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感情の水

 人の心をコップとして。

 感情という水を注ぎ込む。色は何でも。怒り。悲しみ。寂しさ。嬉しさ。憎しみ。喜び。慈しみ。ときめき。善意。悪意……。

 次第にそれは、自然と溢れてこぼれ出る。やり場がないので、受け止める。紙や、喉や、掌で。すると勝手に、それは何かを描き出す。形になる。ほかの心までをも打つ。

 そうして生まれたものを、人は度々、傑作だとか、名品という。あふれ出る感情の、選りすぐりの一滴を。人は崇める。賞賛する。

 だが、暫くすると、水はなくなる。なくなれば、増えることはない。コップの中にあった水も、次第に、乾いて、蒸発していく。衰退の瞬間。引き際と呼ばれるライン。

 だが、以前の感覚が忘れられない者がいる。溢れる一滴の、掬いあげる感覚を。そういう者が、コップを倒す。残り少ない水を、最早腐った粗悪な水を、世に流し続ける。

 それが、表現者と呼ばれる存在である。

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