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ペン回し
とても無口な少年がいた。彼は何をやっても鈍臭く、頭も悪かったが、ペン回しだけは上手かった。暇さえあれば、まるでそれが友達であるかのようにペンを回していた。
その少年が事故に遭ってから随分経つ。今彼は、全身麻痺の植物人間として眠り続けている。はじめは誰もが諦める程の重傷で、生存すら危うかった。が、どうにかここまで回復したのだ。それは彼の生きる意志の賜として、いつしかメディアにも取り上げられ、やがて世界中の人々から寄付が集まるようになった、誰もが彼の目覚めを祈り、応援した。
そしてついに、その日がきた。多くのカメラと観客が見守る中、彼の目が静かに開かれた。歓声が上がる。涙を流す者もいた。そんな中、彼が一本のペンを要求した。「何か伝えたいことが!?」リポーターが駆け寄る。そして彼は、世界中が見守る最中――無言でペンを回し始めた。彼は後に、“世界を回した男”として語り継がれている。




