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人面犬
「悪いことをすると、ちゃんと死ねないの。罪が償えるまで、罰を受けるのよ」それが、祖母の口癖だった。が、俺はこの時だけは、それを守れる気がしなかった。目の前の犬が、俺の家族を巻き込んで死んだ飲酒運転犯と瓜二つだったからだ。勿論、犬に罪はない。だが俺は、このやり場のない感情を向ける相手が、そいつ以外に見つからなかった。
犬は、何も言わずこちらを見ている。その表情が、写真で見た奴の顔と重なり……気づけば俺は、その腹を蹴り飛ばしていた。犬が悲痛な声をあげて宙を舞う。だが俺は怯まず、寧ろふっきれた様に犬を虐げ続け……我に返った時。犬はもう息をしていなかった。途端に怖くなった俺は、夢中でその場を逃げだして――出てきた車にはねられた。
気づくと、俺は犬になっていた。目の前には、俺が殺した犬の飼い主。憎むような目つきをしていた。「ちゃんと死ねないの。罪が償えるまで」祖母の声が聞こえた気がした。




