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デウステイマーズ~降神戦隊~  作者: 削畑仁吉
15/24

貴咲

 子供の頃から貴咲には青く燐光する人の姿を取った何かが自分の周囲にいるのが見えていた。いつから見えるようになったかは思い出せない。物心ついた時にはまだ見えていなかったはずだが。

 母親に相談するととても悲しそうな顔をするし、病院に連れて行かれる――特に嫌なことをされたわけではないが幼い頃の彼女は病院をとにかく怖いところだと認識していた――ので、見えることは誰にも話さなくなっていった。

 彼等は貴咲と話をしたいようだったが、近づくと大抵の場合千華に怖い顔で引き留められた。危険な場所に自ら足を踏み入れようとしていたらしい。


――青い人? 私にはそんなもの見えないわね。でも近づかない方がいいわ。


――うん、チカちゃんが言うならそうする。


 そういうわけで、貴咲は悪霊達が危険なものだという発想には至らないまま、ただ千華が近づくなと言ったからというだけの理由で悪霊を遠ざけてきた。おかげで悪霊の脅威にきづくこともなく逃れてこられた。


「……なんで気付かないんだ」


 ○△□は頭を抱える。


「だって幽霊だなんて思いもよらなかったんだもの。足もついてたし」


 貴咲にとって彼等は青い等身大のデッサン人形で、顔の区別はつかないらしい。○△□より霊感が低いのか、それとも彼女の方が本質を捉えているのかは○△□にも判断がつかない。


「でも、アシータ・ナーシャのグロテスクな顔が見えずに済んだのは不幸中の幸いでした」

「相手が見えないのをいいことに嘘を吹き込むな嘘を」


 ……嘘だよね? とアシータは鏡になりそうなものを探す。


「ダメだよ童嶋君、お友達は大事にしないと」


 そう言った貴咲の目が沈んだ。そのお友達と実質的に絶交状態になっているのが今の貴咲だ。


「鳳さん、でしたっけ。上手くいってないんですか? どうして?」

「もうちょっと遠回しに訊きなさいよ○△□君」


 心配する気持ち自体は偽りでないにせよ、人の心に土足で入り込むような遠慮のない問いかけに、だが貴咲は気を悪くした様子もなく、ただ少し困ったような顔で、なんでだろうね、と呟いた。

 

「巻き込まれたのは怖かったけど、私はチカちゃんが私を頼ってくれたこと自体は嬉しかったんだ。気にすることない、それよりも一緒にいさせて欲しい。でも立場が逆だったら、私はきっとチカちゃんと同じことをすると思う。チカちゃんを自分から出来るだけ遠ざけて……遠ざかってくれないなら、きっと後で自己嫌悪に陥るような、酷いことを言うだろうね。私はチカちゃんにそこまでさせたくない。だけども、チカちゃんを危険な場所に置いたまま、1人でヤマトに帰るなんてのも出来ないよ」

「だったら、2人で逃げればいい。あの人、正式な総督じゃないんでしょう」


 貴咲は首を振った。千華の性格で、今更全てを捨てて祖国に帰る選択は有り得ない。たとえ帝国がヒエムス領を捨てるとしても、ヒエムスの地に残った最後のヤマト帝国人になるまで逃げないだろう。

 めんどくせえな、と○△□はこめかみをひっかいた。元々クズノハと自分のことしか考えてこなかった彼だ。他人の心配をするだけ成長したと言えるだろうが、最後まで根気よく面倒が見られるほどにはまだ至らない。


「まあ、丑峰さん達が一番いいようにするといいですよ」

「……何か投げやりじゃない?」

「一番いい方法……それがわからないから困ってるんだけどね」


 でもありがとう心配してくれて、と貴咲は微笑んだ。この人いい人だ、とアシータは思う。変な商売に騙されないといいけれど。


 ああそうだ、と○△□が明るい声を出した。


「気分転換すれば、何かいい考えが出るかも」


 アシータは猛烈に嫌な予感がした。○△□が懐から御霊石を取り出したのを見て、それは確信に変わる。


「ちょっと、何する気――」

「サーベラス、アクティベート」


 ビルの屋上に3つの首を持つ黒い魔犬が出現する。今度は原寸大だ。屋上の縁からはみ出したその巨体を発見した人々の悲鳴がアシータの耳にも届く。


「乗ってください」


 サーベラスの背に飛び乗った○△□が貴咲に手を伸ばす。怯える貴咲の手を強引に掴んで引っ張り上げ、○△□は神獣を跳躍させた。

 ○△□と貴咲、そして慌ててしがみついたアシータを乗せて、サーベラスはイヴェールの空に身を躍らせる。


「ほら、下を見てください」


 眼下にはミニチュアのようになったイヴェールの街並み。貴咲が短く悲鳴をあげる。数秒の浮遊感ののち、サーベラスの肉体が重力に従って降下。眼下の光景が恐ろしいほどの速さで押し寄せてくる。

 サーベラスが地を蹴ると、都市の風景は再び遠ざかる。神獣の身体に押しつけられるようにして上昇、数秒の浮遊感に安堵するも間もなく降下。

 それが何度か繰り返され、最終的に○△□達は郊外の野原に辿り着いた。


「……死ぬかと思った……」


 サーベラスの背から降りるなり、アシータは四つん這いになって動悸が落ち着くのを待った。貴咲も地面に腰をぺたんと落として呆然としている。


「いい気分転換になりましたか?」


 貴咲に向かって○△□はニッコリと笑う。その笑顔に悪意はない。きっと彼は善意でやっているのだ。それがアシータには逆に恐ろしかった。本当にあれを貴咲が楽しんでくれるものと本気で信じ込んでいるのだ、この少年は。

 この子はバカだ、とアシータは改めて思う。普段は利口ぶっていて如才ないように見えるが、実際は紛うことなくバカで不安定でマザコンで視野狭窄、何か1つ問題が起こればそれ以外のことは頭からすっぽ抜けてしまう。それが童嶋○△□なのだ。


「貴咲さん」アシータは息も絶え絶えに話しかける。「そこのバカ、殴っていいですよ。いえ殴ってください。わたしの代わりだと思って、遠慮なくどうぞ」

「なんでですかよ」


 ○△□は顔をしかめた。何故そんな風に言われなければならないのかわからない、といった顔だ。


「あのね○△□君」何処から説明したものか。「君が善意で行動したのは、わかってる。それは認める。確かにスリルや冒険を求める人はいるし、それは別段マイノリティーじゃない。でもね、そうじゃない人間だっているのよ」


 自分とクズノハのことだけしか考えず、その為なら法さえ犯す彼が自分を取り巻く人間の心配をするようになったのはいい。けれど善意から出た行動が常に正解になるとは限らないのだ。

 命綱なしの急上昇&急下降。遊園地の絶叫マシンが好きな奴だって楽しんでいられるかどうかは微妙だ。


「同じ『幽霊のある世界』が見える人でも、あなたと貴咲さんは違う人なの」

「……知ってますよ、そんなこと」


 下唇を噛んで拗ねたように視線を逸らす○△□を見て、アシータはため息をついた。

 幽霊が見えるというのは、どういう気持ちなのだろう。自分には見えるものが他人には見えず、信じてもらえない。場合によっては嘘つきと糾弾されることもあるだろう。そこに生まれるのは優越感か、それとも孤立感か。

 自分と同じように幽霊が見える――それも美人で巨乳の少女――が突然現れたことで○△□は舞い上がってしまったのだ。自分の同胞、理解者が現れた、そんな気持ちだったのだろう。

 だが、丑峰貴咲は童嶋○△□とは別の人間だ。


「……御迷惑でしたか、丑峰さん」

「う、うう……ううん、びっくりしただけ……」


 青い顔で貴咲が答える。明らかに気を使っているだけだった。


「甘やかさないでください貴咲さん、この子にはちゃんと言ってあげないと」

「なんであなたが保護者みたいなこと言ってるんですか」

「保護者が要らなくなってから言いなさいよ!」


 これでまた、○△□はクズノハだけの世界に逃げ込んでしまうかもしれない。それでも貴咲に○△□の世界観を押しつけるわけにはいかない。それは長期的に見れば○△□にとっても悪影響なはずで――。


――あれ?


 アシータは首をかしげる。どうしてわたしは、童嶋○△□の母親よろしく彼の教育方針について考えているのだろう。


「……とにかくそもそも、街中で神獣を使うのって、降神師的にどうなの?」

「いや、もう今更だよなと思って」

「…………」


 田中が○△□にサーベラスの御霊石を預けたままにしているのは、好きに暴れさせていいという意味ではないだろうに。アシータは気が重くなるのを感じた。ここ数回の戦闘で、○△□の心の中の『引き金の重さ』はだいぶ軽くなっているらしい。


「まあまあ、アシータちゃん」

 ようやく本調子を取り戻したらしい貴咲が取りなすように口を挟む。

「嫌だったわけじゃないよ、ただ憎かっただけで。……え?」


 自分の口走った言葉に、貴咲は戸惑う。憎い? 何が? ……サーベラスというらしいこの怪物がか? そうだ、私はサーベラスに嫌悪感を抱いている。

 貴咲はサーベラスを見上げた。怪物然とした姿をしているが、目も当てられないほど醜悪というわけではない。童嶋○△□の仲間であり、自分と千華を悪漢から助けてくれた存在だ。

 だというのに、貴咲はサーベラスに対して嫌悪感を拭い去ることが出来ない。恐ろしいからではない。憎いのだ。丑峰貴咲はサーベラスを憎んでいる。でも、それは何故?

 自分を聖人というつもりはないが、少なくとも意味もなく憎しみを抱くような人間ではなかったはずだ。むしろ千華が怒りっぽい分、バランスを取るかのように貴咲は温厚な性格だったのに。

 毎晩見る夢を思い出す。怒りに駆られながら何かを求めて宇宙をさすらう夢。夢の中の自分が探していたのは、この三つ首の魔犬だったのか。


 突然、サーベラスが唸り声を上げた。貴咲は自分の敵意が気付かれたのかと一瞬狼狽したが、魔犬が睨みつけているのは森の奥だった。


「丑峰さん、気をつけて! 下がってください!」


 ○△□が貴咲をかばう位置に立つ。すぐに、何か巨大なものが近づいてくる音が響いた。

 手前の木々をへし折りながら、何か長いものが弾丸のように飛び出した。

 サーベラスは尻尾でそれを切り払う。打ち上げられたそれは、巨大なサソリの尾だった。


「サーベラスッ!」


 尾の根元と思わしき部分にサーベラスが火炎弾を放つ。燃え上がった森から黒い影が姿を現した。サソリの尾を持った巨人。


「『ギルタブルル』か!」


 森から脱出したギルタブルルにサーベラスが火炎弾で追撃をかける。ギルタブルルはそれを回避。なかなかに身のこなしが素早い相手のようだった。

 ○△□は周囲を素早く見渡す。デウステイマーの姿は何処にもない。

 街を飛び跳ねるサーベラスを見て追跡してきたのだろう。おそらく敵はあの1体だけではない。確実に仕留めるために、仲間を引き連れているはずだ。

 ○△□の想像は当たっていた。

 火炎弾の連射でギルタブルルを一方的に追い詰めるサーベラスのすぐ後ろの地面が盛り上がる。


「後ろだ、サーベラスッ!」


 大地を割って、先端から髭のように触手を生やした巨大なミミズが姿を現した。触手の中央には円形に牙が並んだ口があり、一直線にサーベラスを狙う。

 サーベラスは跳躍して回避。空中で火炎弾を発射、ギルタブルルの追撃を阻止。

 大丈夫だ、この程度の2対1でもサーベラスは負けはしない。

 しかし。

 予期しなかった方向から、黒い何かが中空のサーベラスに激突した。不意打ちをまともに受け、サーベラスは横倒しになって落下する。

 ぶつかってきたのは巨大な蝙蝠だった。ナイフのような鉤爪からは血が滴っている。

 脇腹に大きな刀傷を負ったサーベラスに、ギルタブルルの尾が襲いかかる。サーベラスは地を転がって回避。そこへ巨大ミミズが再び奇襲をかける。

 頭上からはサソリの毒針、地の底からは巨大ミミズの牙。そして横合いからは巨大蝙蝠の鉤爪。


「ギルタブルルだけじゃなく、サンドウォームにカマソッツだと……!?」


 己の軽挙妄動が招いた事態だ。○△□は歯噛みした。


――俺はただ、丑峰さんに喜んでもらいたかっただけなのに。


「悔しがってる場合じゃないよ、○△□君! 貴咲さんを連れて隠れて!」


 たとえサーベラスがこの猛攻を切り抜けられたとしても、○△□が敵に狙撃でもされれば意味がないのだ。


「わかりました! アシータさんは、敵のデウステイマーを探してください! さあ丑峰さん、逃げますよ! ……丑峰さん?」


 身を隠せる場所を探しながら、○△□はとりあえずこの場を離れようと貴咲の腕を掴む。だが、ついてきてくれると思った貴咲は石のように動かない。


「丑峰さ――ん?」


 怖がっているのか、と貴咲の様子を窺った○△□は、血走った目で神獣達を睨む貴咲の鬼気迫る表情を目の当たりにして、かける言葉を失った。

 貴咲は○△□を突き飛ばした。トラックにでもはねられたかのように○△□の身体が押し飛ばされ、地面を数メートル転がった。


「う、丑峰さん……?」


 何事かと振り返ったアシータは見た。貴咲の足元に、円で囲まれた五芒星型の光が浮かび上がるのを。

 そこから、マグマが噴き出すように炎の柱が天に昇る。

 それが消えた時、そこに貴咲はいなかった。

 代わりに、有翼有尾の炎の巨人が――アステリオーが仁王立ちしていた。


「丑峰さんがアステリオーに!?」


 アステリオーが叫ぶ。神獣達はそれまでの敵をも忘れ、新たに現れた炎の巨人と睨み合った。

 最初に動いたのはサンドウォームだった。アステリオーの足元から飛び出し、その首筋に食らいつく。しかしその牙が喉元に食い込む直前、アステリオーの手がサンドウォームの頭部を掴まえた。巨人が身にまとう炎が囚われのサンドウォームを灼いていく。

 仲間を助けようと、カマソッツは勇敢にも斬りかかった。だがアステリオーは掴んだサンドウォームを鞭のように振り回してこれを迎撃。返す刀で背後に回り込んだギルタブルルにもサンドウォームの身を振り下ろす。

 サンドウォームとギルタブルルの尾が絡み合った。力が拮抗し、一瞬アステリオーの動きが止まる。その隙を突いて、再び舞い上がったカマソッツが鉤爪を構えて襲いかかる。

 アステリオーは己の尻尾を振り上げた。2度、3度と打擲(ちょうちゃく)されカマソッツはあえなく墜落。そこにとどめの一撃とばかりに尾が振り下ろされ、巨大蝙蝠は文字通り叩き潰された。

 同時に、サンドウォームは燃え尽きた。

 ギルタブルルは尾を振り回してまとわりつく炎を振り払った。たった1体になっても彼のデウステイマーから撤退の指示はなかった。タラスクスのデウステイマーがアステリオーに惨殺された件は既に周知の事実となっている。デウステイマーが逃げおおせるまで、相打ち覚悟で時間を稼ぐべし。それがギルタブルルに与えられた、おそらく最後になる指示だった。

 太刀筋――尾筋というべきか――を見切られぬよう、尾を背に隠すギルタブルル。先端についた毒針こそがギルタブルルの切り札である。

 己の死をギルタブルルは覚悟していた。きっと自分は呆気なく打ち倒される。だがただでは死なない、せめて一矢報いてくれる。尾の中の毒液を、一滴残らず眼前の敵に注ぎ込んでやる。

 サソリの尾を持つ巨人は猛然と地を蹴った。アステリオーの尻尾が横薙ぎに振るわれる。岩のような筋肉を持つスクロプでさえへし折ったその一撃は、熱したバターにナイフを入れたようにギルタブルルの中肉中背の胴を両断した。

 ギルタブルルの上半身が落下する。

 だが、下半身はまだ生きていた。毒針のついた尾が槍のように鋭く突き出される。

 仕留めたという油断があったのだろう、アステリオーの対処は一瞬遅れた。その一瞬は命取りだった。反射的にアステリオーは防御の構えを取る。だがその対処は誤りだ。構えた腕に針が刺されば同じことなのだから。


「サーベラスッ!」


 アステリオーに届く前に毒針は爆散した。視線を動かしたアステリオーは、口に陽炎をまとわりつかせた黒い神獣の姿を見た。○△□はふう、と息をついた。


「大丈夫ですか、丑峰さん」


 返答の代わりに、アステリオーは足を振り上げた。

 顎を蹴り飛ばされたサーベラスがひっくり返る。地響きを立てて落下。


「丑峰さん!?」


 戸惑う○△□を余所に、アステリオーの放つ光弾がサーベラスに次々に命中。魔犬の肩が爆ぜた。


「戻れ、サーベラス!」


 粒子化したサーベラスが御霊石に戻りきるのも待たず、○△□はアステリオーの前に飛び出した。


「丑峰さん、もう戦いは終わった、『敵』はいなくなった! 落ち着いてくれ!」


 アステリオーは神獣全てを敵と認識している。アステリオーの立ち振る舞いに貴咲の面影がないことから、あれは貴咲自身の意志の外にある、神獣の存在を感知して自動的に排除しようとする『何か』なのではないかと○△□は直観的に判断した。であれば、神獣が目の前からいなくなれば貴咲は正気に戻る可能性がある。○△□はその考えに賭けた。少なくとも現時点、正攻法でサーベラスの勝てる相手ではない。


 アステリオーが、神獣を失ったタラスクスのデウステイマーをも攻撃対象としたことを、○△□は知らない。


「うわっ!?」

「○△□君!」


 アステリオーが片足を浮かせた。その影が○△□に被さる。踏み潰すつもりだ。


「丑峰さん!」

「――ガアッ!?」


 炎の巨人が突然頭を抑えて苦しみ出した。持ち上げられた足は○△□から離れた場所に落下し、そのまま巨人は膝をついた。次いで頭を地に打ち付けるようにうずくまる。全身を覆う炎が激しく揺らぎ、次の瞬間には巨人の姿は消え、入れ替わるようにうずくまった貴咲の姿が現れた。


「う、う――丑峰さん」

「来ないで!」


 貴咲は痛む頭を押さえながらも○△□から離れた。


「アステリオーはあなただったんですか、丑峰さん」

「……アステリオー? あれの名前? そうか、アステリオーかぁ……」


 耐えがたい頭痛が貴咲を襲っていた。ヒエムスの凍り付くような大気の中でさえ、汗がだらだらと流れ落ちる。足がもつれる。何とか転倒を免れ、駆け寄ろうとした○△□をなおも制する。


「近づかないで、童嶋君。あれが何なのかは私にもわからない。でもあれはまだ私の中にいて、あの怪物達も、それを操る人間も、みんなこの宇宙から消してやるって叫んでいる。だから、来ちゃ駄目」


 貴咲は○△□を睨んだまま、じりじりと後退して距離を取った。


「さっき止められたのは奇跡みたいなものだよ。向こうはたぶん、私の意識を完全に乗っ取ったと思っていたから、油断があったから、止められたんだと思う。たぶん次は無理。だからもうあなたは私に近づいちゃ、駄目。街で会っても――たとえ私がまた襲われそうになってたとしても、もう、話しかけてこないで」


 ○△□とアシータに背を向けて、貴咲は足を引きずるようにして去って行った。

 その後ろ姿が完全に見えなくなるまで、○△□はその場から動くことが出来なかった。




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