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陽炎
何を見てるの?
君がそんな顔をする。私は遠くを指さす。
「あそこ。地面がゆらゆらしてるでしょ? かげろう、って言うんだって。暑い日にね、暖められた空気が……ねえ、聴いてる?」
君はばつが悪そうに笑う。私は少しむっとして、でもやっぱり、君と一緒に笑う。
「あのね、虹と一緒なんだって。近づいて、どんなに手を伸ばしても、離れていっちゃう。絶対に、届かない……」
ふと、私の名を呼ぶ声がした。母だ。
「ああ、こんなところにいたのね。よかった。急にいなくなっちゃうから……それにしても、“一人”で何してたの?」
「ううん、なんでもない」
「そう? 帰るわよ。お墓参りも済んだし」
振り返ると、君はもういなかった。
陽炎。
夏の日のまぼろし。光の中の夢。
また、来るね。




