないんでしょう?
……やがて9-Bはその世界の人間と敵対するようになった。戦いの中で9-Bは人間の恐怖を効率的に得る方法を学習したわ。人間の中に紛れ、その指導者に取り入って堕落させ、社会不安を煽り、力を増していった。
だけど救世主が現れた。異星の民から託された智慧を使い、恐怖から生み出された獣を逆に操って9-Bと戦う星の一派……そうよ、童嶋君達、降神師の遠い先輩ってところね。
そして彼等にその智慧を与えた『輝けるもの』に敗北し、9-Bは黒い結晶に姿を変えて宇宙の彼方へ逃げ出した。
でもその星の人類は、ただ追い出すだけではとても安心できなかった。またいつか奴が戻ってきたら。その時、星の一派の業が絶えてしまっていたら?
彼等は『輝けるもの』のコピーを造りだし、刺客として宇宙へ放った。
ええそう、それこそ私達がアステリオーと呼んでいるものの正体。9-Bへの殺意をインプットされて生み出されたエネルギー型ゴーレム。
この星に落下してくる際9-Bは砕けた。その破片はこの惑星全土に降り注いだ。それが御霊石。で、今私達の目の前にあるのが、最も大きな9-Bの欠片。本体といっていい。そして同時に、全神獣のサーバーとして機能している。
個々の御霊石に神獣が眠ってるんじゃない。9-B本体と破片は霊的にリンクしていて、破片を通じて本体が持つ神獣の情報を引き出しているの。そういう仕組み。
つまりね、これさえ壊してしまえば、全ての御霊石はただの石ころに、神獣は1匹残らずいなくなる。
「神獣が、いなくなる……?」
無意識に○△□は9-Bの御霊石を守るようにして貴咲の前に立った。
そして絶句する。貴咲の瞳は暗く虚ろで、それでいて憎悪の表情を浮かべていた。アステリオーが彼女を乗っ取ろうとしているのだ、と○△□は悟った。
「仲間ごっこはおしまいだ」貴咲の声は機械的に響いた。「こちらの事情を知って、なお邪魔をするのなら、おまえごと消す」
「それは困るな」
砲音が響いた。貴咲は声のした方にゆっくりと顔を向ける。その顔のわずか数センチ手前に、貴咲の頭ほどもある砲弾が空中に縫い付けられていた。
運動エネルギーを失った砲弾は地面に落ちた。爆発もせず転がる。
「化物め」
声の主――黒いテクターに乗ったヴァルハイトは空になったテクター用バズーカを投げ捨てた。
「やはり貴様を倒すには、これを使わねばならんか」
その言葉と同時に、長い銀髪をした和装の美女がヴァルハイトのテクターの前に現れる。○△□は彼女の名を呼んだ。
「クズノハ!」
銀髪の女は○△□の方を見て、悲しそうな笑顔を浮かべた。だがそれも一瞬で、すぐに貴咲――いや、アステリオーに向き直った。
クズノハの身体が瞬く間に巨大な狐の姿に転ずる。ほぼ同時に貴咲の身体は岩肌に叩きつけられた。サイコキネシス。間髪入れず、クズノハは貴咲を押し潰そうとするかのように突進。岩壁を掘り進むようにして彼女の身体を鉱山の外へと押し出していく。
「……『童嶋○△□、だったな』」
ただ呆然と見ているしか出来ない○△□に、ヴァルハイトが語りかけた。掠れたような老人の声で。
「『我々の同志になれ』」




