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銀幕
老婆はこの道六十年の大ベテラン女優だ。その彼女が、人生最後の演技と決めた映画の撮影に励んでいた。彼女の役は、心臓病を患った母。難しい役だったがしかしそこはベテラン、何の問題もなかった。彼女の演技は真に迫り、本当に今にも死んでしまいそうで、それでいて撮影が終われば途端に元気になるのだから、いかにその技能が高いか伺えた。
そして迎えたクランクアップ。ラストは母の死を息子が看取るシーンで、誰もが老女優の演技に息をも忘れた。勿論、一発OKだった。鳴り止まぬ拍手が、彼女に送られた。
だがどうしたことか。彼女はいくら経っても起きあがってこない。そこで一人のスタッフが、彼女の様子を見に行き……驚愕した。彼女が本当に、息を引き取っていたからだ。
彼女は心臓病患者だった。命がけの役作りをしていたのだ。それを周囲に悟らせなかったのは、彼女の演技力のなせる技だろう。享年八十。正に、銀幕へ捧げた人生であった。




