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雷(いかづち)

 昔、付き合っていた女が居た。特に取り柄がなく、かといって欠点もない、ごく普通の女だったと思う。ただ、ある一つのものに異常なほど執着している点を除いては。

 雷。空が灰色に覆われているとき、彼女はずっと天を見上げていた。その時だけは、何を言っても生返事しかしなくなる。その時彼女の目は、人形のように虚ろなのだ。

 一度だけ、晴れの日に理由を聞いたことがある。彼女は、空を見ながらこう答えた。

「雷ってね。“あっち”と“こっち”が交信してる合図なんだって。電話みたいにさ」

 何でも、彼女の親は両方とも他界しており、その死に目に会えなかったことをずっと後悔しているのだとか。程なくして彼女とは別れたが、つい先日、その訃報が届いた。雷に打たれての感電死らしかった。果たして彼女はそれを、望んでいたのだろうか……。

 今も、雷が鳴ると、空を見上げてしまうのだ。居るはずのない、彼女の声を探して。

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