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車輪
この世界のどこかに、それはいる。
この世界のどこにも、それはいる。
車輪男。
それは例えば、二人が幸せを確信する結婚式に。それは例えば、社員が喜んで身を尽くす会社に。それは例えば、旅人が自転車を捨て、安息の地と腰を据える町に。
友人との宴会に。入学の日の学校に。啓発者の演説に。薄っぺらなテレビの中でさえ。
そいつはどこだって、車輪を回している。どこかで聞いた歌を口ずさみながら、抱えた一輪車を、ずっと回し続けているのだ。
車輪は、タロットにおける運命。坂を転がる輪のごとく、抗い難い力。人はそれに負け、夢を捨てる。そいつが車輪を回すとき。それは、誰かが何かを諦めるとき。何も考えず、ただ楽な方へ転がっていくときなのだ。
それは果たして良い事か、悪い事か。それはわからない。ただ、今日もそいつは一輪車を抱えている。車輪はずっと、回っている。




