78/84
霞
この街は、霞で覆われている。
人も、車も、ビルも、なにもかも、はっきりと目には映らない。全て曖昧だ。隣を行き違う人でさえ、私の記憶に残らない。
この街で、私はひとり。よくできたセットの中で、人形と生活しているようなもの。
一体誰が、私を私と認めてくれるんだろう。この存在を、肯定してくれるんだろう。
そんなことを考えて歩いていると、人にぶつかってしまった。思わず倒れる。すいません、と咄嗟に言う。けれど、それを聞く人はいなかった。人の波は、まるで最初から何もなかったかのように、道を行き交っている。
……ああ。きっと私も、霞なのだ。
私も多分、誰かが作ったセットの一部で。人から見れば、ただの人形に過ぎないんだ。
ねえ。誰か、私を必要としてください。
私に、生きる意味を教えてください。
そのときはきっと、霞は風で散って。その先に、色のある世界が広がっているから。




