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天国への階段
少年には祖父がいた。祖父は以前、名うての建築家であったが、妻を亡くしてからは日に日に衰え、今では何のためか、屋外に螺旋階段を作り、天へと伸ばしていた。階段はいつか、街で一番高い建造物と化していた。
周囲の人間は、彼を狂人と嘲った。しかし、いくら少年が懇願しても、祖父はうわごとのように妻の名を呼ぶだけで、けしてその手を止めようとはしなかった。だがしばらくして、その祖父も病に倒れ、体を動かせなくなった。少年は、祖父を看病して暮らした。
ある日、少年が家に帰ると、祖父の姿がなかった。少年は、慌てて階段を登った。いくら登っただろう。頂上が見えた頃、階段の半ばで祖父が倒れていた。既に息はなかった。
ふいに、地響きが聞こえた。大きな津波だった。少年は、夢中で頂上へ駆け上った。下の方で、祖父の死体が流れていくのが見えた。その顔は安らかで満足気だった。少年は水に沈んだ街を、いつまでも眺めていた。