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サドル
母から自転車を譲り受けた。補助席のついた、古いママチャリ。所々錆びていたが、十分使えるだろう。
試しに、乗ってみる。丁度良いサドルの高さ。子供の頃は、あんなに高く思えたのに。
私が保育園の頃、通園はいつも、この補助席だった。幼い私は、ここから眺める、流れてゆく景色に、いつも目を輝かせていた。
今。私がここで見ているのは、母の景色だ。私を守った、母の目線だ。私はそれを、受け継いだんだ。そう思うと、どこか気が引き締まる思いがした。
私もいつか、子供にあの景色を見せられるだろうか。あふれる輝きと……強い、母の背中を。
「おーい! ちょっと来てくれ! 赤んぼが漏らしてる!」
……なんて。まだちょっと、早いかな。
はーい、と返事をして、私は、子供の所へと向かった。




