52/84
愛車
軽快に走る赤のスポーツカー。こいつが俺の愛車だ。楽しい時も辛い時も、こいつはいつも一緒だった。こいつの傷の場所も、細かいクセに至るまで、俺は全て知り尽くしていた。いわば、恋人のような存在だった。
だが、こいつもそろそろ限界が来ている。愛車だからこそ分かるのだ。今までは直し直やっていたが、今度こそ本当に休ませてやるときがきたのかも知れない。
俺は散々迷った挙げ句、こいつを売ることにした。涙ながらに手続きをし、愛車と別れる。去り際のそいつはどこか、寂しそうに見えた。俺は振り返ることなく、店を出た。
数日後、俺は新しい車に乗っていた。まだ愛車とはいえないが、少しづつ、こいつのことを知っていくつもりだ。
「うおおっ!?」急に、衝撃が訪れた。どうやら追突されたようだ。畜生、新車だっていうのに。俺は苛立ちながら、ミラーを見た。
スポーツカーの、赤いボディが映った。




