その2
「そろそろ飯食うかなあ」
「アルト、ご飯作れるの?」
「おう」
一人暮らしが続く俺にとって料理をすることは朝飯前なのである。
ちなみに凝ったものとかは作れない。
あくまでも「男の料理」である。
「アルト凄い」
「まあ普通だよ普通」
「でも凄いよ」
「そこまで褒められるとちょっと照れるなぁ。
まああんまり期待はしないでくれよ」
俺は台所へと向か……
ああ、コンロ。
あなたはどうして真っ黒焦げなの?
しくじった……コンロの上の異物除去はしたけどしっかとは掃除をしてなかったんだ。
「ごめんノア、ちょっと時間かかりそうだ。
今のうちにシャワーでも浴びてきてもいいぞ」
「わかった」
席についていたノアが立ち上がり部屋を出た。
「――さてどうしようk」
「アルト、シャワーはどこにあるの?」
ノアが扉からひょっこりと顔を突き出し効いてくる。
「あぁ、えっと―――」
ごめん、言い忘れてたな。
すぐさま風呂場の場所を教える。
「わかったー」
そして再度ノアが風呂場に向かった。
そういえば「シャワーって何? 」
とか聞かれるのを覚悟していたが、そこはあっさり通じたなぁ……
まあいくら現代に慣れてないって言っても、風呂の使い方くらい分かるか。
「きゃあああああああ――――」
絶叫――――
澄んだ声の絶叫は耳障りどころかまるで高級な楽器から出る音色のような風にさえ感じ……
「―――って、ノアァ⁈ 」
急いで風呂場前まで走り込む。
どうやらすでに彼女は浴室にいるようだ。
「ノアっ! どうした!」
「アルトっ! お湯が冷たい!! 壊れてる!」
「……」
お湯は冷たくありません。
それは水ですノアさん。
というか壊れてるってなにが壊れてるんだ?
「――お湯でるボタン押したか?」
「……何それ?」
「……」
何処から突っ込もうか。
「ノアってお風呂入ったことあるんだよな?」
「うん」
「お前どこでいっつも入ってたんだ?」
「ドラム缶」
「ウソだろっ⁈ 」
「あ、あとホテルのお部屋の奴もあるよ」
「ホテルの部屋の奴と一緒だ。家のもお湯に変えないといけないんだよ」
「え、そうなの?」
「お前今まで、どうやって入ってたんだ」
「兄さんが入れてくれた」
「あぁ」
何て言うかホント常識を逸脱してるよなノアって。
「じゃあつけ方が分からないってことでいいのか?」
「多分……」
「じゃあ、壁際向いててくれお湯着けてやる」
「わかった」
………
「いいか?」
「いいよ」
「入るぞっ」
出来る限りノアから視界をずらし浴室に突入する。
――だがこの浴室はっきり言って広くない。
否が応でもノアが視界に入った。
そして余りに普通じゃないその様子に思わず凝視してしまった。
「な―――なんで水着着てるんだ?」
ノアは水着を着ていた。
「お風呂入るときは水着着なさいって、兄さんたちが」
「……」
なんというか返答に困った。
「普通風呂で水着は着ないぞ?」
「そうなの?」
「ああ」
「でも兄さんたちが」
「一人ではいるときに…‥水着はいらない」
「そうなんだ」
彼女が大真面目に納得して俺を見つめる。
当たり前……だよね?
しかしそれを言ったのが間違いだった。
「じゃあ」
ノアがおもむろに水着を脱ごうとする。
「待てぇ!!」
「 ? 」
一瞬動きを止めたノアが再度脱ごうとする。
「だから脱ぐんじゃない! 」
「でもアルト、水着は着ないって」
「せめて俺が出てってからにしてくれ」
「そっ……そっか」
内容を理解したのかノアの顔がほんのり赤くなる。
「あああ、そうだお湯だな、お湯をださないとな」
本来の目的を思い出しすぐさま給湯器のボタンを押す。
「よし、これでしばらくしたらお湯でるからな」
「うん……」
ノアの顔が先程よりもさらに赤くなっていた。
「じゃ、あとでな」
すぐさま浴室を出て扉を閉める。
「はあぁ……」
なんていうかこれ以上疲れるとは思っていなかったが普通に疲れた。
というかノアが想像以上にピュアだった。
出会ったときすごい疑り深かったから大丈夫かと思っていたが。
どうやら本来は物凄いまっすぐな子のようだ。
この先、対応に気を着けねぇとなぁ――
× × ×
「出たよ――」
30分後ノアが風呂から戻ってきた。
料理も丁度終わりタイミングはバッチリである。
「タイミングばっちりだ。飯出来たぞ」
今日はノアに初めて振る舞う料理だったのもあり、いつもより気合を3割増しで頑張った。
ちなみに作ったのはハンバーグとシーザーサラダ、それとコーンスープである。
普段はここまで凝った物は作らないが気合3割増しは伊達じゃない。
その気合はシッカリとノアに伝たわったようであり、ノアが目を輝かせている。
「すごいっ!! 何これっ! おいしそうだよっ」
凄い喜んでいる…‥
「ハンバーグだ」
「凄いねハンバーグ」
「いや、そっちはコーンスープだ」
きっと洋食を食べたことが無かったんだろうなぁ。
そういう事にしておくことに決めた。
「えっとそのスープはコーンスープで、そっちのお肉の塊がハンバーグだ。
でそこの野菜がいっぱいなのはシーザーサラダだ」
「へ…へぇ」
若干ノアの顔が引きつっている。
「まあ名前はそのうち覚えるだろうし、食べるか」
「そうだね」
気を取り直して席に着く。
しかしこうやって家で人と一緒に夕食食べるのは久々だな。
いつ以来だろう……
「アルト」
「――んっ、どした?」
「食べよっ」
「ああそうだな」
「じゃあいただきます」
「いただきます」
久しぶりに食卓がにぎやかになった。
ただ質問攻めにあったのは言うまでもない。
次の話はまったくもって繋がりがありません。 そしてこの次で最終となります。