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その1

違う作品い手続きとして投稿していたものですが。

連載を停止するにあたって消してしまった話の再投稿です。

ゆっくりと俺のまぶたが見開かれた。

白く眩しい天井がまず始めに現れた――俺の部屋の天井だ。

後方の窓からは夏の鋭い朝日が差し込み、

この部屋のモノ全てを明るく照らしている。

意識が覚醒してゆく中、徐々に俺の体は視覚以外の五感も脳に伝え始めた。

先ず(まず)夏の炎暑が体の芯から蒸し返すような息苦しさを感じ始め、

次にベッドのシーツが俺の寝汗で体にまとわりつき気持ち悪い感覚が戻ってくる。

その中に弾丸で撃ちぬかれたはずの腕の痛みがない―――


あの出来事は夢――――だったのだろうか?

だとするなら夏の蒸し暑さで変な夢を見てしまったの―――


ドサッ―――


寝返りを打とうとした足元で何か有機的なものに当たり、

その何かが床に倒れるような音がする。

まだ覚醒しきらない体をムクリと、気怠く起き上がらせ何が倒れたのかを確認した……


すると女の子が床に倒れている―――

太陽の光を淡く反射した銀色の髪の少女―――

その顔はとても整っていて、とても可愛らしい……

だけれど少し悲しさの混じる複雑な表情をして眠っていた。


その少女に俺は見覚えがあった―――ノアだ。


彼女とは些細な落し物をを拾ったことから出会いが始まった。

であった当初は唯の変質者かと思っていたのだが……そうではなかった。

彼女はここ最近、人気が急上昇しているアイドルの|ARIA≪アリア≫だったのだ。

そしてそんな彼女は、この世界で違法的な活動を行う武装集団の一員である事も知った。

そして出会った初日、彼女の仲間達の大半が街の警備隊に掴まってしまった。

逃げ切った一人が彼女を迎えに来て、その時、俺も一緒に連れて行かれることになった。


そして逃げ延びた彼女の仲間達は、処刑される仲間を助けるために奮闘し―――そして彼女を残し全てが死んでいった。


彼女が今、目の前で倒れて眠っているということは、

間違いなく昨日までの出来事が真実であったことを物語っている。

だとするとなぜ撃ち抜かれたはずの腕に痛みがないのだろうか……

俺は腕を確認してみることにした。


すると腕には包帯が巻かれていた。


包帯は少し血が滲んでいた……やはり撃たれたことに間違いはないようだ。

再度部屋を見渡す。

よく確認してみると窓に面した壁際の黒いカジュアルデスクの上には不釣合いな銀色の皿、

メスやピンセット等といった物が所狭しと並んでいた。

他にもノアの足元にも様々な色で内容別に分けられた薬品ボトルや、包帯が置かれていた。


どうやらノアが手当をしてくれたようだ。

腕を再度確認すると包帯の巻き方はとても丁寧に整っていた。

それを見て彼女のその繊細な作業の一つ一つが伝わってきたような気がする。


正直俺は、彼女に余りいい印象を持っていなかった。

だけれど俺の中の彼女に対する印象は“今”「ちょっと凄い」に変わった。


――と、突然頭がふらついた。


「……水分不足か? 」


そういえば昨日の朝から何も口にしていなかった事を思い出した。


「なにか……食べるか」


ベッドから降り立ち上がる。


そしてシーツを適当に包めて引きはがしクローゼットの中から適当なタオルケットを取り出し、それをベッドの上に被せる。

次にノアを持ち上げ―――持ち上げ……



「いい匂いがする――」



「何言ってるんだ」と誰かが聞いていたら言われていただろう。

だが昨日の――あの血生臭い場所から戻ってこれば嫌でも反応してしまう。

女の子特有の甘い匂いが俺の鼻孔を一杯に埋め尽くした。


「――いけねぇ、いけねぇ」


思春期特有のごく生理的に起こる破廉恥≪はれんち≫な思考に至る前に、

俺はすぐさまノアをベッドに寝かせ離れる。

そして改めて俺は廊下につながるドアに向き直り、そして部屋を出た。


極々平均的な4LDKの一軒屋より俺の家は小さい4LDKの家の廊下はそこまで広くも長くもなく、

明り取りから僅かな光がこの空間を照らしているものの全体的に暗かった。

白い壁紙を張った壁には所々、汚れで黒ずんでいて少し年季を感じさせる。

そんな廊下の先にある家の関係上、途中で一旦カーブを描く階段を、俺は降りて行った。


「な……なんだこれ」


廊下に置いてあった小棚の上の花瓶が床で粉々になって中の水をまき散らし、無残な事になっている。

その上に申し訳程度の雑巾が被せてある。

俺の寝ている間に何があったんだこの家……

既にふらつき平衡感覚がおかしくなっている頭が更におかしくなってきた。

とりあえず何かを食べて落ち着かないと……

水と狂気と雑巾が入り混じる空間―――もとい階段下の廊下の階段下り方向、右側にあるリビングの扉を開け中に入る―――


中を確認した俺は急反転し廊下に戻り扉をピシャリと閉めた。


「何が……何が起きたんだあぁぁぁぁぁぁあ‼ 」


叫んだ――

喉は砂漠のように乾き果て声なんて出ないと思っていたが、存外人間の生命力には驚かされる。


ちなみにリビングは廊下以上に物が散乱し坩堝と化していた。

木製の4人掛けダイニングテーブルの上は置いてあった箸置きが倒れ中身が入れ物から飛び出していて、

更には同じく机の上に置いてあった醤油が倒れ中身をテーブルクロスにぶちまけている。

他にも食器棚やキッチンの収納など開けられる所はすべて開け放たれ中身が散乱していた。

極めつけはコンロの上で焼け焦げ異臭を放つ異物―――


泥棒か何か入ったんですか?


「どう……したの?」


俺の斜め後ろ階段方向から凛と鈴を鳴らしたような声が聞こえてきた。

振り返ると何とも言えない顔をしたノアが階段から降りてきていた。

挿絵(By みてみん)

表情的にまだ警戒心が残っている様だった。

俺は声を少し低くし落ち着いて話しかける。


「ノアか、いや何て言うか家がすごい荒れててさ……」

「……………」


沈黙。

彼女の表情が今度は俺から目をそらし何かを迷っているような表情へと変わる。


「ノア? 」

「ごめんなさい。私がやったの」


後ろめたそうに顔をそらしながらノアが言った。


「そうか」

「ア、アルトを怪我させちゃったから直そうと思って、

 でも手持ちの者じゃ足りなかったから借りようと思って物を探してたら……」


後半ノアの声が徐々に小さくなっていた。しっかりと反省はしているようだ。

でも俺を治そうと思っていたと言われた時点ですでに責める気は起きなかった。


それでもこの荒れ方は酷いと思うけどな―――


「そっか俺を治すためか……ありがとうノア」

「――う、うん」


ぎこちなくノアが笑った。


しかしまあ聞きたいことは山ほどあるので一つ聞いてみよう。


「ちなみに“コンロ”でお前は何をやらかしたんだ? 」


一体何を燃やすとああなるのか、というか治療に燃やさないといけないものあったけかな……

だがノアから帰ってきた言葉はコンロの上のショッキングな光景よりももショックを受けた。


「コンロって何? 」

「えっ――?」


ノアの頭に『?』マークが浮かんでいる。

何か言い方がおかしかっただろうか。

あれかな発音がネイティブじゃないとか?

ちなみにコンロの発音にネイティブも糞もないが、伝わらなかったのはそこな気がする。


「えっと、コォンロだよ」

「?????」


心なしか更にノアの頭上に『?』マークが増えた気がする。

一体何が……何がダメなんだ?


「なんていうか――ほら火が出てくるところだ」

「 ! 」


ノアの頭が『?』から『!』に変わった。


「あれってコンロって言うんだね」

「―――えっ」


今度は俺が不意打ちを食らう形となり俺の頭上に『?』が浮かぶ。


「ノア―――もしかしてコンロって名前知らなかったのか?」

「……うん」


何と無く……何と無く初日の出来事とかで分かっていたつもりだったが―――

彼女の文明への無知加減は俺の予想をはるかに超えていた。


「じゃ……じゃあこれは何て言うか分かるか?」


リビングに置いてあるデスクトップ型のパソコンを指差す。


「……ん~」


パソコンを下から上までじっくりと舐め回すように観察しノアは考えている。

その小さい子供のような様子は可愛い反面、不安を俺に募らせてくる。


「―――!わかった‼ テレビだっ」


ノアがドヤ顔で言い放つ。


おしいっ――


確かに画面が付いていてそれはテレビのように画面にいろいろなものを映し出す。

ついでに言えばテレビも映るといえば映ってしまうのでやはりテレビでもあるわけだ。

そう言う訳で正確には不正解ではあるのだが、ある意味では正しいのでなんとなく返答に困る。


「いや、まあ……テレビも見れるんだけどこれはパーソナルコンピュータっていう奴なんだよ」

「パーソナウコンキュータ?」

「えっとパソコンでいいや」

「パソコン……」

「ここのボタンを押すと電源が付くんだよ」


大きな起動音と供に画面に企業ロゴが映し出される。

俺にとっては見慣れた光景だったが……


「……」


ノアは若干画面から顔だけ距離を離しながらも真剣に見つめていた。

ただ少し形がゆがんだ色違いの四角形もどきが4つ浮き出るだけの画面だというのに

彼女は映画のクライマックスを見守る者のように険しい顔をしている。


だが別にこれはあくまで企業ロゴ、すぐにホーム画面が表示される。


「……画面が動かなくなった」


何て言うかすごく残念そうな顔をされて俺が落ち込みそうになる。


「いやこういう画面なんだよ」


マウスを動かし適当なアイコンをクリックする。

そしてインターネットが表示された。


「これ何?」

「ここにキーボードってやつで文字を入力すると自分が知りたいことを教えてくれるんだよ」

「へー」

「ここに文字があるだろ?ボタンを押せばその文字が入力されるから一回何か押してみな」


そうノアに言うとノアがぎこちなくキーボードのキーを押し始めた。

変なところを触って慌ている様子は、初心者にありがちなことだよなと後ろから見ていて微笑ましく思った。


「できた」

「じゃあそこのエンターキーを押せば『検索』って言って調べたいことの答えを教えてくれるものが出てくるから押してみな」

「うん」


とノアがエンターキーを押した瞬間だった。

突如画面が青くなった―――ブルースクリーンである。

ちなみにこのパソコンちょっと前にバイト代を貯めて買ったものなのだが不良品だったのだろうか?


「……アルト何て書いてあるか読めないよ?」

「あ、あ……ああえっとそれはブルースクリーンって言ってパソコン壊れたって事だよ」

「―――ごめんなさい」

「いやっ! ノアが謝ることじゃない偶々だよ偶々」


そういって一度再起動してみる。

起動自体はできた。

むしろ起動できないとか言ったら俺の数十万の怒りはどこに向ければいいのやら。

こういう時はポジティブシンキング。

ノアに今までの|お浚い≪おさらい≫をさせよう。


「じゃあノア、ついでだからインターネット開けてみる|お浚い≪おさらい≫だ」

「うん」


とノアがアイコンをクリックすると―――またしてもブルースクリーン。

画面が白と青のコントラストで彩られている。

糞がっ――


「アルト……」


ノアが申し訳なさそうな何とも言えない顔で俺を見上げてきた。

正直なところ俺だってノアがいなければそんな顔をしてやりたい。


「こ、壊れちゃったのかな~? いやーまいったな、よしパソコンは終わりだ」

「う……うん」


まだ買って一ヶ月も経ってないのになぜか壊れたパソコンは、後でクレーム付きで修理に出してやることに心に決めた。


それからほぼ一日を掛けて家にあるものを一通り説明した。

その殆どを彼女は知ら無かったのだが、何て言うか後半は「反応したら負け」みたいになってしまった。


「疲れたぁあ」


ノアへの説明で俺は疲弊し、今はその体をリビングのソファで休めていた。

対照的にノアは好奇心で満ち溢れていて、今は家の中を自由に散策している。


それにしてもコンロの上の謎の異物は、物を置いてたら急に火が出ていて、

どうしようもなく燃え尽きたとのことだったらしい。

恐ろしや無知の子―――


今日で無知の恐ろしさを十分堪能してしまった。

無知な可愛い子って男はよく憧れるたりするものだが―――

現実に居たらダメだなって心の底から感じた。


例えば“Aが前提のB”について話したいとき彼女に“A”とは何かを説明しなければならない。

さらに言えばそれが常識的なものだとしても一々説明しなければならない。

それがずっと続くのだ。

そう考えると自分が言ってしまった言葉の重さを別の意味で改めて重く感じてしまう。

それでも彼女を“一人にしない”と言ったことに後悔はない。

それはこれからも変わることは無いと思う。

それとさっきから鈍く重い音とともに家が若干揺れている。

一体何をしてるんだよっ……


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