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深海魚
少女は生まれた時から深海魚だった。視力が無く、耳も殆ど聞こえない。宇宙のような無の空間の中で、彼女はずっと生きてきた。
しかしそれとは関係なく、“海の外”はめまぐるしい速度で変化した。結果、彼女の目と耳を治す技術も完成した。それはすぐに施され、少女は常人と同じ感覚を手に入れた。
だが、闇に慣れきった少女の感覚は、多量の情報を素早く処理する必要のある現代社会において全く機能しなかった。また、そうやって翻弄される彼女を笑う者もいた。そして少女には、以前なら感じなかったそれら……嘲笑を、奇異の目を……皮肉にもよく感じられるのだった。“闇”。それはいつからか、彼女を守る壁になっていたのだ。
ある時。少女の目が無惨にも抉られる事件が起きた。傷は深く、今度こそ治療は不可能ということだった。周囲の人々が嘆く中、少女だけが、誰にも気づかれず、笑っていた。その手に、血の付いた鉛筆を握りながら。




