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響(ひびき)
月夜が照らす畦道を、星を見て歩く。唯一、田舎暮らしでよかったと感じる瞬間だ。
にしても、綺麗な満月だ。こんな夜は、歌でも歌いたくなる。どうせ辺りには誰もいない……と、僕は鼻歌交じりに歩き出した。
暫くそうしていると、いつの間にか、辺りが妙に騒がしいことに気づいた。……蛙だ。田んぼのあちこちから、合唱している。それも、物凄い数だ。(蛙も、月に歌いたくなったのかな)などと考えていると、今度は強風が吹き、森を揺らした。木々が呻く。すると今度は虫、鳥、猫、田んぼの稲に至るまでが、共鳴したかのように、それぞれ音を奏でだした。歌はどこまでも遠く、大きく、響いていく。まるで、自然のオーケストラ。
瞬間。ゴッ! 唸るような轟音と共に、僕の体が大きく傾いた。地震だ……そう気づいたときには、もう揺れも、音も収まり、代わりに、嘘のような静寂だけが残っていた。
地球の歌を、僕だけが聴いていた。




