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空とくも
いつからか空に出来た、いくつもの巨大な穴。今ではそこを繕うように、蜘蛛の糸が張り巡らされていた。街のどこにいても、ふと見上げればどこかに、蜘蛛の巣が見えた。
同時にこんな都市伝説が存在した。希に、天から蜘蛛の糸が垂れている。それに掴まることが出来れば、天国にいける……と。
まるで、芥川の世界だ。半信半疑の少年は、その真偽を確かめるべく、古くからこの街にあるという、どんな建物よりも高い螺旋階段を登った。どこまでも、どこまでも。
やがて、少年は頂上近くまで到達した。雲が手に取れるほど近いそこで、彼は驚くべき光景を見た。天に架かった蜘蛛の巣では、鬼のような顔をした蜘蛛が、糸に掛かった人間を喰っていたのだ。天国など、とんでもない。あの糸は、地獄への招待券だったのだ。
天国などなかった。簡単に手に入る幸せなど、どこにも。もし、あるとすれば……。
生きよう。少年は、固く心に誓った。