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追憶


11年前のあの日あたしの人生は大きく変わった。


6564/12/24 9:15


人類の大半が行き過ぎた科学技術によって淘汰され消え去った世界――

残った人類も地上に出ることは叶わず地下で毎日身を震わせながら生きてゆく世界――

国や国家などは、行く奥の時を超えすでに架空のものと認識されている。

あたしは4人家族だった、お父さんとお母さん――そして優しかった兄がいた。

生活はとても厳しく毎日、満足に眠ることさえ許されない。

それでも周りの人たちと協力しながら必死に生きていてそれなりに楽しかった。

5世帯あるかどうかの村は、超古代の文明都市の下水道と呼ばれていた場所にある。

少し離れたところには超古代の文明で言うところの地下貯水池だった場所に、

大きな街があった――けれど貧しいあたし達家族や村の人たちは街では暮らすことを許されなかった。

だけれど集めたガラクタを街に持っていてそれをお金に換えて生活用品を買うことはできた。

なので月に1回、当番制で街に出かけることがあって、この月はあたし達家族の番だった。


あたしは家の中でガラクタを入れれる丁度良い大きさの袋を探す事を頼まれていた。

久しぶりに街に行けることという事実にあたしは胸を膨らませていて、

袋は少しオシャレなのを探していつもより少しだけ時間がかかった。

そして少々の妥協はしたけど気に入ったものを見つけることができた。

緑色の袋で、少しぼろついているけれど家にある中では一番きれいな物だ。

それを持ってあたしは家を出た。


「遅いぞぉノア」

「えへへぇっ」


兄が笑いながら近づいてきたあたしの頭を撫でそう言った。

するとお母さんが兄とあたしの方を向き


「街に行くからオシャレな袋を選んでたのよねぇ~」


と笑いかける。


あたしはそれに満面の笑みと頷きで答えた。


「ねぇねぇ、お父さんは? 」


あたしはそこにいない父の姿を二人に尋ねた。


「もうすぐボートに乗って帰ってくるって」


するとすぐさま兄がそう答えてくれた。

ボートとというのは水の上に浮かぶ物ではなく。

この上下に入り組んだ地下世界を移動するのに使われる移動の乗り物の総称で、

家の村は何十年もの間、いつの物かも分からないボートをあたしの生まれる前から

メンテナンスを繰り返し使ってきた。


「やったぁ‼ でも私またあれ乗るのいやぁ」


乗るのなら出来ればあんあオンボロではなく、新しくてピカピカ光る綺麗な流線型を描いたものに乗りたい。

この時のあたしはそう思っていた。

だからいっつも乗る前のはこうやって駄々をこねた。


「でもノア、家の村にはあれしかないんだよ」


「いや、新品のピカピカのがいいのっ」


「そっかぁ――じゃあ兄ちゃんが大人になったら街に出て偉くなって、それでノアに新品のボートを買ってやるよ」


「ほんとにっ‼?」


「もちろん。だって俺、頭いいかんね。街に行けりゃあ絶対偉くなれるしさ」


あたしの駄々に、兄がいつもの様に、これまた無茶苦茶な事を言って、あたしをなだめる。

街で生まれなかった時点で、未来はほぼ決まったようなものなのだが。

兄もこの時のあたしもまだ小さくそんな無茶だって頑張れば叶うと信じて疑わなかった。

これを聞いていたお父さんとお母さんはどんな気持ちになったのだろうか―――


「ほらほら二人とも、今はそんな事より袋にいっぱい宝石を入れましょうねぇ~」


お母さんがあたしと兄の話に割って入りそそのかす。

宝石とお母さんが呼んでいるのはガラクタの事だ――でもお金に変わるから強ちその表現は的を得てるなと思う。


暫くして外壁がサビに錆びついた鉄の塊が、下の方に着いた出っ張りから大量の排気ガス、重低音を響かせて、

周囲の砂埃を巻き上げながらあたし達のすぐ近くに降りてきた。

例のボートである。

それは余りにオンボロで何故空中に受けるのか不思議なほどであった。

鉄の塊の一か所が耳障りな金属音と風化した表面を落としながら開いた。

中から細身……いや若干、栄養出張で痩せこけた男性が出てきた。


「よぉおいは出来たかぁ~? 」


若干、喋り方に癖がある、あたしのお父さんだ。

何時も働きに出ていて家に帰ってくることは滅多にない。

それでも帰ってきたときは、疲れているであろうに、あたしや兄と寝るその時まで遊んでくれた。

そんなお父さんの事をあたしは大好きだった。


「できたー」


3週間ぶりに会う父にあたしは、袋から手を離し両手を上げて父のもとに走っていった。


「おーい、ノアァー荷物―」


「お兄ちゃんもってきてぇ~」


「――はぁ……わかったよ」


すでに10kgの袋を抱えている兄が、怠そうにあたしの置いて行った袋を持ち上げ運ぶ。

そんな兄を尻目に、あたしはお父さんの胸元に飛び込んだ。


「おぉ、まーた少し大きくなったかぁノアァ」

「うん――」


ゴツゴツしていてそれでもって骨みたいな腕――

だけれどとても頼りがいがあって、あたしにとっては自慢のお父さんの腕。

あたしを受け止めたそれは、温かくあたしを包み込んだ。


「お帰りなさい――あなた」


後ろから兄と一緒に袋を持ってきたお母さんが、お父さんに話しかける。


「ああ――ただいまぁ。まぁさか今日まで帰れないなんて、思ってなかったよぉ」


お父さんの口元が緩み笑みがこぼれた。


「この子たちが凄く寂しがってたわよ」


「ははっ、そぉれは大変な事をしちゃったなぁ。寂しかったかお前ら?」


「うん。私ね、お父さんがいなくて寂しかった」

「ちょっとだけなっ」


少し大人っぽい事をすることにはまって兄は少し意地を張っていた。

だけれど顔は何時にもましてにやけていたからバレバレだった。


「じゃあ今日は帰ってきたら~、たぁっぷり遊ばないとなぁ」


「「やったぁ」」


ハモル兄とあたし。

そんなあたしたちを見て、父は心底満足そうに鼻を鳴らしていた。


「んーじゃ、街に行こうかぁ」


お父さんのその一声を合図にして、あたしと兄とお母さんは荷物をまとめボートに乗り込んだ。

最後に入ってきたお父さんが扉を最後に閉めた。


あたしは船内をぐるりと見渡す。

なんてったって1年に一回乗れるかどうかの物で珍しくてたまらないからだ。

三畳あるかどうかの空間に大人が一人立って余裕があるくらいの天井、

天井は内壁が所々はがれていて外壁の錆びついた内面が露呈していた。

壁も同様に錆びついた外壁が露呈していてさらには錆びついた配管がごちゃごちゃとくっ付いている。

5つあるシートは、どれもこれもシミだらけで汚く、座るとミシャリと小さく音を立てた。

それでも家の椅子よりは綺麗で、座り心地はよかった。


「えぇ~それでは皆様、これより家から街まで少々の船旅が始まります。

 わたくし父は精一杯の努力を持って皆様を送り届けますので、どうぞよろしくお願いいたします」


父が街の有料ボートの運転手さんの真似をする。

こう言うと、兄が喜ぶのだ。

案の定この時も、席に着いた兄が手を顎に当て満足そうに頷いていた。


次の瞬間――耳障りな轟音、体の中がスッとなる様な浮遊感が現れる。


「やっぱりすげぇ‼ 」


兄が壁に小さく開けられた小窓に顔面を押し付け叫ぶ。

持ちあがる船体は細かく振動し、クッション性の低いシートは、ほとんどそのままの振動を体に伝える。


「ねぇお母さん、これ落ちない? 」


「大丈夫よノア。なんたってお父さんが操縦してるんだからっ」


お父さんの方を見ながらお母さんが力強くそう言った。

あたしもそれを聞いて安心して母に違う話を振った。

ここまでの流れが、毎回ボートが浮き上がった時のお決まりだったりした。



         ×         ×         ×


そしてその数十分後―――


突然座席後方から奇妙な破裂音――船体が左右に大きく揺れた。

突然の出来事にその場にいた全員が一瞬止まった。


次の瞬間、けたたましい警報音が天井から降り注ぎ、すぐさま全員をその場に引き戻した。


「大丈夫か⁈ 」


お父さんが叫ぶ。


「何があったのっ――⁈」


お母さんが叫ぶ。


「何かに攻撃されたのかもしれん」


攻撃――この世界で武器を所持しているものは少ない。

武器を持っているのはこの世界では限られている。



軍人と――


機械達――



街の高等市民の暮らす区域を囲む壁の上には武装した軍人がたくさんいる。

しかし今とんでいるのは、下等市民の暮らしているゲットーの上。

街の中心部からは、まだ何十kmも離れている。

こんなところにふつう武装をした軍人はいない。

だからと言って下等市民は武器を所持できるほど恵まれてはいない。

ゲットーのギャングたちは確かに武器を所持している者もいる。

だけれどこんな重装甲版の塊のようなボートを落とすようなものを所持しているものはいない。


そうなると残った選択肢は、人類を駆逐するために街を襲いにくる機械たちだった。

彼らは残った人類を残らず駆逐するために、この地下世界に大量の攻撃用機兵を徘徊させている。

街などは基本的に彼らに悟られないように作られており、基本的に街付近に機械たちはいない。

現にこの時も機兵は見ていない。

だけれどこの状況下でボートを攻撃してくるのは彼ら以外に考えられなかったと思う。


あの時は誰に攻撃されたのか―――

そんな事を考えている余裕がある者はいなかった。


「誰に⁈ 」


「知らん、とりあえず今は何処が壊れたかを確認するんだっ! 」


「え、ええっ」


シートベルトを外しお母さんは後ろにある機関室に入っていった。


「おい、お前らは大丈夫か! 」


「父さん――これ落ちないよなっ? 」


「落ちないように努力するつもりだぁ! ノアっ大丈夫かぁ⁈ 」


「こわいよぉ――しにたくない、いやだぁこわいこわいこわい――――――」


「落ちないっ! 落ちないからなっ!」


お父さんはあたしを必死にあたしを宥めてくれていたけれど、船体はさらに大きく振動し、

喋るのもままならないほど揺れ始めていた。


「機関室に穴が―――っ」


服が少し焦げ付き、髪が乱れたお母さんが戻ってきた。


「くそ――っ」


お父さんが悪態をついたのが聞こえた。


「父さん俺死にたくないっ」

「かえりたいよぉ」


「大丈夫、きっと神様が何とかしてくれるからね」


困った時の神頼み、母があたしと兄を抱き寄せる。

抱き寄せたその手は温かくて――それでもって震えていた。

母も怖かったのだ。

でもその時のあたしはそんな事を気にする余裕はなくって、その震えで更に泣き叫んだ。


船体は先刻より揺れが激しくなり、外からは頑丈な外装が剥がれ落ちる音が聞こえていた。

それなりの高さを飛んでいたボートは徐々にその高度を落としている。


船体が徐々に崩れ落ちてゆく音―――

誰の声かもわからないほどに入り混じる阿鼻叫喚あびきょうかん――

何かが焼ける臭い――


落ちるその時まであたしは目をつぶり母の腕の中で、

唯―――落ちていきそして死ぬ時を待った。


本当はもっともっと長く続けていくつもりで書いていたものなのですが。

人様の挿絵とか書いてたら。書く時間が無くなって……

いや本当に自分の管理力不足で大爆死って感じですw

ひえ~……

次に書くものは決まっておりませんがもしも次に書く機会があるのなら無理のない範囲で書けるものをと考えております。

ここまで読んでくださった皆様本当にありがとうございました。

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