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悪役令嬢はぼっちになりたい。  作者: いのり。
第2章 高校1年生 夏休み

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第29話 肝試し。

「い、いずみん。ちょっと待って。速い。速いよー」

「はぁ……」


 薄暗い森の中を、獣道のような舗装されていない道にそって進む。

 私は少し速度を落としていつねさんに並んだ。

 いつねさんは落ち着きなく周りを見回しながら、おどおどという擬態語が聞こえてくるような様子だ。


「お、お姉さま。手を、手を繋ぎましょう」

「子どもじゃないんですから」


 仁乃さんもまるで生まれたての小型犬のようにふるふる震えながら後ろをついてくる。


「ゆっくりでいいぞ。はぐれると面倒だ」


 最後尾は誠である。

 こちらはまるで怖がっている様子はなく、淡々とした表情を浮かべている。


 はぁ……。


 私は今日5回目のため息をつきつつ、何でこんなことをしているのかを思い出していた。



◆◇◆◇◆



「この別荘から少し離れたところに、古い神社があるんだ」


 きっかけは、勉強中に冬馬が言った一言である。


「あー。あのボロい神社、まだあったんか」


 私同様、この別荘に何度かお邪魔したことのあるナキは知っているようだ。


「その神社がどうしましたの?」


 数学の問題とにらめっこしながら、仁乃さんが何となく聞き返す。


「肝試ししようぜ」


 がたっ、という音が聞こえた。

 主に女性陣のところから。


「えー……」

「私は反対ですわ」

「そうだよね!」

「私は別に怖いとかじゃないからね! みのりんが可哀想だから――」

「佳代ちゃんはみのりんよりも怖が――もが」

「わ、私も出来れば遠慮したいです」

「俺はいいぜ」

「警護的には反対だが……」


 反対が優勢のようだ。


「SPの連中にはもう話を通してある。完全にばらばらになられると困るけど、3チームくらいなら大丈夫だとさ」

「でも、負担を増やすのはどうかと思いますわ」

「そうだねー」

 

 いたずらに彼らの仕事を増やすことはない。

 私も反対だ。


「いや、それがな。今夜、SPの第1陣と第2陣が交代するんだが、後は帰るだけの第1陣の奴らが、むしろ乗り気でな」

「SPさんたちが脅かしてくるってことー?」


 何でだ。


「それならかまへんか」

「やろうぜ!」

「ちょっと外の連中に聞いてくる」


 ナキと嬉一は賛成らしい。

 誠は中座して部屋を出て行った。


「やめようよー」

「そうですわ」


 いつねさんと仁乃さんは相変わらず反対の様子である。


「なんや。この歳にもなって、お化けが怖いんか?」


 ナキの挑発。


「ち、違いますわ!」

「そんな訳ないでしょ!」


 仁乃さんと佳代さんが釣れた。

 効果はばつぐんだ。


「にののんが行くならあたしも行こうかなー」

「佳代ちゃんがいくなら……」

「私たちもだね」

「い、居残りは嫌です!」


 そしていつねさん、実梨さん、幸さん、遥さんも釣れる。

 友釣りである。


「後はお前だけだが、和泉はどうする?」

「留守番してます」

「「「えー!」」」


 空気を読まずに居残りを表明したのだが、一斉に不満を浴びてしまった。


「この歳にもなってと言いますが、むしろこの歳にもなって肝試しの方が子どもっぽいでしょう」

「要約すると、私は怖いですってことやな」

「お嬢、かわいいぞー」


 人の話を聞け。


「警護の問題で、残られると困るんだ」

「……仕方ありませんね」


 肝試しを中止すればいいのにとも思ったが、SPたちの好意(?)を無下にすることもない、と私は首を縦に振った。

 戻ってきた誠も参加することになり、結局肝試しの開催が決まったのだった。



◆◇◆◇◆



 私たちはくじで3班に分かれた。


 1班は冬馬、実梨さん、佳代さん、幸さん。

 2班はナキ、嬉一、遥さん。

 3班は誠、仁乃さん、いつねさん、私。


 念のためそれぞれ男子が1人以上入るようになっている。


 神社までの道を記した地図と懐中電灯を渡された。

 地図なしでも道なりに行けば大丈夫だと言われたが念のためだ。

 SPが回りにいるので、万が一迷っても安心である。

 こんな安全な肝試しがあっていいのだろうか。

 

 1班から10分ごとに間を開けて出発する。

 1班出発の数分後、森のなかから悲鳴が聞こえてきた。

 どうもSP帰宅組はノリノリらしい。

 あるいは、佳代さんが怖がりすぎるのか。


 2班からはそれほど悲鳴は聞こえなかった。

 遥さんはどうなったのだろう。


 で、私たちはといえば、冒頭に書いた通りである。


「だいたい、お化けなんている訳ないじゃないですか。正体はSPの人たちだって分かっているんですよ?」

「怖いものは怖いのー」

「そうですわ」

「俺は全く怖くない」


 まぁ、SPの人たちも気合入れて脅かしてきてるからなぁ。

 最初の人なんて、顔に何かケロイド状のものを塗って、かなり怖い感じのお岩さんを演出してきた。

 他にも音を立てる茂みやぼんやり光るオブジェなど、あの手この手で攻めてきている。

 

 何でそんなに真剣なんだ。


「……あそこ、また何かあるよ……」

「またですの……」


 夜の闇を煌々と照らす灯りが見えた。

 その周りだけ昼のように明るい。


 行くしか無いので近づいていく。

 特に何も起きない……と、思っていたら、通過する瞬間に灯りが消えた。


「~~~っ!」

「お姉さま! お姉さま!」

「2人とも落ち着いて下さい。ただ灯りが消えただけです」

「暗順応を利用した暗闇の目潰しだな」


 暗順応とは可視光量の多い環境から少ない環境へ急激に変化した場合に、時間経過とともに徐々に視力が確保される動物の自律機能のことである。

 今回の場合、強い灯りに目が慣らされた所で急に灯りを落とされたため、すぐには暗闇に適応できず、星や月の明かりすらないような真っ暗闇に囚われたように錯覚したのだ。


「すぐに目が慣れますから」

「もうやだー」

「お姉さまー」

「慣れるまでは歩き出すな。危ない」


 いつねさんと仁乃さんをなだめていると、今度はぼんやりとした明かりがついた。


「いやぁー!」

「きゃぁー!」

「2段構えか」

「ふ、2人とも……苦しいです」


 腰を抜かした2人に抱きつかれて苦しい。


 明かりの照らす先には頭蓋骨が置いてあった。

 こんなのどうやって用意したのやら。


 2人が立ち直るまで数分を要した。

 それからもSPたちの真剣な悪ふざけは続き、その度にいつねさんと仁乃さんがいいリアクションをくれた。

 SPたちも満足だろう。



◆◇◆◇◆



 だいぶ時間がかかったが、無事に神社に辿り着いた。


「今夜はお手洗いいけないよー」

「私もですわ」

「私も」


 いつねさん、仁乃さん、佳代さんが重症だ。


「ところどころ、怖かったね」

「は、はい。SPさんたちの本気を見ました」

「気合入ってたよね」


 実梨さん、遥さん、幸さんもそこそこ怖かったようだ。


「まだまだだな」

「ま、こんなもんやろ」

「俺は逆に笑えた」

「いつねと仁乃の悲鳴の方が怖い」


 男性陣は平気だったらしい。

 さすがだ。


「和泉、どうだった」

「別にどうとも」


 というか、転生なんていう不思議体験をしている私が、この程度のことで怖がるはずもない。


「いつねちゃんはどこら辺が一番怖かったん?」

「ドクロかなぁ」

「私もですわ」


 あぁ、あれはたしかにちょっとドキッとした。


「ドクロ?」

「んなもんあったか?」


 冬馬と嬉一が首をかしげた。


「灯りのトラップの所に置いてあっただろう?」


 誠が説明する。


「いや、何にもなかったぞ?」

「えっ?」

「えっ?」


 ……ということは、私たちが見たのは?


 あ、やばい。

 背筋がぞくっとした。


「あーん。もうやだー」

「お姉さまー」

「洒落にならない……」


 いつねさん、仁乃さん、佳代さんは完全にノックアウトされたようだ。


 こうして1つの謎を残しつつ、肝試しは幕を閉じた。


 念には念を入れて、一応、みんな玄関で塩をまいた。

 

 怖くなんてなかったよ?

 ……ないってば。

 お読み下さってありがとうございます。

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